ぜったくん、edhiii boiコラボで得た新視点 NEWSへの楽曲提供の真髄も「“かわいい”には普遍性がある」

ぜったくん、コラボで得た新視点

edhiii boiと共鳴した音楽への思い「ずっと楽しいし無敵だと思っている」

ぜったくん(撮影=はぎひさこ)

――リリックの話に戻りますが、サビの〈生きるのうますぎんだろ〉というフレーズはこの楽曲の核になっていますよね。

ぜったくん:本当にそう思います。僕、お風呂に入るのが結構苦手なんですよ。だって、めっちゃめんどくさいじゃないですか(笑)。もちろん何かある前はちゃんと入りますけど、仕事とか用事が続くと時間がなくなるし、ずっと家にいる時は本当に面倒くさい。けど、みんなは毎日風呂にも入ってるらしいし、そのうえ洗濯までやってるなんて、「生きるのうますぎでしょ!」と思って(笑)。「皿とかいつ洗うの?」「歯医者とかいつ行ってるの?」って思うんですよね。

――この曲でも〈歯医者はキャンセル〉と歌っていますね。

ぜったくん:だって、歯医者の定期健診の予約とかします?

――正直、自分も歯医者はめんどくさいです(笑)。

ぜったくん:そう、予約するのも行くのも面倒くさい(笑)。それは誰だって一緒だと思うんですけど、みんなはなんかうまくやっているように思える。その気持ちをリリックにしました。

――〈生きるのうますぎんだろ〉という気持ちは、裏返すと、自分は生きるのが下手だと感じる瞬間があるということですよね?

ぜったくん:そうですね。歯医者をキャンセルしている時もそう思うし(笑)。あとは〈肩書きだって/新卒だって/捨てちまってローリングローリングストーン〉というリリックもそうで、僕は新卒で入った会社を1時間で辞めたんですよね。でも、同級生はみんな転職したり、キャリアアップの話をしていて。そういうのを見てると「ええ〜、自分って下手なほうなのかなあ〜」と思ったりはしますね。

――と言いつつ、この楽曲でも結果的には〈けど楽しい/曲できた時おれ宇宙いける/楽しい/音楽聴いている無敵になれる〉と歌っています。

ぜったくん:それだけが救いとも言えるし、音楽を聴いている時ってなんか無敵になれるじゃないですか。強い感じのHIPHOPを聴いてると、歩幅とかめっちゃ広くなるし(笑)。それはきっとedhiiiとも共通するところで、音楽はずっと楽しいし無敵だと思っているんですよね。

「常識がいっぱいある」――ラブホテルでのバイト時代に知った感覚

ぜったくん(撮影=はぎひさこ)

――そういった複雑な胸中、日常に対して不安を抱きつつ自分の好きなことに夢中になりたい気持ちが描かれている意味では、1stアルバム『Bed in Wonderland』(2022年)の収録曲「sunday sunday」に近いものを感じました。

ぜったくん:ああ、たしかに通ずるリリックではあるかも。日常に対して「うわあ」と思ってるけど、「楽しまなくちゃ損じゃね?」と言っている曲なので。

――そういう考え方が自分の根底にある?

ぜったくん:たぶん根底にはあると思うんですけど、それは何かと言うと、おそらくバイトをしていた頃の経験と関係があるんですよね。僕、昔ラブホテルのフロント係のバイトを6年くらいやっていたんですけど、そこには僕とは別に清掃係の人たちがいて、それがみんな海外の人たちだったんですよ。みんな、お金なんて全然ないはずなのに、めっちゃ楽しそうで。「なんでそんなに楽しそうなの?」って聞くと「いや、生きてるんだからよくない?」みたいな感じで(笑)。

――そのマインド、めっちゃいいですね(笑)。

ぜったくん:「別に将来のことなんか知らないし、その日に働いたぶんの給料で食ったり飲んだりして楽しめばよくない?」みたいな感じだったんですよ。それって、当時大学に通っていた自分からすると衝撃的なことで。その頃の自分は、人生っていうレールから一度でも外れたら終わりで、新卒で入った会社を辞めたら終了だと思っていたけど、そうやってガチガチにとらわれていると絶対に楽しくないし、それってめっちゃ損だなと思ったんですよね。

――それがきっかけで自分の価値観や生き方がガラッと変わったんですか?

