日食なつこ×あいみょん対談 6年ぶりに語り合うアーティストとしての幸せ

日食なつこ×あいみょんが考える幸せ

二人の楽曲制作への向き合い方

――それが2018年の2月ですね。そのツーマンはあいみょんさんとLa.mamaの共同企画でしたが、あいみょんさんにとってどういうタイミングでしたか?

あいみょん:メジャーデビューはしてましたけど、まだ全然人脈もないですし、私の近くで音楽やってくれている、安心感のある人、っていうのはあったと思いますね。なので、ここはやっぱり日食さんだ、みたいな。

日食:あの日の打ち上げの話で覚えてるのが、外に1人でご飯を食べに行けないって。

あいみょん:行けないです。

日食:今も?

あいみょん:はい。飲食店に1人で入れないです。入れるんですか?

日食:逆に誰とも行けない。

あいみょん:えー!

日食:そこも真逆だよね。

あいみょん:これも家族と関係あるかもしれなくて、私は食事中に静かなことってなかなかなかったんですよ。「黙って食べなさい」って言われたことがなかったというか、兄弟が6人もいるので、誰かが何か言ったら、それに文句言ったりとか、そういう食卓だったんですよね。だから最初は一人暮らしが結構きつくて、家で食べるのは1人でも全然いいんですけど、外の飲食店に1人では入れなくて。

日食:今だとまた状況も違うから、いろんな意味で入れないかもしれないけど。

あいみょん:いや、当時から何となく恥ずかしいというか、人の視線が気になるというか、「なんて思われてるんやろう?」とか思っちゃって。

日食:でもステージに上がるときとか、自分から何かカルチャーを発信してるときは見てほしいわけじゃん? でもそうじゃない、ステージを降りて、音楽やってないときの自分はちょっと恥ずかしい。そこが私の中で合致しなくて、そこの分断は何だったんだろうっていうのも、数年抱えたままここまで来ちゃったから。

あいみょん:いまだにダメですね。毎年のように、1人でラーメン食べれるようになりたいとか、吉野家入れるようになりたいと思ってるんですけど、ばれるとかそういうのを抜きにして、自分の所作をすごく監視されてる気がするというか。誰かと一緒にいると、そういう気持ちも紛れるけど、絶対見られてなくても見られてる気がしちゃって。

日食:それは逆に誰かと一緒にご飯を食べに行ったとして、1人でいる客が隣にいたら、その人をめっちゃ見ちゃうとかっていうのもある?

あいみょん:すごいなと思って見ちゃいます。だから私スシローに1人で来る女の人とか見ると、かっこいい! って思います。エロいなって思っちゃうぐらい。1人で牛丼屋さんとかラーメン屋さんに入ってくる女性に色気を感じちゃいますね。

日食:食べてる所作を1人でひけらかしてる。

あいみょん:それがすごいかっこいいなとめっちゃ思ってて、憧れはあるんですけど、自分はびびっちゃって、ダメですね。喫茶店がギリ、ぐらい。1人でご飯に行くとかっこつけちゃいそうで、いつもの自分じゃいられないんですよね。

日食:ステージ上ではかっこつけようと思う?

あいみょん:『いざ、尋常に』とかはあんなふうにやってましたけど、そのちょっと手前ぐらいまで私楽屋で喋れなかったんですよ。ライブハウスの楽屋で他の人と全く喋れなくて、1人で隅で読みもせえへん文庫本を開いて、読んでるふりしてるようなタイプでした。でもだんだん変わってきたというか、もともとの自分は今みたいな感じで、人見知りもしないですし、だから元に戻ったというか。当時はMCとかも苦手だったので、それこそかっこつけてる風に見えてたと思うんですけど。

日食:ちょっとその名残があったかも。

あいみょん:ですよね。でも幼少期の動画を観るとずっと変顔してますし、カメラの前で目立ちたくて目立ちたくてしょうがないタイプで、今はステージでもその感じですね。日食さんは昔と今とで変化ありますか?

日食:「人からの見られ方」みたいなことで言うと、本当に私は意識してなくて、そもそも人からどう見られてようと私は絶対曲を書くし、今年活動15周年目で、何なら今までで一番曲を書いてる。昨日も部屋着でピアノの前にずっと座って、「明日早く家出なきゃいけないのに」とか思いながら、夜の12時ぐらいまでやってたりとかして。あいみょんってさ、当時「曲のストックが200曲ある」みたいなこと言ってたよね?

