灼熱のお台場に現れた、憧れと自己実現のステージ 『TOKYO IDOL FESTIVAL 2024』を振り返って

『TOKYO IDOL FESTIVAL 2024』を振り返って

 容赦なく照りつける真昼間の灼熱アスファルト、いま自分は石焼き鍋でこんがり調理されているのでは……。『TOKYO IDOL FESTIVAL 2024』(以下、『TIF』)のメインステージは、今年も『お台場冒険王』屋外特設ステージ=HOT STAGEです。日差しと地面の熱気に挟まれ火鍋がもうすぐ完成……の幻が見えた後、草生い茂るSMILE GARDENに移動すると、ジリジリと足を刺していた熱はスンと静まっています。土と植物のお陰でこんなにも呼吸が楽になることを、強く実感した三日間。

 この老体に真夏の野外活動は無茶すぎる、しかし今年はライブステージの配信がなく、「体験」の希少価値はより高くなっていました。夏のアイドルたちを目に焼き付けたくて、大量の保冷剤とゼリーと飲み物を抱えて8月2〜4日のお台場に向かいました。

1:メタフィクショナルアイドルのひまわり笑顔 塚☆リカ(8月2日:SMILE GARDEN、3日:SKY STAGE、4日:HEAT GARAGE、浮島ステージ)

 CX『アウト×デラックス』でもお馴染みの真面目すぎておかしなことになっちゃう天然筋肉アイドルの一方で、ずっと女性アイドルに憧れ、モーニング娘。 や、でんぱ組inc.になりたかったA.B.C-Z・塚田僚一プロデュースにより、2014年から活動するベテラン新人アイドル、『TIF』初登場ながら強烈な存在感を見せつけた塚☆リカちゃん。

 2022年のゴリエ(最高でした)のように企画コーナーだけの参加かと思っていたら、3日間トーク、ラジオ体操も含めて多数のステージにがっつり出演。「私をさらってプロデューサー」やヒャダイン作詞作曲の「アツアツ!?夏フェス☆!」はアイドル楽曲のお約束(コール&レスポンス、落ちサビケチャ)を過剰に詰め込み、予備知識ゼロの私でもブチ上がりました。

 大輪の向日葵衣装でカワイイ全開アゲ曲から、タイトな黒レザー衣装に早着替えしてクールなプラチナ期的ダンスナンバー「Limited Dance」、ギャップの魅力を数十分のステージに詰め込んでくるエンタメ精神と、途中で露わになるドデカ上腕二頭筋!(警備員BONDSさんよりも太い)

 HEAT GARAGEでは、ラフ×ラフに飛び入り参加のサプライズ。女子アイドルグループの一員になれたことがとっても嬉しそうで、みんなよりちょっぴり大きいけれど、仕草、表情、佇まいの可愛らしさは完全に女子アイドル。そしてラフ×ラフとコラボでモーニング娘。 「ザ☆ピ~ス!」をカバー! なりたい自分になれることの楽しさ、リカちゃんのアイドル大好きが溢れる瞬間でした。

 今この時代にあえて女装しステージに立つリスクを負ってでも、自身の大好きな存在「女の子アイドル」になり、フリフリ衣装で歌い踊る塚☆リカちゃんは、夢を咲かせる自己実現アイドルでした。

2:過去と現在が重なる瞬間――輪廻転生する「あこがれ」「スマイレージ15周年❤︎大好きステージ」(8月2日:SMILE GARDEN)

 現アンジュルムの過去名義・スマイレージ時代の楽曲を、ハロー!プロジェクト後輩・ロージークロニクルら現役アイドルたちがカバーする企画。幼い頃からハロプロのアイドルに憧れ焦がれて、スマイレージの曲を何度も歌ってきた女の子たちが集結する、リスペクトと憧れが詰まったステージでした。

 「それ、りなぷ〜(初期メンバー・勝田里奈)のタオルじゃん!」のツッコミ、ライブ中はステージ横で常に振りコピ――その“推し事”と“お仕事”の鮮やかな両立は流石のMCでか美ちゃん。

 アンジュルムの現役メンバー・川村文乃さん、川名凛さん、為永幸音さん、松本わかなさんは、過去のスマイレージ衣装(「ショートカット」、「恋に Booing ブー!」、「同じ時給で働く友達の美人ママ」、「夢見る 15歳」)で登場!!!

