LINEヤフー会長が語る「ハロプロ」のリーダーシップ 道重さゆみ、和田彩花……メンバー達から得た学び

LINEヤフー会長が“ハロプロ”から得た学び

和田彩花、譜久村聖、竹内朱莉……それぞれの異なるリーダーシップ

ーーさて、ハロプロのリーダーといえば、元アンジュルムの和田彩花さんもしばしば名前が挙がる1人です。

川邊:モーニング娘。を短期集中で猛勉強して詳しくなった頃、「川邊さん、アンジュルムも見ないとダメですよ」と信頼できるハロヲタ筋の方から指摘されたんです。みなさんが口を揃えて言うのは、「やはり和田彩花という人物は傑出したリーダーである」と。それは自分の技量もさることながら、トップとして組織を育てる力や後輩の面倒を見る姿勢がすごいということでして。要するに“完璧なリーダー”という評価が定着していたわけですが、いろんな映像を観ながらアンジュルムを勉強するにつれ、僕もまったく同じ考えに至りました。

アンジュルム『夢見た 15年(フィフティーン)』(ANGERME [Dreamed for 15 years])(Promotion Edit)

ーー周囲が言ってることは正しかった(笑)。

川邊:またしても卒業スピーチの話になってしまうのですが、和田さんの場合は努めて冷静に話をするんですよね。しかもコミカルなエピソードも織り交ぜながら。そこがすごくいいなと思いました。「今後、心配なのは食べ残し」とか「今までは私が靴を揃えていたけど、みんなそのことにすら気づいていなかった」とか具体的な話を出すことで、観ている人も「裏でそういうことがあったのか……」と発見があるわけですよね。これはちょっとアイドルという枠を超え、マネージャーとしての有能さを痛感せざるをえないです。

ーー和田さんの特異なところは、アイドル村の住民でありながら村の掟に異議申し立てをした点にもあると思います。ジェンダーの問題や労働環境についても、かなり踏み込んだ発言をしていますよね。

川邊:そこはものすごく面白いと思います。小さい頃からハロプロエッグ(デビューを目指す研修生)という組織で純粋培養された和田さんが、ある日、社会性に目覚めて世の中に発信していくという構図。ハロプロの採用力と育成力の高さゆえに、アイドルというカテゴリーを超えるアイドルが生まれたということでもあります。

LINEヤフー株式会社 代表取締役会長 川邊健太郎氏 インタビュー

ーー同じハロプロエッグ出身でも譜久村聖さんはハロプロの保守本流、和田さんは現状打破のイデオロギーが根底にあります。この差は興味深いですよね。

川邊:同じ教育機関で同じカリキュラムを受けていても、まったく違う個性が生まれてくるわけですからね。ひとつあるのは、モーニング娘。とアンジュルムの立ち位置が違うということかもしれません。モーニング娘。というのは、プロ野球でいうと巨人軍です。エリートとしての振る舞いが求められるように思えます。一方、アンジュルムは初期に劣等生だった時代もあって、反骨精神のようなものが備わっているように見えます。そこはやっぱり和田さんが持っていて、王道を歩んできた道重さんや譜久村さんにはないところでしょうね。あと、和田さんに触れた以上、2代目リーダーの竹内朱莉さんにも言及させてもらってもいいですか?

ーーもちろんです(笑)。

川邊:先ほどの和田さんのケースと同じで、竹内さんについてもファンの方が教えてくれたんです。「和田彩花の後任としてリーダーに就任した竹内朱莉の悪戦苦闘ぶりもぜひ知ってほしい」と。そこでお薦めされたのが『ウェンズデイ・ホリデイ』というポッドキャストの番組。竹内さんがそこでお話していたのは、和田さんという偉大なリーダーから引き継いだものの、その手法を真似してマイクロマネジメントをやったら大やけどを負ったということ。それでどうしようかと悩んだ末、目線をぐっと落として若いメンバーに寄り添うことにした。一緒になって遊びながら若手の話を聞くスタイルにしたら、友達みたいになって結果的にうまくいった……おおむねこういう内容だったんです。

ーー偉大なリーダーの後継者というのは、どの世界でも苦労しますよね。

川邊:その通りです。和田さんという方は本人の才能や努力も含めてリーダーになるべくしてなったところがありますが、竹内さんはリーダーになってから「リーダーってどうしたらいいんだろう?」と、試行錯誤と努力を重ねてきた経緯があります。そして自分だけのリーダー像を確立させ、女性人気の高いアンジュルムのスタイルをさらに一段押し上げた。実に素晴らしい話だと思います。

ーー竹内さんはメンバーからの人望が圧倒的でした。

川邊:竹内さんの物語は典型的な“マネジメントスタイルの変更”と言えます。行き詰っている管理職は全員『ウェンズデイ・ホリデイ』の竹内さん登場回を聴くべきですよ。すべてのビジネスパーソンが励みになるはずですし、「マネジメントスタイルって、こうやって変えることが可能なのか!」と学びがあるはずです。またあの番組はホストの堀井美香さんというアナウンサーの方が話を引き出すのが抜群にうまくて……。なので、僕は堀井さんのこともSNSで絶賛したんですね。すると「川邊さんもぜひ出てください」とオファーをいただいて、最近、収録されたものが配信されました。もちろんそこでも竹内さんの素晴らしさを語っています(笑)。

本田宗一郎と元アンジュルム 佐々木莉佳子の共通点

モーニング娘。'23 feat. 譜久村聖『Neverending Shine』Promotion Edit

ーー竹内朱莉さんの抱えた苦悩というのは、道重さんが去ったあとの譜久村聖さんも同じだった気がします。和田さんや道重さんのようなカリスマ型のリーダーは、往々にして発想や着眼点が常人とは違う。だから、真似することができない。一方で譜久村さんは派手さこそないものの、調整型のリーダーとして卓越していた印象があります。

