琴音、5年間で重ねてきた経験と新たな可能性 原点と今を繋ぐニューアルバム『成長記』を語る

琴音、原点と今を繋ぐ『成長記』

 メジャーデビュー5周年を迎えた琴音がニューアルバム『成長記 〜Now&Best(2018-2024)〜』をリリースした。タイトル通り、活動の総括的な位置づけの作品である一方、ドラマ『嗤う淑女』(東海テレビ・フジテレビ系)主題歌としてオンエアされているミステリアスな1曲「Heaven」を筆頭に、琴音にとって斬新なトライをした新曲がたっぷり収録されたアルバムでもある。原点も変化も大事にしながら、シンガーソングライターとしてさらなる真価を発揮している琴音にインタビューを行い、ありのままの“今”が反映された制作を振り返ってもらった。(編集部)

「人との出会いが大事」だと再確認

――今年3月でメジャーデビューから丸5年が経ちました。振り返るといかがですか?

琴音:少しは成長できたかなとは思いますね。デビューしたことでいろんな人たちと関わるようになったし、ライブにしても昔は対バン形式のイベント出演が多かったけど、ワンマンライブをすることがどんどん増えていって。そういった状況に最初は右も左もわからない感じで困ってしまってたんです(笑)。でも今は置かれている状況が自分なりにわかってきたし、ある程度は安定した活動ができるようになったと思います。関わる人が増えたことで、その都度、新しい発見があるので、この5年間で確実に経験値が増えたし、音楽に対しての視野も広くなった気がします。

――音楽への向き合い方にも変化を感じるところはありますか?

琴音:アレンジャーさんをはじめ、関わる方々によって毎回、変化する部分はあるんですけど、自分の根本は意外と変わってないかもしれないですね……でもライブに関してはちょっと変化したかな。メジャーデビュー以降はワンマンを中心にライブを行う時期が長かったんですけど、最近はまたイベントに出ることを増やしているんですよ。ある意味、原点回帰なんですけど、そこはこれからも増やしていきたいと思っていて。

琴音(撮影=秋倉康介)

――他のアーティストとの関わりから刺激を受けたい気持ちが大きくなったということなのかもしれないですね。

琴音:そうですね。やっぱり人との出会いが大事なんだなって、昔よりも強く思うようになったんだと思います。私は普段引きこもりがちなので、ライブもワンマンばかりやっていると、インプットがなくなってしまうような気がして、自分から出会いを求めていくようになったんですよね。そこはこの5年で大きく変わったところだと思います。イベントでは他のアーティストさんともいろいろ話すようになりましたし。

――プライベートで外に出ることを意識したりも?

琴音:そこはまだダメかな(笑)。外に出るのが億劫になってしまって、つい引きこもってしまいます。

デビュー時から現在まで、レコーディングの変化と成長

――そんな琴音さんから、ニューアルバム『成長記 〜Now&Best(2018-2024)〜』が届きました。今作のDISC-1にはまず、この5年間で発表されてきた既発曲が、カバー楽曲を含め9曲収録されています。そこに並んだ曲たちからどんなことを感じますか?

琴音:ドラマや映画、CMなどいろいろなタイアップをさせていただいた曲を中心に収録しているので、そのご縁をありがたく思うと同時に、本当にいろんなことをやってきた5年だったなって思いました。「意外と頑張ってきたな、自分」と思ったりもしましたね(笑)。

――ご自身のボーカルに関して、何か感じる部分はありますか?

琴音:歌い方はもちろん、声に関してももしかしたらちょっとずつ変わっているのかもしれないですけど……どうなんだろう。自分ではあまりわからないですね。家族からは声がすごく変わったって言われることもあるので、聴く人や楽曲によりけりなのかもしれないです。

琴音- ここにいること(Short Ver.)

――収録曲で言うと、「ここにいること」(デビューEP『明日へ』収録曲)が最も初期の曲になりますけど、その段階ですでに琴音さんのボーカルスタイルは完成されているような印象がありますよね。もちろん、そこから成長、進化をされているのも間違いないんですけど、その声が持つ圧倒的な存在感、説得力はすでにデビューのタイミングでしっかり提示されていたんだなと。

琴音:本当ですか、恐縮です(笑)。歌い方に対しての自分なりのやり方は、デビューの段階で確立していたところはあったかもしれないですね。あ、でもレコーディングの仕方は結構変わったんですよ。提供していただいた楽曲を歌う機会が増えてきたタイミングで、歌詞カードにめっちゃ細かく歌い方のイメージを書き込むようになったんです。1フレーズずつ、1文字ずつ。「ここはこう歌う」っていうことを書き記して、その設計図を持ってレコーディングに臨むようになりましたね。セルフディレクションのようなことを事前にするようになったというか。

――そうなったのはいつ頃からなんですか?

