リアルサウンド連載「From Editors」第68回:“笑顔”は気持ち悪い 宗教サスペンス漫画『スマイリー』を紹介
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
カルト教団の闇を描く『スマイリー』
笑顔って素敵ですよね。落ち込んだ時も、悲しい時も、誰かの笑顔を見ると安心したり、元気がもらえるものです。今回は、そんな笑顔が“見たくなくなる”漫画『スマイリー』を紹介します。
服部未定による『スマイリー』は、娘を事故で亡くし、妻が失踪したジャーナリストが、「人は笑顔によって幸せになる」を教訓とする“心笑会”という宗教団体の謎と闇に迫る宗教サスペンス漫画です。2021年11月から週刊漫画ゴラクで連載がスタートしており、奇しくも2022年から取り沙汰されているあの社会問題を先取りしたようなテーマにもなっています。
さて、物語の中心となる“心笑会”は、予想通りのカルト教団です。失踪した妻が“心笑会”に入信していたことを知った主人公が、彼女を連れ戻すため、ジャーナリストとして真実を白日の下に晒すためにカルト教団に身を投じていきます。平和的なスローガンとは裏腹に、常軌を逸した儀式(三日三晩絶食して笑い続ける、顔の皮を剥ぐなど)が行われるわけですが、何よりも盲信的な信者の存在が不気味です。信者は職場や警察、政界に至るまで、社会全体に溶け込んでいて、主人公や彼の仲間の行動を常に監視、妨害してきます。
正直、不快感を覚える描写も多いですが、人の暗部を覗きたいという好奇心は怖いもので、不思議と読む手が止まりません。また、変死体事件や麻薬の密売など“心笑会”が関与している犯罪の捜査も物語の軸になっていて、そのサスペンス要素も展開が読めず、さらに読む手が止まりません。
現在、単行本は9巻まで発売中。物語もかなり佳境に差し掛かっている模様です。『スマイリー』はフィクションですが、現実で起きた事件や存在した団体がモチーフになっている節はあります。教祖の名前が笑光(しょうこう)ですし。フィクションではあるが、今もなお実社会で往々にして行われていることだと思うと、こういうカルト教団をモチーフとした話はゾッとします。“笑顔”にトラウマを持ってしまう可能性もありますが、興味を持った方はぜひ読んでみてください。
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