大森靖子、すべての“名もない女の子”に届ける歌 10年変わらない音楽家としての姿勢を見た

 あなたは何のために音楽を聴いているのだろうか? 共感しているから? 流行しているから? 自己肯定感を上げたいから? ライブ会場で一体感を味わいたいから? あるいは、心の中の後ろ暗さを誰かに照らしてほしいから?

 2024年7月7日、大森靖子の『大森靖子アルティメット自由字架ツアー 2024』のツアーファイナル公演がZepp Haneda(TOKYO)で開催された。そこで大森靖子が見せたのは、どんな人間の生身をも受けとめて音楽にしようとする姿勢であり、それゆえに大森靖子を通してファンのそれぞれの「生」が乱反射して煌めいているかのような空間だった。音楽を通してアーティストとファンがこうした関わり方をしている事例を私は他に知らない。そこにこそ大森靖子の真価はある。

 『大森靖子アルティメット自由字架ツアー 2024』は、3月2日の横浜ベイホールを皮切りに、24カ所にて開催されてきた全国ツアー。4カ月の旅の末に、大森靖子はZepp Haneda(TOKYO)へと辿り着いた。このツアーファイナル公演に向けて、大森靖子はTikTokライブも行うなど、積極的に新しい試みも行っていた。ファンからのMV公募企画で「子供じゃないもん17」のMVが採用され、オフィシャルYouTubeチャンネルで公開されたところ、2014年の楽曲にもかかわらず数カ月で100万回再生を越え、TikTokでも流行するという展開も見せていた。

 そして開演。ピアノの音色が流れ、バックドロップが照らされて、四天王バンドが登場した。今日のバンドメンバーは、キーボードのsugarbeans、ギターの堀崎翔、ベースの千ヶ崎学、ドラムの張替智広、コーラスとパーカッションの宇城茉世という鉄壁の布陣だ。

 そして、sugarbeansのキーボードの響きとともに「ミッドナイト清純異性交遊」が始まる……と思いきや、そのイントロに合わせて、大森靖子が歌いだしたのは「パーティードレス」だった。今回のツアー前半では、「すべての頂き女子りりちゃんに捧げます」と言ってから歌われていたのが「パーティードレス」だった。それは服役中の頂き女子りりちゃん(渡辺真衣被告)にも伝わり、彼女は支援者への手紙で大森靖子に感謝。今、頂き女子りりちゃんの手元には大森靖子からの手紙も届いているという。そして、「パーティードレス」で「こころがあるもの!」と叫ぶと、そのまま「ミッドナイト清純異性交遊」へと流れ込んだ。一大アンセムである「ミッドナイト清純異性交遊」に、満員のファンがピンクのペンライトを振る。

 「TOBUTORI」は、バンドのグルーヴは熟れているのにフレッシュさもあり、疾走感に満ちていた。大森靖子はMCでファンに問いかける。今日会えたことは運命だと思うか、と。うまく生きられない人間が、うまく死ぬことなんてできない、と。

 「VOID」は、ファンの大合唱が聴ける楽曲だ。私は、6月7日のyogibo META VALLEY(大阪)での公演も見ているのだが、ソールドアウトの会場を埋めるファンの8割程度が10代から20代前半の若い女性であることに驚いた。そこでの「VOID」のファンの声の若さは、ファン層の変化を物語るのに充分だった。

 「非国民的ヒーロー」「小悪魔的ッ☆相当キレてる」と、神聖かまってちゃんのの子とのコラボレーションから生まれた楽曲が続き、銀杏BOYZの峯田和伸とのコラボレーションから生まれた「Re: Re: Love」へ。そして、ファンに17歳だけ立たせてあげるように呼びかけてから始まったのが「子供じゃないもん17」だった。モータウン風のサウンドのこの楽曲で、四天王バンドの千ヶ崎学と張替智広が生みだすシャッフルビートは実に心地いい。若者が四天王バンドの演奏に触れられることの意義を感じる一曲だ。大森靖子は最後にこう言うのだ。「ずっと17歳でいてね」と。

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