日食なつこ×あいみょん対談 6年ぶりに語り合うアーティストとしての幸せ
変わり続ける二人の音楽
――お二人のライブの話もお伺いしたいです。弾き語りとバンド形態とそれぞれ行っていることは共通点かと思いますが、出会ってからの約10年間の中でライブに対する向き合い方がどのように変化してきたのか、それぞれいかがでしょうか?
あいみょん:ドラムとピアノのスタイルって当時もそうだし、今もあんまりいないですよね。
日食:多分そんなにはいないと思う。
あいみょん:私もやりました。ドラムと2人で。
――1stアルバム『青春のエキサイトメント』の一曲目「憧れてきたんだ」はそのスタイルでしたよね。
あいみょん:音源でもやったし、ドラムと2人のツアーをやったりもしてます。でも日食さんを先に見てるのもあって、そのかっこよさと難しさを痛感しました。日食:アコギとドラムだとまた音量バランスとかも違うから。
あいみょん:私はギターが全然上手じゃないので、当時は抑揚のつけ方とかも全然わからなかったんですよ。ガシャガシャ弾けばそれがいいと思ってたんですけど、ピアノは抑揚があるから、ドラムのパンチ力とのなじみ方がすごくかっこいいなと思ってました。
――日食さんの今年行われた未発表曲ツアー『エリア未来』はバンド編成でしたね。
日食:そうですね。最近はバンドも入れつつ、去年は植物園だけを巡るソロツアーをやったりもして。あいみょんはアコギソロのライブもやってるの?
あいみょん:やってますね。バンドの割合が増えましたけど、弾き語りも定期的にやってはいます。弾き語りが一番原点ですか?
日食:いやそんなことはなくて。私はもともとバンドがやりたかったけど、バンドを組めなかったから、バンドでドラムがやること、ギターがやること、ベースがやることをピアノの上で全部やっちゃおうっていう、それでピアノになってると思っているので。
あいみょん:私も最初はバンドやりたかったです。やけどなんだかんだで……導かれるようにソロになりましたよね。
日食:お互いね。
あいみょん:じゃあ別に弾き語りが原点というわけではなく。
日食:結果としてはピアノでめちゃくちゃいろんなことができるようになったけど、相変わらずバンドの音は好きだし、ピアノ以外の音楽を聴いてる方が多い。あいみょん:何も持たないライブとかは?
日食:ちょっとやり始めてる。
あいみょん:私もです! バリエーション欲しくなりますよね。
日食:空いた手をどうしたらいいのかわからなさがもうお客さんにもばれてる。
あいみょん:わかります。私も最初そうでした。ギターを持たないと体のバランスが取れなくて、私レコーディングもこうやって(ギターを構える格好)歌わないと歌えないんですよ。
日食:あー、わかる。私もね、一時期レコーディングを座ってやらせてくれって。やっぱりピアノを弾いてるから、こうやって膝でやりながら(ピアノを弾くまね)歌うと一番声が出ると思い込んでたんだけど、さすがにちょっと違うなって。他の楽器に浮気とかはない?
あいみょん:コロナになったタイミングでキーボードを家に置いてやってたんですけど……一曲だけ作って、もう諦めました。
日食:エレキはやってない?
あいみょん:やってないです。昔はちょっとやったんですよ。いただいて、かわいいから使おうと思ったんですけど……重たくて(笑)。なので、結局アコギ一本って感じにいまはなってますね。
日食:あいみょんの素直さとアコギはやっぱり親和性高いよね。
あいみょん:でもライブではアコギを手放す曲も結構増えましたね。走り回ってるみたいな曲もあって、それもやってきて変わってきたところではあるかもしれないです。
――日食さんは鍵盤以外の楽器を考えてたりしますか?
