松永大司&道本咲希、2名の監督から見たLIL LEAGUEメンバーの魅力 ショートドラマで演技に初挑戦

映画監督から見たLIL LEAGUEの魅力

 今年に入ってから、TikTokを中心としたSNSで「ショートドラマ」と呼ばれるジャンルのコンテンツを目にする機会が増えている。もともと中国で人気に火がつき、日本でも2023年頃から大きな支持を集めるようになったこのジャンル。今ではラブコメからミステリー、サイコホラーまで本当に多彩な作品が展開されており、何らかの映像を一度は視聴したことがあるという読者も多いのではないだろうか。

 そんなショートドラマ界で11月、ひときわ目を引く作品が誕生した。映画を主戦場として活躍する監督陣が、LIL LEAGUEの楽曲をテーマに作り上げたショートドラマシリーズである。第1弾として公開された『非通知』は「Lollipop」をテーマとしたサイコホラー。将来性のある新人監督に贈られる「新藤兼人賞」24年度の最終選考にノミネートされた道本咲希が監督を務め、LIL LEAGUEの山田晃大が主演として視聴者を騙しに騙す複雑な物語構成を見事に演じ切った。第2弾は「15分」をテーマに作られた切ないラブストーリー。こちらは『エゴイスト』や『トイレのピエタ』などを手がけ、数々の受賞歴を持つ松永大司が監督。中村竜大と難波碧空の内面からにじみ出る繊細な感情表現を捉えている。

 今回、そうしたショートドラマの制作背景について、監督を務めた松永大司と道本咲希、演技初挑戦となったLIL LEAGUEの中村竜大、山田晃大、難波碧空にインタビュー。彼らが企画に込めた想いや撮影時のエピソードについてたっぷりと語ってもらった。(市岡光子)

以前から注目していたLIL LEAGUEの表現力の豊かさ

――改めて、LIL LEAGUEのショートドラマは、どのような経緯で制作することになったのでしょうか。

松永大司(以下、松永):今回の2作品の監督を務めた僕と道本咲希が、今年1月からLIL LEAGUEのドキュメンタリー映像に関わってきたことが大きなきっかけでした。撮影を進める中で、グループの魅力をどう伝えるべきか、毎週のようにLIL LEAGUEのスタッフチームと話し合っているのですが、ある日のミーティングで「グループの楽曲を使ったショートドラマを撮れないか」と打診があったんです。

 その話をいただいたとき、これまで1年ほどLIL LEAGUEに関わってきて、彼らの“音楽だけではないポテンシャル”に強く惹かれていたこともあって、「ぜひやってみたい」と感じました。特に僕自身、いつか自分の作品でLIL LEAGUEのメンバーと仕事をしてみたいという想いが芽生えていたので、ショートドラマ撮影の打診を快諾し、企画が立ち上がりました。

――「音楽だけではないポテンシャル」とは、具体的にどんなことを感じたのでしょうか?

松永:端的に言えば、表現力の豊かさです。自分という人間と向き合って、過去に経験した思考や感情を作品に乗せていく。その方法を常に考え続けているからこそできるエモーショナルなパフォーマンスを、6人はステージの上で体現しているように感じます。そういう表現力を持つ彼らなら、演技の世界でも何か良いものを生み出してくれるのではないか。そんな風に思ったんです。

中村竜大、難波碧空、山田晃大

――LIL LEAGUEの3人は、ショートドラマへの出演が決定したとき、どのように感じましたか?

