炎上、コロナ禍を越えた『温泉むすめ』の現在地 地域へのAI展開や最新ライブを経て“50年計画”はフェーズ2へ

少し足を踏み入れた“温泉むすめ50年計画”フェーズ2

――そこまで実現すると、『温泉むすめ』は温泉地にとってこれまで以上に実用的な存在となりそうですね。

橋本:これは自分の皮算用というか、絵空事も含めての計画ですが、“温泉むすめ50年計画”というのがありまして、今はとにかく現地の方々に活用してもらってキャラクターを浸透させていく“フェーズ1”の段階です。今年でプロジェクトが本格始動して8年経ちますが、現在『温泉むすめ』は127キャラいまして、そのうち85%を超える110カ所の温泉地で活用されています。特に人気の真尋ちゃんは、毎週のように地元のテレビや新聞に登場し、福島県ではちょっと有名なキャラクターになっています。これくらいの存在になるまで最低10年や20年はかかると思っていたので、計画よりは全体的に早く進行しています。現地での知名度が上がり、集客の問題もある程度解決できたら、フェーズ2で取り組むべきミッションとして想定していたのが、『温泉むすめ』たちが温泉地にさらに貢献することで必要不可欠な存在になる、すなわち課題となっている人手不足や多言語化への対応でした。それをデジタルの力で実現しようと考えていたので、AIに取り組んだことで計画は“フェーズ2”に少し足を踏み入れたことになります。

――今の話にあった活用というのは、各温泉地での温泉むすめのパネルを設置したりグッズを販売したりといったことですよね?

橋本:そうです。こちらから営業をしているわけでもないのに今では多くの温泉地で活用いただいているのは、イベントやグッズ購入のために現地に足を運んでくださる『温泉むすめ』ファンの力が認められているためです。特にコラボ宿泊プランは好評ですね。旅館の稼働率って平日は2、3割が平均なのですが、『温泉むすめ』ファンは曜日を問わず来てくれて……。しかも平日休日合わせた稼働率の平均が8割を超えているというコラボ宿泊プランもあります。そういったファンの方々のおかげで、これほど温泉地に送客できるコンテンツになりました。

――『温泉むすめ』のプロジェクト開始時はアイドルコンテンツ色が強かったと思いますが、明らかにその色が変わりましたよね。地方活性化のほうに針を振ったというか。

橋本:そうですね。それはコロナ禍で以前のように頻繁にイベントができなくなり、現地でしかオリジナルグッズが買えないようにビジネスモデルの転換をした影響が大きいです。かつては秋葉原のアニメショップでもグッズを販売していましたが、それもすべて引き上げました。そうすると弊社の売上は確実に落ちるので苦渋の決断でしたが、オリジナルグッズを目当てに1人でも多くのファンの方に温泉地に足を運んでもらおうと。そうした転換によって、結果的にはほかのコンテンツとの明確な差別化にも繋がっています。最近は地方とのコラボを積極的に行うコンテンツやキャラクターも増えてきましたので、業界全体で見てもかなり先駆けだったと感じでいます。

――儲けは度外視だと。

橋本:はい。これは1つの例ですが、『温泉むすめ』の公式缶バッジはいまだに税込300円で販売しています。おそらくそんなコンテンツは珍しいんじゃないでしょうか。儲けを求めるなら売れ筋グッズである缶バッジを500円、アクリルスタンドを1,500円で販売してもいいと思うんです。でも温泉地も我々も利益よりは、遠方から交通費や宿泊費をかけてわざわざ来てくださるファンのみなさんに少しでも安くグッズを提供したい。そのぶん、なるべく多くの人が温泉地を訪れ、世界に誇れる素晴らしい文化である“温泉”を体験してほしいという思いがあります。それはコロナ禍の渦中に決めた方針のひとつです。

久々のライブで示す、ファンへの感謝と新旧融合

――ここまでの話で『温泉むすめ』は温泉地を大切にし、ファンを現地に送る観光地支援型のプラットフォームになっているとわかりました。そんな中、久々に東京で単独の音楽ライブを開催する理由をお聞かせください。

橋本:プロジェクトの立ち上げ当初は、ビジネスモデルの柱のひとつとしてイベント興行がありました。それがコロナ禍で成り立たなくなって今のモデルにシフトチェンジしましたが、それでも今回5年ぶりにライブイベントをするのは、これまで支えてくださったファンへの感謝に尽きます。

――と言いますと?

