Oasis、Primal Scream、The Jesus And Mary Chain、The Cure……全英チャートで躍進したUKベテラン勢
The Cure、32年ぶりに全英アルバムチャート1位に
ロックの歴史上、フォロワーの最も多いバンド、後世に大きな影響を与えたバンドという議論があったとして、そこには間違いなくThe Cureの名前が挙がるだろう。そんなThe Cureの16年ぶりとなるニューアルバム『Songs Of A Lost World』が32年ぶりに全英1位を獲得した。
音楽性は実にThe Cureらしい作品。しかし、これまでのレガシーの誇示、焼き直しといった印象は一切ない。直訳すると“失われた世界の歌”というビッグなタイトルのもと、キャリア史上最もストイックと言っていいほどの音を鳴らしている。陰鬱や孤独の中にエネルギーを感じるタフなビートや硬質なギター、優美なシンセ、そして、経年による衰えを知らないロバート・スミスの声、気ままでありながら作品に力強い筋を通すメロディ。それらの織り成す世界は暗くて重いが、暗くて重い気持ちにはならない。開き直りとも違う。目を覆いたくなるような現実を引きずったままでも少しの希望があれば前を向ける。「Just Like Heaven」(1987年)や「Friday I’m In Love」(1992年)のような、煌めく光のポップソングがないからこそ、そんなThe Cure節の魅力がより際立ったアルバムだと思った。
トム・ミーガンを解雇したKasabianが連続1位記録を更新
来日ツアーの記憶も新しいKasabian。ボーカル Tom Meiganを解雇し、セルジオ・ピッツォーノがメインボーカルとなって2枚目となる8thアルバム『Happenings』が、2ndアルバム『Empire』(2006年)から7作連続となる全英1位を記録した。
ポップとオルタナティブの間に橋を架けられるマーク・ラルフを共同プロデュースに迎え、全編に渡ってこれまで以上にダンスに軸足を置き、スロウ~高速まで生ドラムの打ち込みのループを駆使してビートを練り込む。全体を覆うKasabianらしいサイケデリック感覚とともに、ディスコやエレクトロ、ポストパンク、ストレートなロック、ヒップホップのフィーリングなど、バックグラウンドも実に多彩。キャッチーなメロディやコーラスのオンパレードで、これまでにも幾度となくスタジアムを沸かせてきたスタイルをさらに更新した。アートワーク上でのタイトルのフォントや色合いからもわかる通り、キャリア史上最も日当たり良好な“陽”の意欲作となっている。
Shed Sevenが1年で2作品を全英1位に送り込む
OasisやBlurのヒットによって1990年代中盤に巻き起こったブリットポップの波に乗り、『Change Giver』(1994年)でヒットを飛ばしたShed Seven。1996年にリリースした2ndアルバム『A Maximum High』もゴールドディスクを獲得。ブリットポップが終焉した1998年にも、多くのバンドの勢いが衰える中、3rdアルバム『Let It Ride』をヒットさせた。以降、目立った活動はなく2003年に解散したが、2007年に再結成。そこから10年経ってリリースした『Instant Pleasures』(2017年)は全英8位を獲得し、同じくブリットポップのさ中にヒットしたCastとともに行った全英ツアーはのべ5万人以上の動員を記録するなど、藻屑と消えたイメージのあるかつてのムーブメントの引力の強さを示した。
そしてここにきてニューアルバム『A Matter of Time』が全英1位に。初期以上にフレッシュなロック、ロックンロールサウンドを展開。持ち前のメロディセンスも健在で、往年のファンのテンションが上がるのも納得できる。その勢いのまま、オーケストラを加えて過去曲を再構築したアルバム『Liquid Gold』も全英1位を獲得した。
上述した以外にもUKベテラン勢のトピックは多く、Radioheadのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、ジャズ畑出身のドラマー トム・スキナーによって2020年に結成されたバンド The Smileによる『Wall of Eyes』と『Cutouts』の2枚のアルバムに胸が熱くなったことも、現在Spotifyでの再生回数億越えの「Sit Down」や「Laid」といったヒット曲を持つマンチェスター発のバンド Jamesによる新作『Yummy』が素晴らしかったことも記憶に新しい。また、元Suedeのギタリストでプロデューサーとしても名を馳せたバーナード・バトラーが、ソロ名義として25年ぶりのアルバム『Good Grief』をリリースしている。
タイムリーな話題だと、タイラー・ザ・クリエイターの「Noid」がそうであるように、単にジャンルとジャンルの掛け合わせという見方だけでは割り切れない、かつてのジャンル性が溶解した新たなミクスチャー感覚があり、ポストジャンル時代の中にもロックは確実に生きている。クラブやレイヴカルチャーの発展とともに、ダンスミュージックとパンクに親和性を見出すアーティストが多く出てきていることも然り。そしてベテランと呼ばれるバンドの動きも熱い。変わりゆくロックの形と変わらないロックの継承。規模感はさまざまで最終的に筆者の趣味というフィルターのかかった体感的な話にはなるが、今ロックが面白いのではないかと感じた2024年だった。
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