aimi「私の人生そのもの」 J-R&B史上屈指の傑作「The Bdst.」から『Empower.Embrace』完成に至るまで

aimi 4th EP「私の人生そのもの」

 キャリア史上最高傑作。いや、日本のR&B史上でも屈指の傑作となったaimiの新曲「The Bdst.」。トラック、リリック、ライミング、メッセージ、ボーカリゼーション……どれをとっても、何度聴いても聴き応えのあるこの曲を先行シングルに据え、彼女が約3年ぶりとなる4th EP『Empower.Embrace』を完成させた。“今回のEPは私の人生そのもの”――そう語る胸中にはどんな思いがあるのか。また昨年辺りから楽曲のクオリティが飛躍的に上がっているが、そこにはある意識改革があったとも話す。「The Bdst.」の完成度を高めた細かなこだわりを紐解きながら、EPに込めたメッセージや新録曲の制作背景、さらには2月に開催する初ワンマンライブのポイントなど、さまざまな角度からaimiの現在地を探った。(猪又孝)

〈一人だけど孤独じゃない〉“The Baddest”な女性たちへのエール

aimiインタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

――EP完成おめでとうございます! まずは先行シングル「The Bdst.」の制作経緯から教えてください。

aimi:「Sippin’ Sake」を一緒に作ったYui MuginoとModesty Beatsと、Modestyのトラックがある状態から作っていきました。実は「The Bdst.」の方が先に取りかかっていたんです。時期は2024年の夏から秋にかけてですね。

――EPに向けた制作だったんですか?

aimi:そうです。ソングライターとコライトして楽曲を作ってみたいと思っていた時期にムギ(Yui Mugino)と再会して。来年EPを出そうと思っているんだけど、その楽曲を一緒に作りたいんだよねっていうところからスタートしました。

――「The Bdst.」制作にあたってaimiさんが求めたサウンド像は?

aimi:一昨年から去年にかけてヴィクトリア・モネをたくさん聴いていて、彼女のようなソウルフルなR&Bアンセムを作りたいと思っていました。温かみがあるんだけど今っぽいサウンド。Modesty Beatsにもそんなふうにリクエストしました。

――タイトなトラックに絡みつく小刻みなベースラインがめちゃくちゃソウルフルで痺れました。

aimi:わかります! 良いベースラインですよね! 他にはLucky Dayeとか、D'Mileワークス感がすごく出ているトラックだなって思います。

ーーYui Muginoさんはシンガーとして活動する他、たくさんのアーティストに楽曲提供しています。彼女とは長い付き合いなんですか?

aimi:私がaimiとして活動する前からシンガー同士として友達で、ムギが主催するイベントに私が出たりしていたんです。お互いの道を歩んできて、彼女は作家として大成して、私もaimiという名義で本格的にR&Bをやりだして。もともと彼女はビヨンセやリアーナを聴いて育ってる世代なので、私のプロジェクトでタッグを組んだら絶対面白いことになると思って声をかけました。

――そもそもソングライターとコライトしてみたいと思ったのは?

aimi:海外のR&Bはコライトが当たり前の時代になっているけど、日本だと自身で作詞作曲しているR&Bシンガーが多いと思うんですね。フォークやニューミュージックから続くシンガーソングライター文化がそうさせるのかなと思うんですけど。でも、自分の楽曲やボーカルプロダクションの質を上げようとしたらコライトはマストかなと思ったんです。もっとレベルを上げるにはすごい人とやるしかない。そう思って挑戦しました。

――LEJKEYSと「I’m OK」でコラボしたことも要因のひとつですか?

aimi:そうですね。LEJKEYSと一緒にスタジオで作業することで、その場でセッションすることへの不安が払拭できて自信がついたんです。今回のように歌詞もコライトするのはハードルが高いことだったけど、それがカチッとハマったのが「The Bdst.」でした。

aimiインタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

――メロディや歌詞はどういう手順で作っていったんですか?