琴音:いつだったかなあ……今回のアルバムに入っている曲で言うと、「君は生きてますか」(2021年6月)のあたりですね。それ以前もちょっとずつ書き込んだりはしていたんですけど、「もっとしっかり自分でディレクションして臨まなきゃ!」って思うようになったのがそれくらいのタイミングで。

――それこそがご自身にマッチする手法だったんでしょうね。

琴音:そうですね。それが見つかったっていう。それ以降は自分で書いたオリジナル曲においても、そのやり方をするようになりました。それまでは、「自分の曲は自分が一番よくわかってる」ぐらいの自負があったので、その場の雰囲気で歌えばいいと思っていたんです。でも、意外とセルフディレクションした上で歌った方が、完成度が高くなることに気づいて。「ライト」や「君に」(ともに2023年4月リリース『君にEP』収録曲)の前後ぐらいからは、そういうやり方をするようになりました。

――一方、アルバムには今の琴音さんを感じられる新曲もたっぷり収録されています。DISC-1の1曲目「Heaven」は放送中のドラマ『嗤う淑女』(東海テレビ・フジテレビ系)主題歌になっている、ダークでミステリアスなナンバー。作詞をいしわたり淳治さん、作曲をSOULHEAD、HNDさんが手がけています。

琴音:琴音としてこういう楽曲を歌えたのは、またひとつ可能性が開けた手応えはありましたね。元々、プライベートでは結構ダーティな曲を聴くのが好きなので、この曲が今後の表現の幅に繋がったらいいなと思います。

琴音 - Heaven (Official Music Video)

――新たな琴音さんの魅力を感じることができるボーカルだと思いますが、レコーディングはいかがでしたか?

琴音:ハイトーンの部分はグッと力を込めて出さなければいけなかったので、そこは何回も録りましたね。難易度の高い根性勝負だなとも思いつつ(笑)。

――先ほどのお話で言うと、これも緻密な設計図を元に歌った感じですか?

琴音:はい。セルフディレクションは徹底的にやりましたね。平歌なんかは声をちょっと抜いて歌わないといけなくて。本当にちょっとしたニュアンスでだいぶ印象が変わってしまう部分でもあったので、そこはかなり繊細に、神経を研ぎ澄ませて歌いました。

――曲中にちょっとセリフっぽいラインもありますよね。

琴音:そうなんです。実はそこが一番しんどかったですね、メンタル的に(笑)。私は自分の地声、しゃべり声があまり好きではないので、テイクを録るたびに確認で聴くのが本当にしんどくて。結果的にいい仕上がりになったとは思いますが、自分としてはちょっと苦い思い出でもありますね(笑)。

――2曲目からは琴音さんが作詞と作曲に関わった楽曲が続きます。「image」は詞・曲ともに琴音さんが手がけています。曲が進むにつれて熱を帯びていくサウンドと相まって、ちょっとロックな表情を感じることができました。

琴音:私は昔からずっとミスチル(Mr.Children)が本当に大好きで。曲作りを始めた中学生の頃から、普遍性という部分において目標としているアーティストだったんです。この曲の制作過程では、ずっとミスチルを思い描きながら作っていました。

――歌詞に関してはどんなテーマで書いていったんですか?

琴音:仲間たちとの関わりの中で生まれてきた感情を書きました。私は音楽の専門学校に通っていたんですけど、そこでは「自分は音楽しかできないんだよね」と言う人によく出会ったんです。でも、そういう人って音楽をやめたとしても別の世界で普通に生きていけると思うんですよ。「自分がやりたくてやっている」と言う勇気がないから、そういう言い方をしているんじゃないかなって私はすごく思って。

――なるほど。琴音さんはその勇気を大事にしたいわけですか。

琴音:そうですね。「自分がやりたくてやっている」と言える勇気って、音楽をやる上でめちゃくちゃ大事だと私は思っているんです。だから、「音楽しかできない」なんて言わないで、「やりたいからやっているんだ」と言える度胸を持とうよっていう、そんな気持ちから生まれた歌詞なんですよね。少し反感を買う可能性もありますが(笑)、私のちょっと尖った部分が見え隠れしている曲になりました。

琴音(撮影=秋倉康介)

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