川邊:それは組織が大きくなったり、歴史を積み重ねていく過程で避けられないことなんです。スタートアップではなく、すでに築かれているものに調整をかけることで事業を大きくする……これはアイドルでいうと人気をもっと出すという、そういったステージの話になりますから。モーニング娘。の場合、経営用語でいうところのBS(Balance Sheet/貸借対照表)……つまり資産が大きいのです。だからアセットマネジメントをしてBSをいじるだけでも利益が出ちゃうんですよね。

ーーもはや音楽サイトのインタビューとは思えないフレーズが飛び交っています(笑)。

川邊:「アイドルと経営を一緒にするな!」とハロヲタの人たちに怒られちゃうかもしれないですね(笑)。でも、BSが大きくなると譜久村さんのようなリーダーが現れるのは自然なことですから。それはアメリカのビジネスだって同じなんです。戦前のアメリカではさまざまな起業家が出てきて、その会社がすごく大きくなったところで戦後を迎えた。ところが戦後はその創業者たちが亡くなってしまい、「じゃあ、こんな大きな会社をどうするの?」となったときにMBA(Master of Business Administration/経営学修士)が生まれて、マネジメントスクールが生まれて、そこの卒業生たちが大きな会社を切り盛りしていった。そこで求められたのは、まさに調整型の経営ですよ。プロの経営者たちが仕切る時代が到来したんです。ところが、さらにそこからインターネット時代を迎えることになって、もういちど、創業起業家たちが現れた……これがアメリカのビジネス史ですから。

ーー勉強になります。

川邊:ハロプロは歴史が長いので、調整型リーダーが現れるのは当然の話です。とはいえ、僕から言わせると譜久村さんも譜久村さんで少なからず変化は起こしていると思います。たとえば大型ロックフェスに出るようになったのも譜久村さんの時代からですよね。それでアイドルファン以外の層にも「ハロプロがすごい!」という話題が広まりました。ある種の伝説を作ったんですよ。

ーー炎天下対策のため、暖房を入れた状態でのリハーサルは語り草になっています。

川邊:ハロプロを学んだことで、経営者として自信を持ったことがあるんですよ。それは「どんな危機が訪れようとも、採用さえしっかりしていればなんとかなる」という真理。新垣さんの時代に鞘師里保さんや石田亜佑美さんを採用したからこそ、のちにフォーメーションダンスで世の中を盛り上げられたわけですしね。

モーニング娘。'14『Password is 0』(Dance Shot Ver.)

ーーたしかに「ハロー!プロジェクト・キッズ」「ハロプロエッグ」「ハロプロ研修生」とプレイヤーの育成にハロプロは昔から力を入れていますね。

川邊:先日もスタートアップ系の企業経営者30人くらいと合宿していたのですが、そこでは「とにかく採用に力を入れたほうがいい」とハロプロの話を交えながら話しました。これは本当に僕自身がハロプロから学んだことでもありますから。採用をしっかりして、変化を起こせるリーダーを見出せばなんとかなる。繰り返しになりますが、企業もアイドルもそこはまったく同じなんです。

ーーハロプロのメンバーを見ていて、カリスマ経営者と共通点を感じたことはありますか?

川邊 アンジュルムを卒業した佐々木莉佳子さんが、ある媒体で質問に答えていたんです。その質問というのは「夢を叶える秘訣を教えてください」というもの。たしかに今の時代って「夢を実現させたいけど自信がない」「どんな夢を見ればいいのかもわからない」といった人も少なくないです。その質問に対する佐々木さんの回答がふるっていて、ただ一言、「夢を見ることです」と答えたんです。僕はその記事を読んで衝撃を受けました。というのも、本田宗一郎さんが言ったとされる「夢しか叶わない」という言葉と重なる部分があるんですよ。

ーー魂のレベルは本田宗一郎と同じですか!

川邊:佐々木さんは若いときから震災などで苦労もしたし、アイドルとして様々な経験をしてきました。そして23歳の今、たどり着いた境地は50歳の僕とほぼ一緒だなと感じるんです。こっちだってビジネス現場で相当いろんな経験を重ねてきたつもりなんですけれど……。

ーー存じ上げております(笑)。

川邊:正直に言うと、僕も若い頃は本田宗一郎さんの「夢しか叶わない」という言葉の意味がわからなかったんです。だけどいろんな経験を重ねていくことで、「そうか。夢を見ない限り、その夢は絶対に叶わないもんな」と腹に落ちるようになった。佐々木さんはその境地に23歳で達しているんですよ? ちょっとこれはすごいことだぞと震えました。

アンジュルム『大器晩成』 (ANGERME[A Late Bloomer]) (Promotion edit(New Ver.))

ーーさて、ここまで熱く語っていただきましたが、最後に川邊さんにとってハロプロとは何なのか、教えてください。

川邊:僕にとってハロプロは、“人生後半の生き甲斐”という感じがしますね。まさか自分が推し活するなんて想像もしていなかったですが、今はすごくいいものだなと実感しています。そして、なおかつビジネス的にも役に立っているわけですし。ハロプロに対しては、なによりも感謝の気持ちが大きいんですよ。27年にわたって作り上げてきたものを僕はひょんなことから知ることができて、本当に「ありがとうございます」という言葉しかない。正直、好きなだけであれば、X(旧Twitter)などで触れる必要はなかったんです。だけど僕はこのハロプロの世界観がずっと続き、少しでも新しい人に魅力が届けばいいなと思っています。宝塚歌劇だって100年以上続いているわけですからね。ハロプロも100年続くことを願って……いや、違いますね。100年続くことを、微力ながらお手伝いさせていただきたいです(笑)。

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