aimi:トラックを流しながらその場でお互いにフリースタイル、レッツゴーです(笑)。お互いに宇宙語で歌って「ここ良かったね、あそこ良かったね」っていう部分を選んでいく。ムギはそういう作業が早いので、あっという間にメロディが完成しました。だから実際に歌ったのはお互いに2、3回くらい。そのあと歌詞を書きました。

――歌詞はどんな思いから?

aimi:私の実体験をもとにしています。自分が好きなモノを否定されたり、自分をありのままに受け入れてもらえなかった夜があって、苛立ちというか、フラストレーションを感じていたんです。でも、そういう経験ってたくさんの人がしていることだろうし、「なんでこんなこと言われなきゃならないんだろう」ってことはよくあると思うんです。そういう経験をしたことがある子たちが聴いてスカッとするような歌詞にしようと決めて書き出しました。

――「見てろよ、この野郎!」みたいな悔しさを表現したかったですか?

aimi:いや、余裕綽々な感じですね。いろいろ言われるけど、それを気にも留めてない。「ここでモヤモヤしている時間はございませんの」って振る舞う感じ。

――「で、なにが?」みたいな。

aimi:だから、サビでも〈Keep talking ‘bout things you think that I should do/I’m coming up on you/What you gonna do hey(あなたは私がやるべきことをずっと語ってるけど、私はもうすぐそこだよ。で、あなたはどうするつもり?)〉って歌ってる。相手が言ってくることに対してへこたれてない。相手に目の前10cmで言われたとしても「で?」って言い返すくらい余裕な感じをこの曲では大事にしたんです。

――曲の始まりでも、「もうメイクを直して出かけなきゃ、またあとでね」と歌ってる。

aimi:サビの終わりでも、〈On my own, but not alone I rise and shine(一人だけど孤独じゃない、私は立ち上がり輝くの)〉って歌っていて。こういうことを20~30代のたくさんの女性たちが経験してきているだろうと思ったから、私たちはそれでも立ち上がって輝くのよってエールを送りたかったんです。なぜなら私たちは最強=The Baddestだからって。

――歌詞はMuginoさんと一緒に書いていったんですか?

aimi:最初に私ががっつり書いて、ムギに赤ペンを入れてもらいました。「ここはaimiちゃん、ひるんでるよ」とか(笑)。「ちょっと優しくなりすぎてるよ」「キャラがブレてるよ」とか。最初に書いた歌詞はもっと英語詞が多くて8割が英語だったんです。でも、この曲を先行シングルで出したいと思ったから、もっと日本語を増やそうと考えて、“マイクを握って全てbetするステージへ”とか、私のリアルに近づけた日本語詞に変えていきました。

“意識の行動”が変えたaimiの歌

aimiインタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

――今回の曲はかなり韻を踏んでますよね。1ヴァース目はほぼ全踏みというくらい押韻しているし、サビでは英語と日本語で響きを合わせてる。

aimi:ライミングはムギと結構細かく詰めていきました。難しかったのはサビの〈Keep talking ‘bout things you think that I should do, I’m coming up on you, What you gonna do, Hey〉というフレーズ。これを日本語に置き換えるのが大変でした。Keep talking ‘boutを”自分次第“、things you think that I should doを”好きに生きるMy Life My Rule”、I’m coming up on youを“わたしらしく”、What you gonna do, Heyを“ただ進むだけ”としていって。英語のグルーヴを日本語でキープしながらメッセージもぶれさせないっていうのがこだわった部分ですね。

――昨年リリースの「Sippin’ Sake」以降、歌詞に抑揚がついたというか、ポイントになる言葉がグッと前に出てくるようになったように思います。その変化はどこから来ているんでしょうか?

aimi:今回のEPは初めて日本語詞が多いんです。3rd EPの『Chosen One』までは日本以外のリスナーに届いてほしいと思っていたので、その心境の変化がまず大きいですね。あと、いちばん変わったことは、ボイストレーニングをするなかで“言葉を歌う”ということを1からやり直したんですよ。

