chilldspotが語る、EP『echowaves』制作背景 セルフプロデュース作で強化された“バンド”らしさ

chilldspot、強化された“バンド”らしさ

聴き手の心と繋がった時に初めて曲が完成する感覚がある

chilldspotインタビュー写真(撮影=伊藤惇)

ーー「sway」は洗練されたコード進行をはじめ、ジャズやソウルミュージックからの影響を色濃く感じます。

比喩根:「何曲目にどんな曲を入れるか?」みたいなアルバムの流れを考えていた時に、1曲くらい落ち着いたものを入れたいという話になったんですよ。それで玲山くんが、確かエリカ・バドゥやそういったジャンルに影響を受けたトラックを作ってくれたんです。前々から玲山くんが「ソウルっぽい曲やった方がいいよ、絶対いけるよ」って言ってくれてたんですけど、「いや無理だよ」とずっと言ってて(笑)。この曲で挑戦してみることにしました。

ーー後半に向けてフェイクしていくボーカルがとても印象的ですね。

比喩根:ありがとうございます。ソウルシンガーとかジャズシンガーになりきって歌いましたね。特に最後のフェイクとか、コーラス部分は2000年代のR&Bっぽい雰囲気を目指しました。この曲は逆にコーラスもそんなに多くなくて、むしろメインがしっかり引き立つようダブルトラックにしています。

ーー歌詞にはやるせない気持ちや痛みが込められています。

比喩根:私が中学生から高校生くらいの時期のことを書いています。ちょうど反抗期が始まった頃で、家では両親の喧嘩が絶えなくて。発散できる場所もなかったから、自分の部屋にこもってひたすら音楽や趣味に没頭していました。

ーー当時の比喩根さんにとってはしんどい時期だったのでしょうけど、そこで音楽や趣味にのめり込んだことが、今のクリエイティブにも活かされたのではないでしょうか。

比喩根:そう思います。エネルギーが有り余っていた中高生の頃、とにかく何でも吸収していたので。

chilldspotインタビュー写真(撮影=伊藤惇)

chilldspotインタビュー写真(撮影=伊藤惇)

ーー「いのそこ」は、本作EPの中でもひときわトリッキーな曲ですね。プログレッシブだし、話し言葉のようなボーカルもインパクトがある。

比喩根:Hiatus Kaiyoteや中村佳穂さんの音楽に感銘を受けて、テクニカルでカオスな曲を作りたいと思って玲山に頼んだら、このトラックが送られてきました。「カオスだー!」って大興奮して(笑)、すぐに歌詞を書き始めましたね。

玲山:Hiatus Kaiyoteや中村佳穂さんは、比喩根から話を聞いて初めて聴いたのですが、そのエッセンスを自分なりに消化しながら曲を作りました。カオス感を出すのも結構大変でしたね。toeのようなポストロック系の音楽もすごく好きだったので、そこも意識しつつ。あとは(比喩根が楽曲「Shadow feat. hiyune from chilldspot」に参加した台湾の3ピースバンド)Elephant Gymの影響も少し入っている気がしますね。

小﨑:ベースも玲山がデモの段階で考えてくれて。それが本当にカオスで(笑)、自分なりにアレンジするのに苦戦しました。「ごめんね、こんなフレーズ考えちゃって」とスタジオで玲山に言われたのですが(笑)、実際にレコーディングで弾いてみたらすごく楽しくて。すごくノリが良いし、ライブでも盛り上がりそうな曲だなと思っています。

ーーこの曲の歌詞もかなり赤裸々で、ヒリヒリとした緊張感がありますね。

比喩根:最初のEPを出したのが高校3年生の冬くらいで、その2年前から過食が止まらなくなっていたんです。おそらくストレスや成長期など、いろいろな要因があったんでしょうけど、その時に感じていたことを、自分でも「ちょっと生々しいかな?」と思うくらい赤裸々に書きました。そのプロセスを経て、今は少しずつ自分の体型や見た目を受け入れられるようになりましたね。この曲は、当時の視点というよりは、闇を抜け出して振り返っている感じです。

ーー〈自分に当たりながら自分をゆっくりと/噛んで戻して食べて吐いて/心を待って、待って、待って、飲み込んで/受け入れてく〉という歌詞には、過食と自分自身を受け入れることが、二重の意味で表現されていますね。

比喩根:そうですね。「いのそこ」というタイトルも、何かを欲しがる気持ちと、自分が今やっているバンドを手放したくない気持ちが重なっていて。歌詞にあるように「消えちゃえばいいや」と思っていた時期もありましたが、それ以上に、現状にしがみつきたいという強い思いがありました。それを〈カメラ越しの私ごと消えてしまえば綺麗と思った/楽になりたかった/でも消さないで/胃の底から伸びてる手、分かってるの〉という歌詞で表現しています。赤裸々に書きつつ、少し抽象的な表現を入れることで、聴いてくれた人が自分の気持ちと重ね合わせて感じ取れるよう意識しました。自分の楽曲は、聴き手の心と繋がった時に初めて完成するという感覚があるんですよね。

“無責任な自分”をあえて赤裸々に表現した理由

chilldspotインタビュー写真(撮影=伊藤惇)

ーーEPの最後を飾る「傍白」も、シューゲイザーやグランジからの影響を感じます。実は「傍白」という言葉をこの曲で初めて知りました。舞台などで、相手には聞こえないものとして、観客にだけ自分の考えを知らせる形で述べるせりふのことを指すのですね。

比喩根:タイトル案を2人に送った時、玲山くんからも「『傍白』ってどこで知ったの?」ってLINEが来ました(笑)。最初は「独白」にしようと思っていたんですけど、「傍白」の方が、この曲の「誰かに伝えたいけど、それが全員じゃなくてもいい」という思いにぴったりだなと思って、最終的にこのタイトルにしました。

