Oasis、Primal Scream、The Jesus And Mary Chain、The Cure……全英チャートで躍進したUKベテラン勢

 多くのメディアやリスナーがさまざまな角度からその年の音楽シーンを振り返る年末。今年のロックにおける最も大きなトピックとなると、Oasisの再結成を挙げる人が多いのではないだろうか。2009年に解散が発表された直後から、再結成を望む声が止むことはなく、ノエルとリアムのギャラガー兄弟のムーブから実現の信憑性を見出そうとする仮説も、幾度となく目にしてきた。まさに世界が待望していた夢のような出来事だ。

 そんなOasisのニュースをはじめ、今年はインディ/オルナタティブロック文脈にあるUKベテラン勢の全英チャート上での活躍が目立つ年だったような気がした。

 そこで今年の全英チャートを遡ってみると、今この瞬間のトレンドがわかるシングルチャートに関しては、新しいバンド/アーティストも含めUK産のロックはほとんど出てこない(トップ20に入ったのは、ニューカマーだとThe Last Dinner Partyの「Nothing Matters」と、7月にサッカー・イングランド代表が『ユーロ2024』を勝ち上がった際に聴かれた、Baddiel, Skinner & The Lightning Seedsによる恒例のフットボールソング「Three Lions」くらい)。しかし、アルバムチャートを見てみると話が変わってくる。

 ロックはアーティストもリスナーもアルバムとしての完成度や物の所有に対する意識が強い。そして、全英アルバムチャートの集計方法は、例えばアルバム目的でのアクセスではない可能性を考え、収録曲中上位2曲のポイントを下げたり、フィジカルの売り上げを重視するなど、ロックに有利な要素が多い。また、全体的に上位をキープする持久力はメインストリームのアーティストに敵わないことから、それだけで“ロックが盛り上がっている”と言うことはできないが、そのことを加味しても、実に興味深い事象が繰り広げられていた。今回はそれらの中から何組かのアーティストを、全英チャートでのアクションとともに取り上げる。

Oasis、15年ぶりの再結成

 8月27日にOasisの再結成が発表されてからチャートアクションはさらに上昇する。The Beatlesがパンクとグラムロックを通過して90年代マンチェスターのストリートと交わり、独特のレイジーでエッジーなムードを帯びたような1stアルバム『Definitely Maybe』(1994年)は、アメリカンオルタナティブからブリットポップへと、本国UKやヨーロッパ各国、日本から見た洋楽を時代ごと動かした。そこからポップソングとしての強度が高まり、さらなる躍進を遂げた2ndアルバム『(What's The Story) Morning Glory?』(1995年)、そしてオールタイムベスト『Time Flies…1994-2009』の3作が同時にトップ10にランクインした週も。また、彼らが2009年に解散してからファンになった1990年代、2000年代生まれの若いファンが多いことも、Oasis再結成を望む声が飛び抜けて大きく集まった要因だろう。Oasis関連のイベントに行くと、その年齢層の広さに驚く。

Oasis - Live Forever (Official HD Remastered Video)

 そんなレジェンドの復活に筆者が感じた何よりの価値は、今このタイミングで再結成したこと。というのもリアム・ギャラガーの声がすごい。歌に難ありの時期もあった。近年は喉の不調を患った。そんな時期を乗り越え、ここにきてボーカリストとして最も成熟しているのではないかと思えるほどの歌唱力を発揮。The Stone Rosesのギタリスト、ジョン・スクワイアとのキャリア最新作『Liam Gallagher & John Squire』(2024年)を携えたライブ映像に鳥肌が立った。Noel Gallagher's High Flying Birdsの活動で、さまざまなサウンドアプローチを見せキャリアを更新し続ける兄 ノエル・ギャラガーとのシナジーにより、お互いに別々に演奏し歌い続けてきた往年のOasisの曲がどうなるのか。楽しみで仕方がない。

Oasis Live '25 - UK & Ireland [Official Trailer]

Primal Scream、8年ぶりのアルバム『Come Ahead』で吹かす新風

 2019年にボビー・ギレスピーが曲作りに着手したあと、彼のキャリアに最も大きな影響を与えたアンドリュー・ウェザオールが死去したことが、方向性を決めたのではないかと感じたアルバム。そこにはアシッドハウスの洗礼を受け、1991年に『Screamadelica』をリリースしたボビーに、互いの共通言語であるパンクのスピリットとともに、クラブ/レイヴのダンスフィーリングを伝授したアンドリューの遺伝子が生きている。

 プロデューサーはボビーが当時ダンスミュージックの聖地 イビサ島で出会い、『XTRMNTR』(2000年)のプロデュースにも関わったデヴィッド・ホルムス。アルバムには未収録だが、アンドリューの仲間でUKにハウスを持ち込んだ功労者の一人であるテリー・ファーリーも関わったシングル曲「Ready To Go Home」のリミックス(「Ready To Go Home (Terry Farley, Wade Teo Remix)」)、同じくアシッドハウス全盛期を知るアシュリー・ビードルを中心としたBlack Science Orchestraによる「Love Insurrection」のリミックスも聴いてほしい。数字は全英24位と『Screamadelica』以降最も低いが、往年のディスコやファンク、ソウルといった、ノスタルジーを強く感じさせる時代にアプローチしながらも、2024年のロックならびにダンスミュージックの新たな風が吹くような出来栄えに痺れる。

Ready To Go Home (Terry Farley, Wade Teo Remix)
Primal Scream - Love Insurrection (Black Science Orchestra Remix) (Official Audio)

The Jesus And Mary Chain、7年ぶりのアルバム『Glasgow Eyes』で示す健在ぶり

 ボビー・ギレスピーも元メンバーだったThe Jesus And Mary Chain。彼らがデビューシングル『Upside Down』(1984年)や続くデビューアルバム『Psychocandy』(1985年)で見せた、パンクの荒波が起こした洪水のようなノイズの中に、60年代ポップ直系の甘いメロディを溶け込ませるスタイルは、のちのシューゲイザーやオルタナティブロックに大きな影響を与えた。

 地元の地名をタイトルに冠した本作は、同じく同郷のMogwaiのスタジオで録音された。ノイズの刺激や混沌の中にポップなメロディが光る。そのシグネチャー/ノスタルジーをふんだんに感じさせつつ、それだけではないエレクトロに接近した攻撃性も含めてさすが。先行シングル曲「jamcod」や冒頭曲「Venal Joy」では60年代のサイケデリック/プロトパンクや、電子音楽がパンクを通過したようなサウンドと緊張感のあるミニマルビートを展開。The Ronettes「Be My Baby」譲りのビートを採り入れた「Chemical Animal」は、『Psychocandy』収録の歴史的名曲「Just Like Honey」とエレクトロを掛け合わせたような曲。全英チャートでは7位を記録。自らを更新するアイデア力と鋭さは今も健在だ。

The Jesus and Mary Chain - Chemical Animal (Official Video)

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