あいみょん:ありました。

日食:それも気になってて、曲を書くペースって今どうなってるのかなって。

あいみょん:私は逆です、減ってます。

日食:忙しいもんね。

あいみょん:いやいや、当時メジャーデビュー前とかって逆に一番忙しいぐらいの感じでしたけど、それでもめっちゃ曲書いてました。

日食:それは自発的に?

あいみょん:はい、言われてとかじゃなくて、自発的にずっと作ってましたけど、やっぱり年々減ってて、今が一番少ないです。昔は年間何百曲とか書いてるときもありましたけど、今は全然。

日食:言ってもストックがあるから心配はないよね。

あいみょん:そうですね。いろいろリリースはしてるんですけど、常に400曲はキープしながら作ってる感じです。私携帯のメモ帳に作った曲をバーって書いてて、それ見るのめっちゃ好きなんですよ(笑)。自分の財産を見てるみたいな感じ。曲の横に詳細も書いてて、「19歳最後の曲」とか、そういうのを全部記録してて、それを見るのが結構好きで。

日食:自分の歩いた軌跡をちゃんと見る、みたいな。

あいみょん:そういう感じはあります。今一番作られてるっていうのは、1日にフルを作るのか、それとも、1日に何曲もできちゃうんですか?

日食:1日に何曲もパターンが多い。例えば、何か依頼が来て、それに書き下ろす必要があって書いてると……あんまり大きい声で言うことじゃないかもしれないけど、誰かに当て書きして曲を書いてると、その対極の曲を書きたくなってくるときない? しょっぱいものを食べている合間に甘いものを食べてまた戻りたい、みたいなのをしょっちゅうやってると、同時進行で3~4曲みたいな感じになる。

あいみょん:すごい。でも私も昔は1日何曲パターンありました。フルで全部作っちゃうとかもありましたし。

日食:1日でできちゃうんだ。

あいみょん:私はわりと今もそうです。1日で1曲できたりとかするんですけど、昔は1日にフルで3曲とか作ってましたね。

日食:すごいね。回転数がホントに考えられない速度なんだろうなあ。さっきもこのスタジオに入ってきた瞬間にまずハグされて、その後の挨拶の文字数が多すぎて(笑)。

あいみょん:自分でも「うるさいな、自分」と思うときあるんですけど(笑)。

日食:言葉数に理由があるから、あいみょんの話を聞くのはめっちゃ気持ちいい。たたみかけられたい気持ちがある。

あいみょん:めっちゃ言われますもん。関西人特有ですけど、「速くて聞き取れへん」とか。

日食:その速度がそのまま頭の回転の速度で、曲を書くのもその速度で行ってるから、1日で1曲できる、みたいな。

あいみょん:私飲食店に1人で入れないですけど、人とご飯を一緒に食べることでアイデアが浮かぶこと結構多いんですよ。いろいろ表情とかを見て、それが曲になったりすることもあるので、それが好きっていうのもある。逆に1人で飲食店に入ると、自分がその対象になってる気がしちゃうんですよ。「あいつ変だな。ツイートしよう」みたいな(笑)、そういう対象になってるんじゃないかって、そわそわしちゃう。

日食:裏を返すと、それだけ自分が他人を見てると。

あいみょん:そう、私は勝手に他人を見て曲を書いてるけど、自分がそれをされるのは怖い。映画館とかは1人で行けるんですけど、ご飯だけダメです。やっぱり見られてる気がする。ネタの材料になってる気がする。でも誰かと一緒にいることで曲ができるんです。

日食:きっとそれだけ他人に関心があるってことだよね。

あいみょん:喋るのは好きです。どうしてもこういう活動をしてると自分のことを聞かれることが多いじゃないですか。私はむしろ聞きたい。特に新しいアルバムを出すってなって、取材が増えると、なおさら自分の話じゃなくて、人の話を聞きたい。

日食:ああ、それはちょっとわかるかもしれない。インタビュアーさんの話を聞く時間もらっていいですか? みたいなときある(笑)。それこそこの6年の間にいろんな人と会って、いろんな話をしてきたと思うけど、あいみょんは自分のキャラとか立ち位置をどんなふうに認識してるの?