玲山:この曲の制作では、グランジやシューゲイザー的な要素を取り入れたかったのですが、実際にはベンソン・ブーンさんの「Beautiful Things」のようなポップスもリファレンスにしたことで、キャッチーで聴きやすい仕上がりになったと思います。

比喩根:リファレンスを送ると、小﨑と玲山がそれぞれ違う視点から曲を捉えてくれるんですよ。それが面白くて。小﨑は曲の核を掴むのが得意で、玲山は楽器の細かいフレーズや関係性を重視しているというか。

ーーそういう多様な視点が、chilldspotの音楽性を豊かにしているんですね。

比喩根:そう思います。

ーー「傍白」の最後は、1曲目「ray」に繋がるようにも感じました。

玲山:そうなんです。「傍白」の最後、ギターのアルペジオを1曲目の「ray」のギターの音色と全く同じにしていて。おっしゃるように、最初と最後が繋がるよう意識していますね。

ーー歌詞はどんなイメージで作りましたか?

比喩根:例えば「Monster」(2021年)では、親や友達の親に対する怒りを歌詞にしましたが、今は環境や政治、周りの出来事に対して、以前ほど強い関心を持てなくなってしまったんですよ。「向き合わなければいけない」という気持ちもあるのですが、どうしても立ち止まってしまっている自分がいて……。世界中には困っている人もたくさんいるのに、自分は日本という安全な国に住んでいながら、ただそこにいるだけで何もできていない。そういう感覚が常にあるんですよね。

ーーそれが冒頭の、〈飛び交う論争、そして迷走/距離を置きたくなるような/けど、なぜか逃げてしまっているような〉という歌詞で表現されているんですね。

比喩根:はい。「自分が一人で何かやったところで、大した影響なんてないだろうな」とか、「向き合っても今の私にはあまり関係ないんじゃないかな」みたいに思ってしまうんです。今の自分の現状と、周りで起きている出来事のギャップに苦しんでしまう。例えば〈手を伸ばしたい/できない、ごめんなさい〉〈何も起こせずに/疲れ果てて/空を見上げ/偽善の涙を流す〉という歌詞は、まさに「思っているだけで行動に移せていない自分」を表現しています。行動せずに心を守ろうとする自分を〈許して、弱い僕を/許してほしい、ただ〉というフレーズで、大きく認めているんです。

ーー今の世の中って、いろんな問題に対して何かしら意見を言わなければいけないような空気がありますよね。立場を明確にすることや、アーティストとして何かメッセージを発信することが強く求められるというか。でも、それってどうなんだろうと思うこともあって。距離を置くことが「逃げ」と思われるのもおかしいですし、そもそもすべての問題にコミットできるわけではない。そういうことへの違和感が、歌詞に表れているんじゃないかなと感じました。

比喩根:確かにそうですね。

ーーそれでも、〈取り巻く現状、錆びる感情/スタートは諦めから/その思考に油を差さなきゃ〉という歌詞には、諦観しつつも絶望していないことが示されていますよね。むしろ、何か覚悟のようなものを感じます。

比喩根:おっしゃる通りで、無責任な自分をあえて赤裸々に表現することで、逆に今の自分に覚悟を持たせることができるんじゃないかと思って書きました。みんなそれぞれ、毎日のいろんな問題に苦しみながらもがいている。それ自体が努力であり、頑張っていることなんだと感じています。

ーーもうすぐ始まる4回目のワンマンツアー『4th one man live tour "crowdsurf"』に向けて、最後に意気込みを聞かせてもらえますか?

玲山:曲が増えて、セットリストを組む時にたくさん選べるようになったので、さらに良い感じのライブができそうだなと思っています。

小﨑:各地でこの曲をやって、みんながどんな風に乗ってくれるのか楽しみですね。ワクワクしながら、今は練習しています。

比喩根:ちなみにファイナル公演はZepp Shinjuku (TOKYO)で行うんですけど、チケットがもう売り切れたんですよ! それが本当に嬉しくて。今回のツアーもこれまで以上に良いものにしますので、ぜひ楽しみにしていてください。

※1:https://realsound.jp/2023/05/post-1319174.html

chilldspot『echowaves』ジャケット写真
『echowaves』

■リリース情報
EP『echowaves』
2024年9月18日(水)配信リリース
配信リンク:https://lnk.to/echowaves

【収録楽曲】
01 ray
02 have a nice day!
03 sway
04 いのそこ
05 傍白

■ツアー情報
『chilldspot 4th one man live tour“crowdsurf”』
チケット代:4,500円(税込) ※ドリンク代別
<購入>
・チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/chilldspot-tour24/
・e+(イープラス):https://eplus.jp/chilldspot/
・ローチケ:https://l-tike.com/chilldspot/
・インバウンドチケット(ぴあ):https://w.pia.jp/a/chilldspot24eng/

<スケジュール>
2024年9月22日(日・祝)長野ライブハウスJ
2024年9月23日(月・祝)金沢vanvanV4
2024年9月26日(木)京都磔磔
2024年9月29日(日)福岡BEAT STATION
2024年10月5日(土)神戸VARIT
2024年10月6日(日)高松MONSTER
2024年10月26日(土)北海道 cube garden
2024年11月4日(月・祝)仙台Rensa 
2024年11月9日(土)岡山YEBISU YA PRO
2024年11月10日(日)広島セカンドクラッチ
2024年11月15日(金)名古屋ボトムライン
2024年11月23日(土・祝)大阪Yogibo META VALLEY
2024年12月2日(月)東京Zepp shinjyuku(TOKYO) SOLD OUT

■関連リンク
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