浅野ゆう子、芸歴50周年の感謝を届けた新しい歌声 “ディスコクイーン”の帰還の歓びに満ちた夜

浅野ゆう子、芸歴50周年記念ライブレポ

 2003年に浅野が出演した連続テレビ小説『てるてる家族』(NHK総合)は、なかにし礼の小説『てるてる坊主の照子さん』(新潮社)が原作。作詩家・作家生活50周年記念アルバム『なかにし礼と13人の女優たち』に参加した際の曲「あなたしか見えない」は、中盤での印象的だったひと時として思い出される。胸の内で揺らぐ心情を滲ませた歌が、曲のなかに広がる物語を豊かにイメージさせてくれた。演技の世界で培ってきた表現力も注がれていたのだと思う。

 歌い終えたのち、「私のなかで宝物のように輝いている作品は、たくさんあります。どれも私の宝物です」と、出演してきたドラマ、映画、舞台の数々を慈しんだ彼女は、“トレンディドラマの女王”と呼ばれるきっかけとなったドラマ『抱きしめたい!』(フジテレビ系)について触れた。下田で行われたタイトルバックの撮影の際、宿泊施設の廊下で挨拶を交わしたのが同い年の共演者、浅野温子との初対面だったのだという。「彼女は私にとって本当に特別な人です。朋友。一緒にいい時代を過ごしてきた仲間。一緒にバブルを乗り越えてきた戦友。とってもいい仲間。だから元気で頑張っている姿を見るのが嬉しいです。あっちゃん、金髪にして、髪の毛を短くしました。私は切りません(笑)。いつかふたりでまた新しいことができるといいなあって思っています」――このMCを経て披露されたカルロス・トシキ&オメガトライブ「アクアマリンのままでいて」は、『抱きしめたい!』の主題歌。あのドラマの放送が楽しみで仕方がなかった思い出がある観客は、聴きながら胸がいっぱいになったに違いない。

 化粧品の夏のキャンペーンガールを務めた際にリリースされたセルジオ・メンデス作曲の「サマーチャンピオン」に続き、1985年にリリースされた歌手時代の最後のシングルのB面「REZA」も披露。情熱的なラテンサウンドは、彼女にとてもよく似合っていた。そして本編ラストの直前に迎えた小休止では、“座長”と呼んで慕っている三宅裕司が作詞をした新曲「わくわくマンボ」の誕生に至るまでの経緯が語られた。「ウーッ!」という掛け声を上げてから親指を立てた拳を掲げる振り付けの練習を経て曲がスタートすると、陽気なムードで満たされた会場内。おおたけ&西海が加わったパフォーマンス、躍動するマンボのリズムが明るくて楽しい。踊る観客を眺めながら、浅野は笑顔を輝かせていた。

 「大奥総取締、瀧山にござります」――アンコールを求める手拍子に応えて彼女がステージに再登場した際は、『大奥』の瀧山が憑依したセリフがピリリと響き渡った。身を包んでいた着物は、ドラマと舞台で実際に着用したものなのだという。「高いので脱ぎますね」と言って和やかな笑いを誘った彼女は、カジュアルなデニムとTシャツの姿で現した。「楽しい時間であっという間だったんですが、これを機会にまた歌、どうですかね?」と観客に問いかけると、届けられた特大の拍手。支えてくれているさまざまな人々に感謝してから歌い始めた「すべてのあなたに」が、コンサートを締めくくった。あたたかであると同時に凛々しい歌声は、あらゆる人を大切にしながら仕事や日々の出来事と真剣に向き合ってきた50年の軌跡を伝えてくれた気がする。作詞をした三宅の言葉を借りるならば、この曲は“浅野ゆう子版マイウェイ”。本当にその言葉がふさわしい歌だった。

 歌い終えたのち、バンドメンバー、おおたけ&西海、AMAZONSをあらためて紹介。「私の宝物にさせてください」と記念撮影をしてからステージをあとにした彼女を拍手と歓声が見送った。こうして終演を迎えた『YUKO ASANO 50th ANNIVERSARY SHOW「KANSYA」』東京公演。胸打たれる場面がたくさん生まれたコンサートであった。

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