橋本:『温泉むすめ』は、昔からマス的な展開をあえて行わず、トレンドのボラティリティを作らないことを目指す、いわゆるニッチなコンテンツで、固定のファンの方を中心に楽しんでもらっていたコンテンツでした。その一方で、最近はNHKの全国版のニュースや『マツコの知らない世界』(TBS系)などのTV番組に取り上げられたりして、新規のファンも増えているんです。実際にカップルや家族連れ、外国人の人もグッズを買いに来ていると温泉地からの声もあり、明らかに客層が広がっています。ただ、そんな新規の方々は『温泉むすめ』を「温泉地にパネルやグッズが置いてあるコンテンツ」「たまに地方でイベントをするコンテンツ」と認識している方が多いと思うんです。つまり『温泉むすめ』が実は8年もやっていて、その間にコミックがあったり、小説があったり、メジャーレーベルからCDを出して音楽ライブを頻繁にしていたり、『SUMMER SONIC』に出演したこともあることを知らない。だからそういった過去に力を入れていたことを改めて知ってもらうきっかけにしようと。今回のライブを通して新しいファンの方々に『温泉むすめ』の多様性を知っていただきたいです。

――それでライブタイトルが、新旧融合を思わせる『FUSION☆FUSION!!』になったと。

橋本:おっしゃるとおりです。ライブには立ち上げ当初に結成されたSPRiNGSからの選抜メンバー4人と新ユニットのVUCCAの4人が出演しますが、SPRiNGSはSPRiNGSだけの曲を歌うとか新ユニットも彼女たちの曲だけを歌うというわけではなく、ユニットの縛りはある程度なくして、ほかのユニットの曲も含めてどんどん歌ってお客さんに楽しんでもらうことを目指しています。

――これまで多数作られてきた『温泉むすめ』楽曲がいろいろ聴けそうですね。

橋本:VUCCAは後輩ポジションというユニットの設定があって、「先輩、その曲いいっすね。ちょっと歌っていいっすか?」みたいな流れがあると思ってもらえれば。裏事情としては、既存のユニットに所属されている声優さんがそれぞれ人気になってしまって、なかなか揃えるのが大変になってしまったというのもあります。だからこそ機動力のある声優陣による新ユニットに、スピーカー役として『温泉むすめ』が作り上げてきたユニットや楽曲の良さを発信してもらおうと考えています。

――2024年の飯坂温泉でのイベントでは、ミニライブでAKATSUKIやAdharaといったユニットの曲を出演者が披露していました。それは今回のライブに向けての実験的な意味合いもあったのでしょうか?

橋本:まさにそうです。我々はイベントのたびにアンケートを取っていますが、2024年の飯坂温泉イベントではその点の評価がすごく高くて。もし「ほかのユニットの曲を別の温泉むすめが歌うのは違う」みたいな意見が多数を占めていたら今回のライブの内容も検討する必要がありましたが、とても好評だったのでトライしてよかったです。

福島・飯坂温泉でのイベントの様子
福島・飯坂温泉でのイベントの様子

――VUCCAのメンバーは、かみのやま庵役の進藤あまねさんと福地珊瑚役の反田葉月さんに、まだ未発表の新キャラクター役の鈴木杏奈さんと立石凛さんの4人ですね。

橋本:どちらの未発表のキャラクターも現地から『温泉むすめ』を作ってほしいとご連絡をいただいて制作したキャラクターです。近年は新たにキャラクターを作るのもたくさんのオファーがあって順番待ちという状態が続いていて、立石さんが担当するキャラクターは実現まで3年以上お待たせしてしまいました。

――これまでのユニット同様、VUCCA用の新曲も作られるんですよね?

橋本:はい、ユニット曲2曲と、ソロ曲も全員分用意します。と言ってもかみのやまのソロ曲はすでに発表しているので、新曲は合計5曲です。これまでサウンドプロデュースはすべて自分がやっていましたが、今回は声優のキャスティングなどプロジェクト始動時から長らく携わる吉村尚紀さんに一任しています。

【試聴動画】ココロコノママ「かみのやま庵(CV:進藤あまね)」【#温泉むすめ】

――『温泉むすめ』のユニットはそれぞれ楽曲的な特色が明確にありますが、VUCCAはどんなコンセプトになるでしょうか?

橋本:ソロ曲はこれまで同様のアニソンらしいものになると思います。ただユニット曲に関しては「J-POPにしてほしい」とお願いしました。世界市場ではK-POPに押され気味なところもあるし、我々は声優さんに歌っていただきますが、それでもJ-POPの魅力をしっかりアピールしていきたいし、ひいてはグローバルスタンダードを目指したいと考えてリクエストしました。このインタビューを受けている段階ではまだ楽曲ができていませんが、おそらく色々なジャンルをミックスした楽曲になると思います。

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