――というと?

aimi:意識を徹底的に変えたんです。演技の世界の話で“意識の行動”っていう考え方があって。声を発するときにどの意識を持っているか。その意識を持っているからその声が出るっていう。

――苛立っているときは怒気を含んだ声になるとか?

aimi:そう。どんな行動をしたいかという意識によって声の発し方が変わる。そのことについてここ半年くらいずっとトレーニングしてきて、テクニカルなこと以上に、言葉をどう相手に伝えるかということに向き合ったんです。

――それって感情移入の精度を高めたっていうことなんですか?

aimi:悲しいとか嬉しいとか、そういう感情ではなくて、相手を振り向かせたいとか、ハッとさせたいとか、黙らせたいとか、相手にさせたい行動を意識するんです。だから、自分の歌を可視化したんですよ。なぜこの言葉を発したいのか、どういうふうに発したいのか、どんな態度で、どんな心情で、ここを歌っているのか。その言葉が何回も出てくるんだったら出てくる度に意識が違うはずだから、それを徹底的に書き出していって、レコーディングする前にここは緑色、ここは黄色、ここは青色っていうふうに全曲の歌詞をマーカーで色分けしていきました。

aimiインタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

――「The Bdst.」は特に2ヴァース目の冒頭の歌い回しがすごかったです。1行目は情熱的で戦闘モードだけど、2行目にいくとふわっと余裕がある感じで歌っている。切り替えがお見事でした。

aimi:歌の表情が違うと思います。歌詞を書く上でも意識の行動が出ているし、日本語を歌うとなったときに、この“意識の行動”がすごく重要になってくると思ったんです。

――サビも2コーラス目の方が語気が強いから、“私は私でやるんです!”感が一層強く伝わってくる。

aimi:今回のEPに『Empower.Embrace』と付けた時点で、自分のために作ったEPじゃないなと思ったんです。今までのEPは自分のために書いた曲が入っていたと思うんですけど、今回は書き進めるうちに誰かのために書いてるなと思えてきて。であるなら、メッセージが伝わることが大前提だなと思って歌の根幹から見直したんですよね。

――「Sippin’ Sake」の歌い方も“意識の行動“の賜物でしょうね。声色がとてもセクシーでした。

aimi:そのニュアンスを出せた曲でしたね。ただ、歌うのがめっちゃ難しい曲(笑)。

――「Sippin’ Sake」は、超絶ハイトーンのバックコーラスもすごかったです。よくあんなに高い声が出せるなって。

aimi:喉の手術をしていなかったら、あの音域は出なかっただろうなと思います。ボーカリストとしてすごく鍛えられた曲ですね。あのボーカルプロダクションはムギのセンスです。あのコーラスの積み、フェイクの積み。特にフェイクの積みはヤバいですね。本当に超難しい。

――Muginoさんはディレクションをビシバシ入れてくるんですか?

aimi:めちゃくちゃスパルタでした(笑)。「それ、どんな気持ちで歌ってんの?」「伝わってないかも」みたいな。「Sippin’ Sake」は、私の中で大発見があったレコーディングだったんです。そのあと「The Bdst.」を録ったから、もう少し順調に作業が進んだんですけど、それでも学びが多かった。彼女はグルーヴの鬼で、息の使い方がすごい人なので、如何に歌をフロウさせるかっていうことを教えてくれたんですよ。

――そうなんです。歌に推進力があるんですよ。力強くグイグイ進んでいく。

aimi:ずっとkeep flowing、風のように声が前に進んでいく感じになっていて。それは “意識の行動”だけではやりきれなかった、ムギのディレクションのおかげだなと思います。でも、R&Bって本当に“歌”のジャンルだから。歌が強くなければ話にもならないと思っていたんですけど、それを改めて痛感したし、去年はそれをアップデートできた年だったんです。アップデートをちゃんと曲に落とし込められたと思うし、それが自信に繋がって、すごく制作が楽しかったです。

aimi - The Bdst. (Official Lyric Video)

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