サザンオールスターズ、“特別で異様な空気感”を上回るライブパフォーマンス ROCK IN JAPAN FESTIVAL徹底レポート

サザン、最後の夏フェス出演を徹底レポ

 異様な空気感だった。桑田佳祐として初出演した2002年も、サザンオールスターズが初出演した2005年も、桑田佳祐の二度目の2017年も、サザンオールスターズの二度目の2018年も、それぞれ毎回、とても特別な空気感が会場を覆っていたが、それらのどの時とも違っていた。

 フェス自体の25周年と、ひたちなか市誕生30周年を記念して、コロナ禍前の2019年以来5年ぶり、かつ2022年から千葉市蘇我スポーツ公園に開催地を移して以降で初めて、国営ひたち海浜公園で開催されたROCK IN JAPAN FESTIVAL(以下RIJF)。

 その、9月14・15・21・22・23日の、5日間の大トリ……いや、例年どおり蘇我スポーツ公園でも、8月に二週末・5日間にわたって開催されたので、それも足すと合計10日間の大トリということになる、サザンオールスターズの出演は。

 その出演の発表と同時に、サザンにとってこれを最後の夏フェス出演とすることも、アナウンスされた。そして、大トリとは言え、フェスの中の1アクトとしてはかなり異例の、全国の映画館332館での、ライブビューイングが行われた。フェスのチケット50,000枚は速攻でソールドアウトした上に、ライブ・ビューイングの方も完売したという。

 その異様で特別な空気感は、サザンの出番以前に、当日の朝から始まっていた。客席エリアなど、会場全体に漂うムードも然り、出演者たちの言動も然り。

 自分たちは、大学のサークルで結成して、ここまで来たバンドである。サザンも大学のサークルで結成されたバンドで、めちゃくちゃ憧れているし、サザンのようになりたいと思っている──この日のトップのアクト(朝10:30から)だったヤバイTシャツ屋さんは、そんなMCから「サークルバンドに光を」を演奏した。

 国内トップクラスの知名度と人気を誇る存在にのし上がったこの日の四番手、Creepy NutsのR-指定は、「自分が物心ついた頃に聴いていたアーティストと、まさか同じステージに出るなんていう、考えもせえへんかったことが起きるわけですよ」と言った。

 トリ前にステージに立った、THE YELLOW MONKEYの吉井和哉は、中学を出てすぐ、自分が生まれて初めてステージに立った時に演奏したのが、サザンオールスターズの曲だった、という話をして、「チャコの海岸物語、C調言葉に御用心、匂艶(にじいろ)THE NIGHT CLUB……」と、その時のセットリストを諳んじでみせた。

 その次のMCのタイミングでは、自分が「ボーカリストとしてあまりよろしくないところが病気になってしまった」ことに触れた吉井。「さっき桑田さんが勇気づけてくれました。『時間薬』っていうのがあるよ、と。だから『桑田さん、そしたら俺、おじいさんになっちゃうよ』と言ったら、『バカ野郎、俺を見ろ』と言われました」。

 そのTHE YELLOW MONKEYの出番が終わり、ステージの転換が始まる。スタート時刻である17:45の20分前になると、会場の上空をヘリコプターが旋回し始める。ライブ・ビューイングのためだろう。

 開演時刻2分前には、みんな勝手に手拍子を始めた。ほどなく収まったが、開始時刻の17:45になると、また始まる。そして、それが約1分続いたところで、ジングルと共にビジョンにバンド名が写し出された。

 ──と、ここまで書いた「特別で異様な空気感」は、すべて、今年のこのフェスのこの日に関する状況や環境、オーディエンスや共演者の受け止め方、世の中の反応、スタッフワークなどの、言わば「バンドの外側」の「特別で異様な空気感」に関しての話だった。そして、ステージに登場したサザンオールスターズは、ライブパフォーマンスそのものでもって、その「特別で異様な空気感」を、あっさりと上回ってみせたのだった。

 まずサポートメンバーたちがステージに現れ、そこにメンバーたちが続く。その最後は、「LOVE’N’PEACE」とプリントされたTシャツを着た桑田佳祐。全員でつないだ手を上げ、振り下ろして大きくお辞儀してから持ち場につき、演奏し始めた1曲目は「女呼んでブギ」。