中村竜大(以下、中村):松永さんとは、ドキュメンタリーを撮影する中で「いつか一緒に仕事がしたいね」という話をしていたので、ショートドラマの企画案をいただいたときは、ついにそのときが来たんだと純粋に嬉しかったですね。ただ、オファーをいただいた当時の僕らには、芝居の経験がほとんどありませんでした。きちんとした作品をつくり上げられるのか、想像がつかなくて不安もあったんですけど、新しい仕事にチャレンジできる期待感のほうが上回っていた気がします。

山田晃大(以下、山田):僕は母親の影響で、幼少期からドラマや映画を見ることが大好きで、俳優さんのセリフを真似する遊びなんかもよくやっていたんですね(笑)。それくらい好きなものを仕事にできる嬉しさは、やっぱり大きかったです。それに、ドラマを通じて、LIL LEAGUEのことをまだ知らない方にも楽曲や僕らの存在を届けられるのはチャンスだと思いました。この企画に自分が参加していいのか、不安がなかったと言えば嘘になりますが、せっかくいただいたチャンスは掴もうと思って、全身全霊で撮影に臨みました。

難波碧空(以下、難波):お話をいただいたときは純粋に驚いたのですが、それと同時に、日頃から自分たちのことを撮ってくださっている松永さんからオファーをいただけて本当にありがたいなと感じました。演技初挑戦で分からないことだらけでしたが、自分の幅や可能性を広げるためのチャンスだとも思いましたし、キャスティングしていただいたからには自分にできることを精一杯やってみようと、前向きに撮影に挑みましたね。

見ている人を演技で“騙す”難しさ

――11月に公開された『非通知』は、LIL LEAGUEが今年2月28日にリリースした1stアルバムの収録曲「Lollipop」をテーマに、恋愛とミステリー、若干のホラーの要素が散りばめられ、衝撃の結末を迎える全5話のストーリー展開が非常に見ごたえのある作品だと感じました。

道本咲希(以下、道本):ありがとうございます。この作品は脚本家の方がストーリーをまとめてくださったのですが、各話で視聴者の認識が覆されていく展開になっていて、本当におもしろい脚本ですよね。

――この作品で主役に山田さんをキャスティングされたのは、どうしてですか?

道本:この話に出演している姿を具体的にイメージできたのが、晃大さんだったからです。

山田:そうなんですね! キャスティング理由は今初めて知ったので、率直に嬉しいです。僕、以前から演技に挑戦してみたい気持ちを抱いていたのですが、そのことって道本監督にはお伝えしていなかったですよね?

道本:うん、ないですね。

山田:ですよね。それなのに、脚本を見て僕のことを思い出してくださったというのが、すごく嬉しいです。お芝居の世界に一歩踏み出すきっかけをくださって、本当にありがとうございます!

山田晃大、道本咲希
山田晃大、道本咲希

――撮影までの準備期間で、道本監督から山田さんに何かアドバイスしたことはありますか?

道本:『非通知』は仕掛けの多いストーリー展開になっているので、それらをうまく表現するためにも、各話で明確な目的を持って撮影したいと考えていました。そこで私が意識したことは、晃大さんと意図を共有した上で撮影に挑めるよう、時間の許す限り会話をすることでした。作品への認識がずれてしまうと、芝居のリズムやテンションも目的とは違ったものになってしまうと思ったためです。でも、晃大さんも脚本に込められた仕掛けの複雑さをすでに理解して、いかに芝居で視聴者の認識を覆していくかということを考えられていたので、撮影までのコミュニケーションは非常にスムーズでした。言葉を多くして説明しなくても、私の考えが伝わる感覚があったというか。ただ、もしかすると晃大さんとしては、今作の話の展開を演技で実現していく難しさがあったかもしれないのですが……。

山田:難しかったですね。今回の作品は5回のお話の中で見ている人を“騙す”必要があったので、すごく苦戦しました。

――かなり難易度の高い脚本だったようですが、山田さんは撮影までにどのような準備をされたのでしょう?

山田:どんなストーリーなのかは、ぜひドラマを見ていただきたいのですが、この作品では僕の演じるレイ自身が最終話まで真相にたどり着かずに騙され続けて、視聴者を驚かせる必要がありました。事前にストーリーを深く分析してしまうと、レイが騙されている部分をきちんと表現できなくなってしまう気がしたので、今回は僕が演じるレイのキャラクターづくりに力を入れて準備しましたね。脚本を読んで、キャラクターの設定を深く考えてみたり、自分の人生との共通点を探してみたり。そういうことにフォーカスしていました。

――その準備が役立ったと感じた瞬間は、ありましたか?

