Official髭男dism『Rejoice』レビュー:ヒゲダン3年ぶりの大作、“濃さ”があって初めて伝わる感情や物語
しかし、やはり耳に残るのは、生活感を失わない気取りすぎない比喩に満ちた歌詞だったりもする。『news zero』の2023年テーマソングである「日常」は、しんどさを抱えながら生きる人びとの、まさにそのしんどさをかなり赤裸々に描写する。生活を気遣われるありがたさとその重荷は特にリアルに響く。細かい比喩の積み重ねがどんどん解像度を上げていくが、とりわけ〈心に出来た肌荒れ〉を起点にした2番Aメロの比喩は、わりあいにシンプルながら、効果は絶大だ。
それとある意味対照的なのは、ドラマ『ペンディングトレイン―8時23分、明日君と』(TBS系)の主題歌「TATTOO」だろうか。過去の傷をポジティブに乗り越えようとする、幸福感すらある曲だ。ここでも細かい比喩が歌詞を豊かにふくらませているけれど、〈今は例えるとか うまく出来ないけどさ かけがえない類いの何かさながら〉と「比喩ができないこと」をそのままウィットに富んだ言葉にしてしまう機転が印象に残った。「なにものにも例えられない、かけがえのないものだ」というだけで十分だろうに、一捻り比喩を転倒させてしまう。これもヒゲダンらしい「ダメ押し」のレトリックと言えるかもしれない。
毎度のことながら、シングルでもかなり濃いのに、アルバムにまとまるとなおいっそうカロリーが高く、いい意味でなかなか消化しきれない。嬉しい悲鳴というべきか。こんなにこってりしたバンドが、今の時代にこれほどのポピュラリティを獲得しているのはちょっとした謎だ。それでも、これだけの「濃さ」があって初めて伝わる感情や物語をしっかりと聴かせてくれる。ヒゲダンが支持される理由は、いままでに築き上げてきたそんなバンドへの信頼にあるのかもしれない。
※1:https://realsound.jp/2021/08/post-846294.html
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