日食:ベストアルバムでは自分でトラックメイクをした曲があって。
あいみょん:うわ! パソコンですか? 私東京来たときに、「東京の人ってなんでこんなにみんなMacBook持ってるんやろ?」と思って、それに憧れてMacBook Airを買ったんですけど……今はマジで使ってない。「GarageBand使ってみたら?」とか「ドラムのリズムを聴きながらやると違う感じの曲が浮かぶよ」とか言われたんですけど、そもそも使い方がわからない(笑)。
日食:なんか意外だね。
あいみょん:機械は全くダメで、本当はやってみたいんですけど……結局他に行こうと思っても行けなくて、ずっとアコギのまま。ただ私にとっての原点はやっぱり弾き語りだし、アコギだと思ってますね。なんだかんだこのスタイルに戻ってくる。だからバンドでのライブでも弾き語りのコーナーを設けていて、そこは昔から変わらないスタイルですね。
――ここまで過去と現在の話をしていただきましたが、最後に未来のことも聞かせてください。ここから先でお二人がどんな場所を目指していくのか、音楽家としてどんなことをやりたいと思っているのか、それぞれいかがでしょうか?
あいみょん:はい、聞きたいことがあります。今年15周年じゃないですか? 私もよく聞かれる質問ですけど、作る音楽が変わってきた、書く歌詞が変わってきた、みたいな自覚はありますか?
日食:あるある。明らかに幸せになっていってる。
あいみょん:あはは! きっと今後も変わり続けていく感覚ですよね。音楽とか芸術の中では「変わる」っていうことがすごくマイナスに取られがちじゃないですか。でも私の曲も明らかに幸せになってる気がしますし、これからも多分ずっと変わり続けていく感じがするので、それを聞けて良かったです。
日食:それに自分が納得してればいいし、納得してなければやめればいいし。私は明らかに自分が幸せな音楽の方に走っていってるなという自覚があり、すごい嫌だったので、幸せにならなくするために、最近とあるものをなくしたんですよ。で、めちゃくちゃ生活が大変だったんだけど、めちゃくちゃ曲が書けて、すごい気持ちよかった。
あいみょん:ノブさんとのインタビュー読みましたけど、お引っ越しされたんですよね。
日食:そう、コロナ禍で山に引っ越しをして、そこですごく幸せな山ライフを送り、幸せを得てしまったので、家に関するいろんなものをあえて失い……。
あいみょん:ミニマリストになったんですか?
日食:逆かな。今の家はすごく立派な家なんですよ。立派すぎて、自分に結びつかないというか、帰る家の感覚じゃない。だから、自分が帰る家がないっていう感覚で生きてるんです。その家があまりにも自分に振り向いてくれなさすぎて、「お前は私のパートナーとして認めない」って、帰るたびに言われてる気がして。だから今日のあいみょんとのめっちゃ楽しい思い出を家に持って帰っても、ただいまって言えない。あいみょん:どんな家なんですか(笑)。でもわかります。私もお引越しをするときはその感覚を大事にしてて、「家に帰ってきた」と思える家にしようと思ってて。でも今の日食さんはそうじゃなくて、あえてとんでもない家に住んでると。
日食:「私はここで何かを失うべきだ」と思って引っ越しをしたのが去年の末で、いつか感じた不幸せをもう一度感じており、でもそれによってすごいスピードと密度で曲を書いていて、結果的にはそれが私のアーティストとして、ミュージシャンとしての幸せだなっていう。何をやってるか自分でもわからないんだけど。
あいみょん:失ってはいるけど、幸せでもある感覚。
日食:そうそう。日食なつことしての幸せは曲を書いて活動を続けることだから、その舞台裏がどうなっていようと、お客さんには別に関係ないし。
あいみょん:山に行ったことで得た幸せってなんですか?
日食:単純に24時間爆音で音が出せるから、それは気持ちいいよ。自分の好きなバンドの曲を夜11時ぐらいにボリュームガーンってやれるから。
あいみょん:でもその家になじんでる感じはしない。
日食:幸せなのか不幸せなのかがごっちゃになってる、この不安定さが私はいいなって。
あいみょん:それを続けたいですか?
日食:続けたい。これを定期的に、5年に1回ぐらいやっていけば、何だかんだ走れるというか、安定しないことが唯一の安定。あいみょんはここからどういう曲を書いていきたいとか、自分はどうなっていくだろうという予測はあるんですか?