 今年秋でハロプロ卒業、芸能活動引退を発表した川村文乃さんの「アイドルになったからには、いつかはSMILE GARDENに立ってみたいと思っていました」という言葉に涙。ハロプロ加入以前に所属していたグループ・はちきんガールズ時代(『TIF』に出演できず会場でチラシ配りをしていた川村さんに遭遇、写真を撮らせて頂いた思い出蘇ります)から、このステージをどんなに憧れの眼差しで見つめ続けてきたか。グループを脱藩して単身上京、ハロプロそしてアンジュルムに加入という夢を叶えた一人の女の子が、かつて憧れた衣装を着て憧れのステージに立つ姿は、美しくピッと凛々しく、天女様のごとき神々しさでした。

 たくさんの女の子たちの憧れを一身に引き受ける“本家”として歌い踊る川村さんを中心に、“憧れ”の輪廻転生がこの日のSMILE GARDENで起きていました。

3:TIF2024で出会ったときめきたち

・小島はなさん(AMEFURASSHI) 

 遠目に「え! 漫画みたいなすごい美少年がいるんだけど?!」と驚きステージへ猛ダッシュ。オーバーサイズのパンツスタイル衣装で“ボーイッシュ”というより妖艶なナムジャドル(K-POP男性アイドル)、『美少女戦士セーラームーン』に登場する中性的キャラクター・セーラーウラヌス/天王はるか様を連想しました。

・比嘉優和さん(Lucky²)

 おはガール正統アイドルソングだけれど、雑技団なほど複雑な振付で、ダンスプラクティス動画のようにパワフルに踊るミスマッチ感と、剥き出しの踊りそのもののおもしろさ。あり得ないスピードとパワー、でも揃えるところはビシッと揃う、人間の体ってこんなに動くんだ! 後からLDH所属のグループと知り納得。

 なかでも比嘉優和さんの、K-POP最高峰ダンススキルを持つTWICE・モモさんのような艶やかな腰のグルーヴ感、目力と衣装のブリトニー・スピアーズ的佇まいに惹かれました。

・桜庭遥花さん(CUTIE STREET)

 『日プ女子』(『Produce 101 Japan』)練習生時代からのモチモチ桜餅感そのままに、イメージカラー・ピンクのアイドルとしてCUTIE STREETメンバーに生まれ変わった桜庭さん。ずっと画面越しに見ていたその最強可愛いオーラを、KAWAII LAB.発の新ユニットお披露目ステージで直に浴びることができました。本当にほっぺがお餅!

・楓さん(Chu-Z)

 Chu-Zでグリーン担当・楓さんの、お祭りのお神輿担ぎ手のようなちゃきちゃき明るい笑顔と威勢の良さに、初見でも心をグワンと掴まれ、ステージの前から動けなくなりました。12年のキャリアを持つ大ベテラングループで、この翌日の8月4日を最後に活動休止とライブ後に知って、出会ったその日に即失恋した気持ちでした。

 360度ファンサと正面ガチダンスで浮島ステージを縦横無尽に乗りこなし、最後まで一人でも多くの人を楽しませようとする気合に満ちていました。

4:脳内ミラーボールが回り出す、フェスの醍醐味を感じた瞬間の数々

・清 竜人25 (8月2日:HOT STAGE)

 清 竜人デビュー15周年と清 竜人25の10周年が重なった今年、解散から7年の時を経て新しい夫人たちと再結成した、女子全員が清 竜人の妻である一夫多妻制コンセプトユニット。

 一日で最も暑い時間帯、日陰なしアスファルトの上で朦朧とし夢とうつつの区別がつかなくなる中、日本一の踊らせ夫君・清 竜人の超絶グルーヴィ歌謡ショー。4人それぞれタイプの違ったきゅるんきゅるんの可愛い声が、夫「竜人くん」の低音によって更に可愛く引き立たされ、ウェディングドレス衣装は日差しの中で輝くつやつやした光沢感ある生地と、シックな輝きのパールとビジューでフェアリー感全開です。

 「Will♡You♡Marry♡Me?」からの「Mr.PLAY BOY…♡」〈Let’s Twist!〉で、楽しそうに振りコピしている若者たちの体力が心底羨ましくなりました。

