香取慎吾、自身を楽しむ現在地 『SMAP×SMAP』、映画『座頭市 THE LAST』……1990年代の葛藤

 もうひとつ、インタビュー記事から言及しておきたいのは、香取が自分自身のことを“ロボット”と表現していたところだ。

 香取は「若い頃の僕は『俺なんてピエロだ』とか『ロボットとして働いてきた』みたいな感覚を持っていました」と語っている。しかし主演映画『座頭市 THE LAST』(2010年)で監督を務めた阪本順治から、「もうそんな考えはよくないから。もっと人として、自分として生きた方がいい。君はロボットなんかじゃないから」と言われたそうだ。そこで香取は、自分の捉え方が変化していったという。そして撮影後、香取は阪本監督に、ロボットが市に斬られている様を描いた絵をプレゼントした。

 ロボットもまさに大量生産を表すワードでもある。それを斬りつける絵というのは、いかにもメンフィス的……いや、エットレ・ソットサス的ではないだろうか。いいか悪いかは別として、もしかすると1990年代の香取は“人間味”を確立できていなかったのかもしれない。香取がメンフィス柄に接近していった理由には、彼のそういう背景が感じられる。

 香取は記事の終盤、「自分になれた」と話している。その実感は「メンフィス」の精神性に通じるものがあるだろう。香取は「なぜ今、1990年代ブーム?」という問いかけについて、「自分らしさというものをある意味、失っていた1990年代とあらためて向き合うこと」と解釈したのではないか。そう考えると香取は今、誰よりも“香取慎吾”を楽しむことができているように思える。

香取慎吾に聞く、“新しい地図”を広げてからの5年 稲垣吾郎・草彅剛との心地よい距離感、この先に向けて芽生えた思い

稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾の3人が“新しい地図”を広げて5年。かつては真っ白だった地図も、今では色鮮やかな光景が広がっている。こ…

SMAP時代から繋がり続けた鈴木おさむとの深い縁 稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾『ななにー』で振り返る思い出

3月31日放送の『ななにー 地下ABEMA』#19では、3月末をもって引退を宣言していた放送作家の鈴木おさむとのお別れ会がオンエ…

関連記事