あいみょん:予測はつかないですね。そもそも20代前半から今まで予測がつかないことばかりだったので、またきっとこんなふうに予測がつかないことがバーっと起きて、あっという間に30代終わったな、40代終わったなっていう生活ができればいいのかなと思ってはいて。もちろん私も大人になって、書く曲の数が減ったり、幸せな曲が増えたりとかはすると思うんですけど、でも音楽に対する気持ちは10代の頃に曲を書き始めたときの気持ちと何も変わってないんです。ときどき「丸くなったね」とか「棘がなくなったね」とか言われるけど、私はもともと丸かったし、棘も別に生えてないし。
日食:そう認識したのはそっちでしょっていう。
あいみょん:「私はずっと丸かったよ」っていう認識で、それは変わってないですし、書く内容や雰囲気は変わっても、気持ちはずっと変わらないです。
日食:いいね。それが一番自然だよね。
あいみょん:「こうやって言われてるから刺々しい曲を書いてやろう」みたいなことを思った時期もありますけど、書こう書こうとすると私はあんまりいい曲やなと思うのはできなくて、やっぱり自然体でいることで書ける曲の方が多い。でも私も場所を移動するとかはやってみたいです。ずっと家の中で曲作りをしてるので、他の場所で曲を作ることがないんですよ。合宿される方とかいらっしゃるじゃないですか。そういうことももしかしたらできるのかもしれないですけど、基本的には家で作ることが好きで、その分家の環境を変えることは結構やってて。私引っ越し魔で、1年に1回とか引っ越すタイプなんですよ。そうやって環境を変えることで、書く内容が変わってきたりもする。
日食:じゃあ今後とんでもない曲がいきなり出てきたら……。
あいみょん:山に行ったなと思ってください(笑)。
日食:今後のあいみょんに期待するのは、山と毛筆(笑)。
あいみょん:仙人じゃないですか(笑)。でもね、楽しくやっていくのが一番ですね。音楽のことを嫌いになりたくないし、苦しくなりたくないので。目標はありますか?
日食:目標は……ないね。最初から目標とか別になかったから。
あいみょん:目標っていう質問って、デビュー当時は聞かれがちじゃないですか。でも超絞り出してましたよね。若者には目標がないといけないみたいな感じがあって、「やっぱり武道館目指してますか?」とか聞かれて、絞り出してた感じはある。でも今思えば目標っていう目標ってそんなに明確にはなくて、ただ楽しく音楽をやりたいだけで。
日食:「その結果行きついた場所がありました」っていうくらいだよね。でもあいみょんがそう言ってくれることで、下の世代であいみょんを追いかけたいと思う人が、「目標なしでも悪いことじゃないんだ」って思えたら、それで結構救われると思う。
あいみょん:目標がなきゃ熱量がないと思われがちだけど、実はそんなこともなくて。ただこのまま行けたら、こうであり続けられたら私は一番いいかなって感じで、それが目標かと言われたら、よくわからない。
日食:願いだよね。
あいみょん:そう、願いなんですよ。私七夕でそう思いました。「毎年ツアーをやり続けたい」っていうのが目標というより願いなので、七夕にそう書きました。
日食:きっとそういうことが大事なんだよね。
■リリース情報
『日食なつこ 15th Anniversary BEST -Fly-by2024-』
発売日:2024年9月18日(水)
<初回限定盤>
価格:7700円(税込)
【仕様】
・CD2枚組
・本型BOX仕様
・「エリア過去」展示物レプリカカード6点
・「エリア未来」ツアーフォトカード5点
・「エリア不変」盛岡のすゝめZINE1点
・ベストアルバムツアー「エリア現在」CD特別封入先行シリアルコード
<通常盤>
価格:4400円(税込)
【仕様】
・CD2枚組
・ベストアルバムツアー「エリア現在」CD特別封入先行シリアルコード
■日食なつこ 関連リンク
日食なつこ 15th Anniversary -宇宙友泳- 特設サイト
デジタル配信:https://orcd.co/nisshoku
公式HP
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Instagram
■あいみょん 関連リンク
5thアルバム『猫にジェラシー』
発売:2024年9月11日(水)
[初回限定Blu-ray盤/DVD盤]
CD+2Blu-ray ¥7,920(税込)
CD+2DVD ¥6,820(税込)
[通常盤]
CDのみ ¥3,300(税込)
https://www.aimyong.net/feature/jealousofcats