 第101夫人の清さきなさん(頓知気さきな/femme fatale)が竜人くんに顔を寄せられ「え、近い、近い!」と歌いながら吹き出していたり、曲の合間の水分補給で第103夫人の清凪さん(根本凪/ex. 虹のコンキスタドール、でんぱ組.inc)が「竜人くん」のお水を間違えて飲んでしまったり、新婚さん×5の新鮮なイチャ付きを見られるのは今だけ。「今回は長い期間やるつもりではない」(※1)のでより限りある新婚生活です。

 新しいアーティスト写真やMVからは、ただのイチャイチャ空騒ぎにとどまらないコンセプチュアルなグループであるとビシビシ伝わります。既にアイドルとしてのキャリアを持ち、清 竜人の思い描く世界を実現できる夫人たちとの蜜月ショータイムを、明るいうちから堪能できました。

・lyrical school(8月2日:SMILE GARDEN、3日:浮島ステージ、4日:DOLL FACTORY)

 「みんなが集まるリリカルスクール」、何だか楽しそうなことやってるなー寄ってみよう! と、通りすがりの者達を引き寄せる力の強さは随一、徐々に人が集まり観客の空気が熱くなってくる光景が『TIF』のlyrical schoolリリスクの醍醐味。SMILE GARDENで去り際にminanさんが語った「アイドルが好きで、音楽が好きで、楽しいことが好きな皆さんの心に、lyrical schoolが届いていますように!」という言葉に、心の中で「届いてるよー!」と答えました。

 『TIF』の終わりが近づく最終日夕方のDOLL FACTORY、秋葉原のクラブMOGRA企画「TIF2024×MOGRA コラボステージ」。manaさんとreinaさんが、Tomato n'Pine「ワナダンス!」から東京女子流、私立恵比寿中学、フィロソフィーのダンスら歴代『TIF』レジェンド楽曲派アイドルで繋ぐ楽しすぎるDJで、時に卓から飛び出して自ら踊りまくる楽しくかわいい時間…と思いきやモーニング娘。 「泡沫サタデーナイト!」からのlyrical schoolリリスク「プチャヘンザ!」繋ぎでLyrical school全員乱入大騒ぎが始まり、「dance」で客もステージの上も好き好きに踊り、疲れと寂しさを抱えた祭りの終わりのしんみり気分を最後のパーティーで吹き飛ばしてくれました。

・ukka(8月4日:SMILE GARDEN)

 映画館でかかる配給会社のロゴ映像のように壮大なインスト「We are…」で登場し、今このSMILE GARDENの全てが劇場版ukkaの始まりの期待感に煽られ、表情豊かにコケティッシュな魅力が炸裂する「推し≒恋」からの「それは月曜日の9時のように」「ラブ・パレード」の最強ダンス曲畳み掛け。やっと涼しくなってきて風の心地よさも感じられる時間帯、草の匂いや木々のざわめき、飛び交う虫たちまでも演出の一部に感じられる野外ステージの開放感と、楽曲のどこまでも広がる心地良さがこれ以上なく合致して、「これこれ、これが聴きたかったんだよ~~~!」という名曲欲がしっかり満たされました。

・フィロソフィーのダンス(8月2日:SKY STAGE)

 少しずつ日が傾いてくるマジックアワー直前、まだまだ夜は遠く、じっとりと汗ばむ時間帯。『TIF』名物SKY STAGEのお台場の湾岸ビル群を背景に、フィロソフィーのダンスの頰や肩にゆっくりと射す陽の光は天然のスポットライト。昼と夜の合間にアルバム曲やカップリング曲で構成された通好みセトリ、フィロソフィーのダンスにしか出せないチルな空気を浴びて、ドロドロの体も脳も形を失ってとろけそうでした。この日初めて聴けた「ムーピー・ゲーム」を聴くたびに、ムーピーのように全身が溶けていく(?)感覚が蘇ります。

5:私立恵比寿中学 (妹)、(姉)、全員(8月3日:HOT STAGE、SMILE GARDEN/妹、姉)

 これまで何度も『TIF』に出演している私立恵比寿中学(以下、えびちゅう)が、キャリアの長い年長メンバー(姉)と、2021年以降加入の年下メンバー(妹)の2組に分かれて初の出演。

<妹>

 写真や映像の2次元でしか知らなかった妹メンバーたち、その実物は、古代ギリシャの彫刻作品のような完璧なバランスと清らかな美貌。真夏の日中に激しいダンスで汗だくになっても美しさがどんどん増していくことに驚愕しました。

