SEKAI NO OWARIはなぜ“日常”を歌うようになったのか? 最大規模のツアーで育つ『Nautilus』の世界

 そして、今作を締め括るのが、「サラバ」だ。あくまでもこれはひとつの受け取り方でしかないが、筆者はアルバム全体を通して、海面から深海へ潜り、再び力強く浮上する物語のように感じられた。そして、海面に浮上した時には、少しだけ世界の見方が変わっているような感覚を覚えた。自分の弱さやネガティブさを受け入れたうえで、これまでの世界に“サラバ”をする。そして、この現実世界を新しい生き方で生き抜いていく。今作には、そのきっかけと力強いエネルギーをリスナーに授ける力があるように思う。

「サラバ」
〈サラバ 普通が苦痛だった日々/手を振ってみれば ほら今はもう/私の隣には君がいて/失敗しながら一緒に歩いてる/サラバ 変わりゆく街並みを抜け/歩いてこう 遠回りで帰ろう〉

SEKAI NO OWARI「サラバ」

 先述した『scent of memory』以降の流れを踏まえて言うのであれば、今のセカオワは、音楽の力でファンタジー、つまり“非日常”の世界を描き出すというすでに確立されているオリジナルの方法論に加えて、“日常”のかけがえなさや美しさをありのままに、そして自らの弱さや生きていくなかでぶつかる困難、痛みや苦しみから目を逸らすことなくまっすぐに伝える、新たなアウトプットを得た、ということなのだと思う。もちろん、『scent of memory』や『Nautilus』よりも前から“日常”に即した楽曲やリアリズムに基づいた楽曲もあったが、直近の2作品を通して後者の方法論がより強固なものとして確立されたと言えると思う。これまで長年にわたってセカオワの音楽を聴き続けてきた者としては、今作のような弱さや脆さを抱えながらこの現実世界を生きる私たちリスナーの日々の冒険に伴走する作品は、とてもセカオワらしい。

 現在、バンド史上最大規模のアリーナツアー『深海』が開催中。『Nautilus』の楽曲たちが歴代の楽曲とともに紡がれるなかでどのような新しい響きを放つのか。ツアーに参加する人は、ぜひ体感してほしい。

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