Sound Horizon、20年の年月をかけた物語音楽による人間礼賛 『Revo’s Halloween Party 2024』2日目完全レポ
11年前とは異なるアリーナで規模を二夜に拡大し、再びRevoがハロウィンの宴を開く――。
ハロウィンがすでに去りし11月、23・24日の二日にわたって神奈川・ぴあアリーナMMで開催された『Revo's Halloween Party 2024』。それは、先行配信されたばかりのBeyond Story Maxi『ハロウィンと朝の物語』(CDリリースは2025年3月5日)を核に据えつつ、2004年10月27日に『Elysion -楽園への前奏曲-』でメジャーデビューを果たしたSound Horizonの20周年を、いやそれ以前から創作に明け暮れてきたRevoの音楽に対する情熱を祝う場でもあった。先んじてRevoは公式サイトで【SHK(=Sound Horizon Kingdom、Revoが国王を務める国家)ハロウィン法】なる法令を発令、コンサートに訪れた者たちが全力でハロウィンを楽しむことを強制的に推奨していた(※1)。また、この公演に対してはドレスコードが設けられ、その程度は各自に委ねられていたが「仮装」でコンサートに訪れてもらいたい旨が事前に告知されていた。当日の会場には着替えコーナーが用意され、普段とは異なる装いで着飾ったローラン(=Sound Horizon愛好家)が集っていた。
さてさて、Story Maxi『ハロウィンと夜の物語』を軸にさいたまスーパーアリーナで2013年10月26日に開かれた『Revo's Halloween Party』から10年以上。Revoから贈られた2度目の宴はどのような二夜目を迎えたのか、いざパーティ会場を覗いてみようではないか。
ぴあアリーナの客席フロアに入り、まず目を引いたのはステージ上の街風景。立ち並ぶビル、その前には屋台が、そして、そこかしこに飾られたジャック・オー・ランタン。屋台ののれんには、五平餅やマルメロガレット、ハロウィンおやき、りんご飴、山賊焼き、焼きそばの文字が見え、どうやら長野県へと誘われてきたことが分かる。開演を待っていると諸注意のアナウンスが会場に流れ、続いて『ハロウィンと朝の物語』の中から先行配信された収録曲「Halloween ジャパネスク '24」の振付動画がスクリーンに。コンサート前にYouTubeで公開された振付動画だ。あらためての練習時間が設けられたわけだが、映像に合わせてローランが踊る様子からは準備万端な様子が窺われ、前日に皐月(めい/山崎杏)が案じた「人にはそれぞれ得手不得手があるの! 夏がダメだったりセロリが好きだったり」という懸念は心配ないと思われた。続いて影ナレで会場には、『ハロウィンと朝の物語』の登場人物たち「チーム浅間温泉(「あじさいの湯」の女将、若女将、板長)」からの「『浅間でハロウィン』へようこそ!」の挨拶が流れる。遅れて“ハロウィン関係者”の声も参加してきたが、先日発売されたばかりの某人気RPGのリメイク版に没頭中らしきことが暴露されていた。
少々の間を置き、会場が暗転。開演を待ち望んだ客席からは拍手が起こる。激しい風の音が聞こえてくると、下手より登場したのはアイク・ネルソン。彼の英語でのナレーションを経て、両サイドのスクリーンには「浅間温泉」という温泉街入口の看板が映し出される中、ステージ中央にある階段上には一人の人物が。兎の耳(?)を持つ“ハロウィン関係者”だ。口にした言葉は「湖に映る兎が見る星は」。
その者が階段を下り、周囲にはダンサーが群がって第一楽章が始まった。始まりを飾る「物語」だが、曲間には「YUKI!」「アニキ!」とバンドメンバー(Gt./YUKI、Gt./西山毅、Key./河合英史、吉田篤貴 EMO strings、Dr./Ken☆Ken、Ba./長谷川淳)&ダンサーが指名された順に次々とソロを披露。“ハロウィン関係者”も花道を使って客席を盛り上げ、一曲目から躍動的なステージを展開する。「小生の地獄」へと連なり、激しいRockな時間は続き、“ハロウィン関係者”の歌声もさらに熱を帯びていく。中央のスクリーンには夜景のイラストが映され、上にカメラがパンすると煌めく星が。ステージ上から聴こえる力強い歌声と苦悶の“ハロウィン関係者”が見せる動きに魅入られつつ、スクリーンに映る一筋の蜘蛛の糸に救いを願う。また、今回はドローンが活用されており、ステージ上の歌い手と客席を広くとらえた映像をスクリーンへと映し出し、臨場感あふれる空間を演出してもいた。