 3B junior時代の楽曲「ダイビング」に始まり、「エビ中一週間」「ザ・ティッシュ~とまらない青春〜」「大人はわかってくれない」。「エビ中と言えばこの曲」と往年の『TIF』常連客が飛びつく名曲たち、自分がえびちゅうライブに通っていた頃の「目の前で超絶美少女たちが、大好きな音楽を歌って踊っている喜びと有難み」が思い出とともにブワッと蘇る一方で、アングラ味さえあった“学芸会”が、洗練された美少女たちのハイスキル歌唱によって大人も子供も楽しめるEテレ教育番組的に変化していました。

<姉>

 圧倒的“綺麗なお姉さん感”!“姉”ってAneCan(休刊中)の姉だったの?! 

 かつて観た中高校生の少女たちがこんなにも美しく成長して、今も元気いっぱいに(本当に元気いっぱい!)パフォーマンスしてくれていることへの感謝でいっぱいになるライブでした。安本彩花さんがピッカピカの笑顔で歌っている姿を見るだけで、涙が出ます。

 「えびぞりダイアモンド!!」でファミリー(えびちゅうファン)をブチアゲさせてから一転、真山りかさんの「音に酔っていきましょう」という言葉で始まった「愛のレンタル」で、お姉さんメンバーならではのしっとり大人の魅力を響かせたかと思えば、「熟女になっても」で私の頭は大バカ騒ぎ、最後は「HOT UP!!!」でバチバチにカッコ良く決めて締め括る。たった数十分のライブにえびちゅうの“おもちゃ箱”な魅力を詰め込んでくる強靭なライブ力に、姉組カッケーーー! と、心の中で叫びました。

<全員>

 日が落ちて少しだけ涼しい風も吹き始めたHOT STAGE。湾岸の風景にぴったりの青×白マリン衣装(今年春のツアー衣装)を纏い、「エビ中出席番号の歌」に代わってKennyDoes(梅田サイファー)提供の自己紹介ラップ曲「Knock You Out!」で登場。全員のラップスキルのヤバさが炸裂! これが現在のえびちゅうなんだ、えびちゅうってラップグループになっちゃったの?! XGと対バン切望!(アイドルがラップ上手いのは当たり前の時代って本当にすごい)

 「揚げろ!エビフライ」ではかつて一緒にタオルをブン回した瞬間が蘇って腕が疼き、『ファミえん』(夏の定期開催ライブ)定番の大人気曲「ラブリースマイリーベイビー」ではイントロが流れた瞬間に地鳴りのような観客の喜びの声に包まれました。

 沢山の試練を乗り越えてステージに立ち続ける彼女たちだからこそ描ける、歪みなく清らかな青春像。捻くれた自分にも、まっすぐでいられた青春時代があったと思い出させてくれる時間でした。

 今年初めて作られた「浮島ステージ」は、学園祭ですか? というくらいに小さいながらも、360度どこからでも楽しむことのできる絶妙な高さを備えた円形ステージ。推しアイドルの普段見ることのできない角度や表情を、広々した青空と走るゆりかもめ、ほんの少し感じられる潮風と共に眺められる贅沢な時間。豪華なセットと照明に代わって、今この場にあるものを最大限に活用した、『TIF』のなかで最もSDGs精神溢れるステージなのかもしれません。

 灼熱アスファルトで「もう限界……」となって草むらと木陰や冷房ガン冷えの屋内に移動し「助かった~! 命が!!」を交互に繰り返す日々。観たい/聴きたい欲と、命の安全とを秤にかけて分刻みの時間配分。普段ぬくぬくぬるま湯で生きている自分に、この命は一つしかない、人生は一回しかない、時間は巻き戻せない、という厳然たる事実を刻みつけにいく体験が、『TIF』です。

 しかし、大好きなアイドルたちにはできるだけ快適な状態でいてほしい。夢を叶えてステージで輝く姿と、命の安全は秤にかけられるものではないはずです。そもそも『TIF』自体がフジテレビ施設とお台場冒険王の特設ステージを流用することで成り立っているので、この酷暑でも開催時期を移動させづらいことは容易に想像できますが、夢を与える女の子、夢見る女の子の未来のために考えていくことが必要火急ではないかと、数日間熱が抜けずにぐったりとしながら思い耽りました。

※1:https://realsound.jp/2024/08/post-1746239.html

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