Turnstileのハードコアに宿る巨大なスケール 緩急自在な演奏でフロアを踊らせた来日公演

Turnstile、初の来日公演レポ

 2024年7月30日、Zepp DiverCity (TOKYO)。この日のオープニングアクトを務めたBlow Your Brains OutのKaiがMCで感慨深げに話していたように、このような2,500人規模の大きなライブハウスでハードコアパンクのライブが開催されることは稀だ。それも、2010年代に結成された気鋭の海外発のバンドとなれば尚更だろう。それを実現してしまうのが、この数日前に『FUJI ROCK FESTIVAL ’24』にも出演して大反響を巻き起こしたTurnstileである。

 Blow Your Brains OutとNUMBによる熱烈なパフォーマンスを経て、会場には「Turnstile! Turnstile!」のコールが鳴り響く。期待に満ちた観客の前に現れたTurnstileは、開幕から「MYSTERY」、「BLACKOUT」と『GLOW ON』収録の人気曲を立て続けに披露し、その熱気を一気に最高潮まで引き上げた。音源とは比較にならないレベルのエネルギーがバンドから次々と放出され、観客も盛大なシンガロングで応戦する。

 特に度肝を抜かれたのは、バンドが一体となって鳴らす轟音を鮮やかに貫いてみせるBrendan Yates(Vo)による見事なボーカルであり、その歌声からは、ただ演奏で圧倒するだけではなく、自らがこの場所の先頭に立って観客を導こうという力強い姿勢を感じられる。バンドの演奏も素晴らしく、旨味の詰まったリフを凄まじい切れ味で次々と叩きつけていくPat McCrory(Gt)とサポートメンバーのMeg Mills(Gt)、空間全体をしっかり掌握しながら、ダイナミック&ソリッドなベースプレイでグルーヴを牽引するFranz Lyons(Ba/Vo)、とんでもない手数を繰り出しながらも正確に軸を捉えたパワフルなドラミングで観客を圧倒するDaniel Fang(Dr)と、メンバー全員がメインを張っているかのような猛烈なパフォーマンスに興奮が止まらない。

Brendan Yates
Brendan Yates

 そして、ただ個々の演奏力が高いだけではないというのも重要だ。リフが鳴らされるごとにドライブ感が増していくような「BLACKOUT」や、リフを重ねて溜めに溜めた勢いを爆発させるかのように疾走していく「Fazed Out」など、暴れる時は目いっぱいに暴れさせ、手がつけられなくなる一歩手前でしっかりと抑制するという緩急のバランスが本当に素晴らしい。その姿はまるで、猛スピードで轟音を掻き鳴らすハードコアという猛獣をバンド全体で巧みに飼いならしているかのように感じられる。また、緩急の「緩」の部分においても、一つの音を叩きつけた後に残る余韻すらも楽曲の一部として美しく響かせているというのが凄まじい。

Pat McCrory
Pat McCrory

 そうした余韻の美しさ、あるいは儚さが見事に表現されていたのが、サイケデリックロック的な「UNDERWATER BOI」だ。ドリーミーな演奏の中で、〈Fallen by the wayside/Never on the timeline(もうすっかり諦めてしまった/決してタイムラインには載らない)〉と朴訥とした声で歌い上げるBrendanの姿は、それまでのハードコアパーティの様相とは一変して孤高とすら呼べるもので、だからこそ一際印象に残る。それが単なる「チルアウト」と無縁なのは、確かな浮遊感がありながらもTurnstileらしいヘヴィな演奏がしっかりと貫かれているからであり、「はっきりとした意思を持って、ここに漂っているのだ」という印象を与えてくれる。自在にジャンルを越境しながらも、今なおTurnstileというバンドが「ハードコア」という言葉で形容されるのは、まさにこうした芯の強さや、それを表現するための技術をしっかりと備えているからなのだろう。

Daniel Fang
Daniel Fang

 以降もTurnstileはその熱量を一瞬たりとも下げることなく、「Drop」や「Big Smile」といった強烈な勢いで疾走する轟音ハードコアパンクから、「NEW HEART DESIGN」や「I Don't Wanna Be Blind」のような重厚な展開で魅了する楽曲(特に「NEW HEART DESIGN」におけるディープなダブには唸らされた)まで、ジャンルの枠にとらわれない幅広いアプローチでフロアの熱狂を限界まで引き上げていく。興味深いのは、こうした縦横無尽なハードコアを繰り広げているのに、その音が常に大きなスケール感を伴って空間に鳴り響いているということだ。それは、決して単純に音量が大きいという意味ではなく(もちろん轟音ではあるのだが)、音の性質がまったく異なるにも関わらず、まるでスタジアム規模のロックに触れているかのような感覚に陥るのである。

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