山田:今回、黒嵜菜々子(Peel the Apple)さんと共演したのですが、第2話、第3話で黒嵜さんの演じる女の子とレイが急に距離を縮めるシーンがあります。普段の僕はめちゃくちゃ人見知りで、初対面の方と仲良くなれたことがあまりなくて、このシーンも上手く撮影できるか心配だったんですけど、黒嵜さんと撮影前に話をして、お互いの役柄のちょうど良い距離感を見つけられたんです。そういうことができたのは、事前にレイのキャラクターづくりをしっかり深めておいたおかげかなと思います。

――今作は1話ごとにかなり展開があるため、演者としては各話の撮影で気持ちを切り替えるのが大変そうだと感じたのですが、その点はいかがでしたか?

山田:第1話から順番に撮影を進めていったのと、監督ともいろいろなコミュニケーションをとらせていただいたので、撮影を進める中で徐々に気持ちを作っていくことができました。最終話では役柄に完全に入り込めていたというか、台本のことは忘れて、その場の状況を感じながらお芝居ができた感覚がありましたね。その状態をもう少し早く実現できていたら良かったなとも思いますが……。

道本:そういえば、現場のリハーサルでカメラ前に初めて立ってもらったときは、本当に緊張されていましたよね(笑)。ドキュメンタリーの撮影時には見たこともないくらいガチガチの状態で、撮影が無事に進むのか心配になったのですが、そこはやっぱり日頃から生でパフォーマンスを披露しているアーティスト。本番への強さに驚きました。カメラが回った瞬間に、ちゃんと芝居ができるようになっていて、「さっきまでの晃大さんはなんだったんだ」と思ったくらいです(笑)。最終話に近づくにつれ現場に慣れて、どんどん良い演技が見られるようになっていたので、今の晃大さんのお話は、なるほどなと思いました。

「監督のOKを信じて演じることができた」

――逆に道本監督は、山田さんや黒嵜さんの演技を引き出すために、撮影環境で工夫をしていたことは何かありますか?

道本:私のことを信頼してほしいということは、現場で何度も伝えていました。晃大さんの芝居がダメだったらNGを出すし、OKだと思えば、私がOKを出す。なので、何でも相談して、さらけ出してほしいということはお話していたんですけど、それ以外に何かお伝えしたことってありましたっけ?

山田:僕もその話の印象が強いです。撮影の前日も当日も、道本監督から「私がOKを出したら、そのシーンはOKだから」という話をしていただいて、その言葉は本当にありがたかったです。お芝居ってその瞬間にしか出せないものがたくさんありますし、初めての経験だからこそ、自分がどれだけできているのかも分かりません。なので、監督のOKを信じればいいという指針があったことで、安心して次のシーンに気持ちを切り替えることができました。

――『非通知』にはTikTokやXなどで様々な感想が寄せられていますが、お二人はそうした反響を見て、いかがですか?

道本:私は今回の作品で、素敵な晃大さんと黒嵜さんの姿を映像に収めることができたと思っているので、その部分に視聴者の皆さんが反響を寄せてくださっていることは、やはり素直に嬉しかったです。この作品を撮れてよかったなと感じています。

山田:僕はたくさんの感想やコメントを見て、まずはすごく安心しました。というのも、『非通知』はすごくおもしろいお話なのに、僕が演技初挑戦ということで酷評されてしまったらどうしようと、ドラマの公開前は怖さもあったんです。でも、作品そのものを評価していただけて、特にTikTokではこのショートドラマで僕らのことを知ったという方もちらほら見かけて、今では純粋に「お芝居にチャレンジして良かった」と感じています。すごく難しい挑戦ではあったのですが、今回の撮影は僕自身も本当に楽しかったですし、少し自信もついたので、いつかまた演技の世界に挑戦できたらいいなと思います。

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