あいみょん:まだ後輩でいたいとか思うときはあります。年齢を重ねてはいて、私も2年後ぐらいにデビュー10周年になるんですけど、まだ後輩でいたいというか、まだかわいがられたいと思うときとか全然ありますね。10代のときは、「まだ19歳なのにすごいね」とか言われたけど、「29歳なのにすごいね」はないじゃないですか(笑)。当たり前なんですけど、昔は10代ってだけでマジでなんでも褒められたから、まだ後輩でいたいなと思っちゃったりはしますね。

日食:でもあいみょんの10代は他の10代と明らかに違ったと思うよ。一個思い出したんだけど、それこそスイカを持って寝転がり始めた時代に、多分いろんな人が集まってきてたタイミングで、Twitterで嫌なことを言われたんだよ。そりゃあプッシュされてるときだから、変なこと言ってくるやつもいるだろう、くだらねえなと思いながら私は見てたんだけど、あいみょんはそれに真っ向から噛みついて、「何が大人の力だ。私だって大人だ」って。それを見て、肝っ玉の作られ方が他の10代とは違うなと思った。

あいみょん:当時はメディアに出させてもらえるようになって、メディア越しにフィルターがかかって見られる自分にいろいろ言ってくる人が増えて、モヤモヤしてる時期ではあって……そういうの嚙みつきたくなるタイプですか?

日食:いやもう勝手にすればって。あなたは私が手を下さなくてもどっかで滅びるでしょうって。

あいみょん:つよ! 1人でご飯行ける人はこういうことなんですよ。

日食:でもあの言葉は私未だに好きだよ。こう戦ってくんだ、この子はっていう、それも等身大である自分をよく出してた例だったと思うし、私は19歳、20歳で自分を大人だと思ってるっていう美しい主張だったなと思って、あれはしびれたね。

あいみょん:ありがとうございます。当時は「後ろに大人がついてる、大人がコントロールしてる」みたいなことを死ぬほど言われたんです。でも私も大人やからって、それはめっちゃ思ってた。

日食:当然のようにその球を投げ返してて、この人は多分大丈夫なんだろうなと思ってたら、実際にすぐに上に行ったから、かっこいいおなごだなと思って見てました。

あいみょん:今はこらえるようにしてますね。たまにどうしようもないときはつぶやいちゃいますけど、さっきの日食さんの話と一緒で、今は相手にしないことが一番のダメージやと思えるようになってきました。SNSとの向き合い方ってどう思いますか?

日食:私はあいみょんも言ってくれた通り、ちょっとクールというか、悪く言うと怖い人に見られてるから、そもそも来ないんだよね。

あいみょん:すげえ!

日食:来たとしても、私はそういうのは未だに相手にしたことない。

あいみょん:エゴサーチもしない?

日食:しない。しても得がない。

あいみょん:彼氏の携帯見るのと一緒ですよね。

日食:SNSはそれこそ会ってない数年間で完全に形が変わっちゃって、若い子の遊び場だったのがもう1個の社会になっちゃって、おじいちゃんおばあちゃんまで使ってるから、特にビッグユーザーたちはその矢面に立たされるというか。だってさ、相手にしなきゃいけない人数が多ければ多いほどキャラも違うわけじゃない? どう言ったって何か言うやつは必ずいるから、全部カバーなんて絶対できないわけで。

あいみょん:日食さんは悩むとしたら音楽のことですか?

日食:そうだね。お客さんのことは正直ほっといてるというか、ありがたいことに、日食なつこのお客さんの土壌はいい具合に育ってくれてるから、こっちから変に肥料を撒いたり、害虫駆除をしなくても、ほっとけばいいかなって。

あいみょん:言葉つよ(笑)。私は結構すぐ「こんなこと言ってるやついるんですよ!」とかスタッフさんに言っちゃうんですけど、でも楽しんではいるんです。前に実家に帰ったときに、私のYouTubeにコメントされてるとんでもない悪口を弟とお母さんと一緒に読み上げるっていうのをやったら、もう楽しくって。容姿のこととかも書かれるじゃないですか。それも家族の前で読むと面白いんですよ。「こんなこと言われてる、やばくない?」みたいになる。

日食:それはいいね。自分でちゃんと解消できる場所があるっていうのは。

あいみょん:そういうことをやるようになってから、悪口とかがあっても、「これやばくないですか?」みたいに気軽に言えるようになったんです。なんでもそうですけど、やっぱり活動を通して解決方法を毎回見つけていく感じですね。

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