 1年前の「茅ヶ崎ライブ」では2曲目にプレイされた、1978年リリースのファーストアルバム『熱い胸騒ぎ』の収録曲である。桑田が最初にスタジオにこの曲を持ってきた時、歌いだすや否やメンバー全員が爆笑して演奏が中断した、という逸話を持つこの曲で(出典:関口和之の1983年の著書『突然ですがキリギリス』)、サザンは最後の夏フェスのステージを、スタートした。

 この日、サザンが演奏したのは、本編17曲、アンコール2曲の全19曲。尺は、17:46に始まって、終わって時計を見たら19:37だった。フェスの1アクトとは思えない。ちょっと短めのワンマンのボリュームである。

 「女呼んでブギ」のアウトロでは、関口&桑田&斎藤誠が演奏しながら並んで後ろを向き、リズムに合わせて尻を振った(その後ろで毛ガニ(野沢秀行)も振った)。

 「THE YELLOW MONKEYが終わったら半分くらい帰るって聞いてたんですけど、残ってくれてありがとうございます。では新曲、聴いてください」というMCから、2曲目で早くも最新曲の「ジャンヌ・ダルクによろしく」が披露される。しかも、曲頭に特効の爆発付き。

 4曲目「海」の始まりと終わりには、ステージ中央後方の巨大LEDが、美しい海の映像になる。次の「神の島遥か国」のサビでは、TIGER(コーラス)の先導で、フィールドいっぱいに、オーディエンスの腕が、大きく左右に、まるで波のように振られた。

 イントロでオーディエンスが「おおっ」とどよめき、即座にハンドクラップが始まり、ここまででこの日いちばんのシンガロングが起こった7曲目「愛の言霊(ことだま)〜Spiritual Message〜」では、ステージ前方の左右いっぱいに、特効の炎が出る。

 その「おおっ」のボリュームも、シンガロングのボリュームも、次の「いとしのエリー」で一層大きくなる。歌の頭の〈泣かした事もある〉から最後の一節まで、オーディエンスみんな、歌いっぱなし。

 9曲目「思い過ごしも恋のうち」では、画面に当時の映像(おそらくテレビの音楽番組でこの曲を演奏している時のもの)が映り、その前で桑田と斎藤誠が、ツインでギターソロを聴かせた。

 二度目のMCで、ライブ・ビューイングで観ている人たちにカメラ越しに挨拶を送り、豪雨の災害に見舞われた能登地方にお見舞いの言葉を述べる桑田。そして、「ヤバイTシャツ屋さん、好き? さっき楽屋で話しちゃった」などと、本日のすべてのアクトの名前を挙げる。基本的に桑田佳祐、MCで共演者の名前を口にするのは、2002年から変わらない。

 「あとでみんな出て来ればいいのにね。嘘、みんな帰っちゃったよ。このへんで景気づけに、掛け合い、できるかな?」とオーディエンスに呼びかけ、「イェー」から始まるコール&レスポンス。「ピッチ悪いよ」とダメ出ししたり「あ、すごくいいすごくいい!」と称賛したりしたあと、そのコール&レスポンスが「東京VICTORY」の冒頭の〈♪Wow…〉へつながっていく。最後の〈We got the victory.〉のところは、「イイねROCK IN JAPAN」に変えて力強く歌われた。

 斎藤誠がウクレレを弾き、桑田がハンドマイクで歌った「真夏の果実」を経て、もうひとつの今年の新曲、「恋のブギウギナイト」へ。レーザー光線風の照明が飛び交い、スモークが焚かれ、EBATOダンシングチームがこの日最初の出番を迎え、高級クラブのホステス&ボーイの出で立ちで、妖しく舞い踊る。間奏では、MVと同じくブレイクダンサーも登場。

 同曲のアウトロに、桑田は「♪ピアノ売ってちょーだい、タケモトピアノ」という一節を放り込み、1年前に亡くなった財津一郎を偲んだ。同じく、オーディエンスの大合唱が起こった「LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜」のアウトロには、ロネッツの「BE MY BABY」を織り込む。

 ごっつい炎が吹き上がりまくり、1サビ終わりでドカンと特効が鳴った、つまりここまででもっともど派手な演出が施された「マチルダBABY」を経てからは、「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」「みんなのうた」「マンピーのG★SPOT」、つまり、おなじみのキラーチューンが並ぶ、本編ラストのピークゾーンに突入する。

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