ぜったくん:そこで6年間働いていたので、だいぶ歪んだ気はします(笑)。常識がズレたというか。

――でも、その価値観は清掃員として働いていた海外の人たちからすると普通の考え方なわけで。

ぜったくん:だから、「常識がいっぱいある」という感じですよね。何本もの世界線の常識が存在していて、自分はそっちの方向に行って、違う線路に乗り換えたっていう。

――乗り換えた先のレール、いまの自分のライフスタイルに満足していますか?

ぜったくん:うん、いい電車ですね。今は音楽を作ったり聴いているのがめちゃくちゃ楽しい。でも、それじゃない路線もいいなって思うし、どの路線に乗っても楽しいことは楽しいと思うんですよ。

――だからこそ、小学校の同級生たちが今歩んでいる道を見て羨ましいとも感じる。

ぜったくん:そうそう。僕が乗り換える前の電車は終点がはっきりしていたんですよ。定年まで働いて、退職したあとは優雅に暮らす、みたいな路線だった。その一方で、今乗っている電車は線路の先がどこに繋がっているのかわからなくて、もしかしたら『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』の最後みたいに崖に墜ちるのかもしれない(笑)。それがわからないまま乗っているのは、少し不安ではありますけどね。

――〈毎年毎年マジ年取んのが怖い〉とも歌ってますね。

ぜったくん:いつこの線路がなくなるかわからないので。でも、スリルはあるし、常に自分で線路を作っている感じですね。線路を曲げたり、なんなりして。プラレール感覚ですよ(笑)。

他者とのコラボの楽しさは「中身がわからないプレゼントをもらった時みたいな感じ」

ぜったくん(撮影=はぎひさこ)

――喩えが飄々としていていいですね(笑)。サビのリリックには〈捨てちまってローリングローリングストーン〉ともありますが、そういう根無し草のような生き方は、自分の性格的に向いてると思いますか?

ぜったくん:いやあ、それはまだわからないですね。それこそリリックで書いたように、将来がわからないので、そういうのをふと思い出して「うわあ……」と思う瞬間もよくあって。だから、向いていないかもしれないけど、楽しめてはいます。

――そういったある種のモラトリアム的な感情を、まだ高校生のedhiiiさんとのコラボ曲で歌っているのもユニークだと思います。

ぜったくん:そうですよね。edhiiiは俺のヴァースを見て、「あ、そう思うんだ」っていうのは理解できると思うんですけど、俺みたいなヴァースを書くことはできないと思うんですよ。17歳でこんなことは考えないだろうから(笑)。それがよかったし、僕もedhiiiのヴァースは書けないんですよね。だって、〈僕は異端児で危険児〉でもないし、〈ママごめん〉というワードも、自分は「ママ」じゃなくて「お母さん」呼びなので絶対に思いつかないだろうし(笑)。

――今回の「僕だけノンフィクション feat. edhiii boi」や今年リリースした「Pizza Planet feat. ゆいにしお」「どうにかなっちゃう feat. クボタカイ」に限らず、ぜったくんはいろんな人とコラボしている印象ですが、共作のどんな部分に魅力を感じますか?

ぜったくん:単純に楽しいというのもありますけど、自分にないアイデアをもらえるというのが大きいですね。しかも、その一曲で終わることなく、ほかの自分の曲にも活かすことができる。今はみんなデータでやり取りして曲を作るんですけど、お願いしたものが返ってきた時、そのファイルを開くのがすごく楽しみなんですよね。中身がわからないプレゼントをもらった時みたいな感じで、開けたら予想外のものがバーンって飛び出してくることが多いんですよ。

――その意味で、特に刺激や影響を受けたコラボをひとつ挙げるとすれば?

ぜったくん:(さとう)もかちゃんと一緒にやった「sleep sleep」(2019年)が大きかったかも。その時に、掛け合いの面白さに気づいたんですよね。それを経て、kojikojiと一緒に「Midnight Call」(2020年)を作って。コーラスの入れ方も参考になりました。もかちゃんはコーラスを3声くらい重ねているんですけど、レコーディングの時にその場でアイデアを出して歌ってもらったら、それが僕の想定していたコードとは違ったんですよ。最初は「ええ、そっち?」と思ったんですけど、聴いてみたらそれがめちゃくちゃよくて。それからは自分でコーラスを入れる時にも試すようになりました。

ぜったくん(撮影=はぎひさこ)

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