次なる第二楽章「雨に濡れども美しく」で披露されたのは「あずさ55号」。母親が重篤な状態にあると知らされた娘の雨美(灰野優子)は苦悩のハイトーンボイスを聴かせ、反発する母への複雑な感情を母性に満ちた3拍子が補佐する。物語が目の前で繰り広げられるため、雨美が涙を拭いたハンカチ(初回限定盤『Roman』の封入特典)が現物だったら……、と無意味な心配を引き起こさせられるが、舞台は長野県松本へ。スクリーンには旅館の庭が映り、故郷に戻った娘の物語が始まる。一命をとりとめた母親を大女将(おおおかみ/深見梨加)とし、指導を受けながら女将修行に励む雨美。だが、衰退していく故郷の街を盛り上げようと奮闘するも、“光冠状”なる感染症によって世界は不要不急の外出を制限される事態。その助けになろうと“ハロウィン関係者”も動き出す……。楽曲「《光冠状感染症狂詩曲》」と「あの日の決断が奔る道」でそれぞれの事情と想いが綴られる。
そして、“ハロウィン関係者”が皐月に作詞を頼む第三楽章「夜明けに皐き月を背負ひて」へ。さつきの……、ではなく「皐月の箱庭」では、生まれて初めての作詞作業に苦労する皐月が、伯父の「ことちゃん」に助言を与えられ、友達の乙姫(まりん/本屋碧美)とショコラ(松岡夏輝)など、自身のまだ短くも波乱に満ちた人生を振り返っていく。「地平線の英才教育」を受けた姪(めい)と伯父は愛情にあふれたデュエットを見せ、微笑ましくも切ない物語を観客は見守る。
静寂のあとには再びアイクが登場し、そのナレーションの最後につぶやいた言葉は「Happy Halloween…」。スクリーンには「Halloween ジャパネスク '24」のMVが流され、ここまで悲愴感や不穏な空気に押しつぶされそうだった会場は、『ハロウィンと朝の物語』に登場するオールキャストが歌って踊るパーティタイムによって一掃されていく。歌唱後に“ハロウィン関係者”と皐月はステージを下り、誰か一人を見つけては「お姉さんの推しは何ですか?」と問いかけていく。「イヴェールと、愛犬のポメラニアンです」「Revo陛下と、歓びと哀しみの葡萄酒です」と変わらずの『Roman』人気熱を感じながら、兎の耳(?)を持つサングラスの男は、「君たち、ありがとうね。『浅間でハロウィン』、大成功だと思います」という言葉を残していた。
二人がステージに戻り、物語の歯車はまた回り出す。次なる楽曲は、CD版『ハロウィンと朝の物語』の最後に収められる曲で、その曲名が終演後に発表された「約束の夜」だ。会話に重ねる形で皐月がモノローグを紡ぎ出す。歌に込められた感情は切望か絶望か、悲哀に満ちた歌声を漏らしたあと、ステージに崩れ落ちる皐月。しばしの静寂が訪れた。すると、アリーナ最後方、PAスペースすぐ右側の席から男女が立ち上がる。次いでゆっくりと中央の通路を進んでいく。ステージへと上がった二人のうち、男は眠る皐月を背負い、女はそこに付き従う。「あんなに楽しみにしてたのに」「また絶対に来ような、家族で」「嘘ついたら針千本飲ーます」、幸せそうな会話を続けた家族が暗闇の中へ姿を消していく。その後、夜明けが訪れ、骨の色のごとく白い光が照らす中、目覚めた皐月を背負うは「伯父さん」に変わっていた。サングラスを外し、涼やかな目元を見せる男の背中で、皐月は曲の最後を締める。「私と伯父さんも世界で一人だけだから」。姪と伯父による仲睦まじい会話が続く中、疑似親子は浅間から松本駅前に向かって歩き、そして消えていった。そんな二人を見守るように、近くのビルの最上階には二つのシルエット。一人は背が小さくて子供のようで、その横に男が立っていた。スクリーンには五線譜の上に書かれた「Fine」の文字が映り、こうして『ハロウィンと朝の物語』のセクションは終わりを告げた。
めくるめく物語世界に満場の拍手が送られたあと、バニオンくんとピンクのバニーのぬいぐるみを抱いた“ハロウィン関係者”がステージに戻ってくる。自らを「兎の妖精、ハロウィンモーニングです」と名乗った彼は、浅間温泉の仲間達を全員呼び込む。「浅間でハロウィン」の発案者である雨美から始まり、次々に言葉をかけていくが、その無茶ぶりトークが次々と犠牲者を生んでいく。「Sound Horizonの何か物真似が出来たりします?」と振られたJIMANGは、「楽園パレードへようこそ」という美声を聴かせ、“ハロウィン関係者”から「JIMANGよりJIMANG」という感想を頂戴していた。作詞作業で健闘した皐月とは制作秘話を披露。だが、「桜が散っちゃうのは避けられないさだめ」を「桜散りぬるを」に直すなどの些細な修正だけだったとか。“ハロウィン関係者”は皐月に2025年版の作詞も依頼したあと、「明るい未来へしていこう」と声を上げた。