宇多田ヒカルの深遠なクリエイティビティに迫る デビュー25周年に伴うメディア出演を徹底総括

宇多田ヒカルが考える“言葉と音楽”への見解

 雑誌媒体も宇多田ヒカルをフィーチャーした。『NYLON JAPAN』(2024年6月号)では表紙・裏表紙のダブルカバーで登場。44ページにわたる特集では、“フェイバリットな場所(カフェ、ベッドの中、本屋など)”をテーマにしたカットや、3万字超えのロングインタビューが日本語と英語で掲載された。

 インタビューでは、ベストアルバム『SCIENCE FICTION』のことはもちろん、25年のキャリアを総括するような内容も。「ターニングポイント的なことはありますか?」という質問に対して、「地続きでずっと、何かしら変化はしてるんだろうけども、でもやっぱり休業を挟んだことが一番大きいですね」「その間に初めて音楽から離れたし、それまで知り合うことがなかったような、音楽とかエンターテインメントとか全然関係ない人たちとも知り合うことができたし、とにかく視野がすごく広がって、すごくいろんな経験ができた。それがなかったら、自己像みたいなものがすごいあやふやなまま、人が私をどう見ているかっていうものの比重が、どんどん大きくなっていっちゃってたと思いますね」と答えている。

 また制作のスタイルについても言及。歌詞に関して「伝えたいことがあって作る、という感じではないということですか?」と聞かれると、宇多田は「歌詞の部分にもよるけど、簡単に言っちゃうと最初から最後までほとんど、誰かに対して何かを言ってるっていう感じじゃなくて、自問自答して、その創作のプロセスとしての自分との対話なんですよね。自分のことがもっとよくわかること、自分への理解が深まることによって、他者への理解も深まるし、優しさも増すので」と語っている。

宇多田ヒカル「SCIENCE FICTION」interview

 『SFマガジン』(2024年6月号)には、小説『地図と拳』で直木賞を受賞したSF作家・小川哲との対談が掲載された。両者の作品に影響を与えた小説や、中上健次、川端康成、ヘルマン・ヘッセらの文学作品についての読書談義と考察、さらに小川による宇多田の新曲「Electricity」の解釈や宇多田が一気読みしたという小川の小説『君のクイズ』の感想など、貴重な対話が繰り広げられた。

 印象的だったのは、“言葉と音楽”に関する話題。「音楽って言葉で表現できないことを表現するためのツールじゃないですか」「伝えたいことを載せて他者へ届けるための、箱舟みたいなものが、言葉」「箱舟を動かすためには水が必要で、それが音楽ですね」「音楽的な制約があって初めて言いたいことが出てくる」「完全に自由な状態だと何を言いたいかわからなくなってしまう」と、歌が生まれてくる瞬間に宇多田自身に起きていることを実感できるコメントも心に残った。

 最後に紹介するのは、東南アジアの音楽メディア『Bandwagon』に掲載されたインタビュー(※1)。

 25年のキャリアを総括しながら、若くして名声を手に入れたこと、母親との別れ、自分自身も親になったこと、さらにノンバイナリーの公表などを率直に語ることに対して、「作家や歌手、アーティストとしての私にとって最も重要なことは、自分自身に隠し事がないことだと思います」とコメントしている。

 またベストアルバムの制作を通して、「過去を振り返るきっかけになった」と語っている。「15歳でデビューしてすぐに有名になったときから、私の人生の全てが変わった。そのことに真剣に対処する必要はないと思っていたし、最初の十数年間はあまり覚えていません。残っているのは音楽だけ。(ベストアルバムの制作に際して)それを考古学者のような気分で掘り出し、残された証拠を結びつけて調べようとした。それは間違いなくいいことだった」とベストアルバムの“意義”について説明した。

 また、「花束を君に」や「真夏の通り雨」など『Fantôme』収録曲でカムバックし、多くの人に受け入れられたときに覚えた安心感など、貴重なエピソードも。「あなたの曲やストーリーを、多くの人が自分の人生に取り入れていることをどう思いますか?」という質問に対しては、「『自分自身を誇りに思う』とか、そういうことではありません。なぜなら絵画、芸術、音楽、文学は私の人生の大きな部分を占めてきたから。それらは私にとって安全な場所のようなものでした」「私が世に送り出したものが、もしかしたら他の人たちにとってその目的を果たしているかもしれないと思うと、本当に信じられないです」と答えている。

宇多田ヒカル - 花束を君に
宇多田ヒカル - 真夏の通り雨

 テレビ、雑誌、Web媒体、Podcastなど、幅広いメディアに登場。ベストアルバム『SCIENCE FICTION』の内容を中心に、25年のキャリアや創作へのスタンスなど、様々なテーマで特集が組まれた宇多田ヒカル。膨大な量のコンテンツが公開されたわけだが、それでも“宇多田ヒカルの魅力は語り尽くされていない”という思いが残る。それほどに彼女の音楽の世界は深く、広いのだと思う。

 最後に、筆者が最も強く感銘を受けた宇多田のコメントを紹介しておきたい。

「文章が上手いだけではいい小説とかいい歌詞って書けない。結局はそれを受け取る全人類に思いを馳せる、思いやりが作品に魔法をかけるんじゃないかな」(※2)

※1:https://www.bandwagon.asia/articles/hikaru-utada-interview-science-fiction-greatest-hits-album-tour-2024-listen
※2:『SFマガジン』(2024年6月号)

<参照>
『宇多田ヒカルのトレビアン・ボヘミアン スペシャル 2024』
『CDTV ライブ!ライブ!』(TBS系/4月8日放送)
『with MUSIC』(日本テレビ系/4月13日・20日放送)
『NHK MUSIC SPECIAL』(4月18日放送)
『EIGHT-JAM』(テレビ朝日系/4月21日・28日放送)
『NYLON JAPAN』(2024年6月号)
『SFマガジン』(2024年6月号)
『Bandwagon』

宇多田ヒカル『SCIENCE FICTION』

◾️リリース情報
ベストアルバム『SCIENCE FICTION』
配信:https://umj.lnk.to/SCIENCE_FICTION
CD購入:https://utadahikaru.lnk.to/SCIENCEFICTION
【完全生産限定盤】¥4,950(税込)
【通常盤】¥4,400(税込)
 <収録内容>
[DISC1]
1 Addicted To You (Re-Recording)
2 First Love (2022 Mix)
3 花束を君に
4 One Last Kiss
5 SAKURAドロップス (2024 Mix)
6 あなた
7 Can You Keep A Secret? (2024 Mix)
8 道
9 Prisoner Of Love (2024 Mix)
10 光 (Re-Recording)
11 Flavor Of Life -Ballad Version- (2024 Mix)
12 Goodbye Happiness (2024 Mix)
[DISC2]
1 traveling (Re-Recording)
2 Beautiful World (2024 Mix)
3 Automatic (2024 Mix)
4 君に夢中
5 何色でもない花
6 初恋
7 Time
8 Letters (2024 Mix)
9 BADモード
10 COLORS (2024 Mix)
11 二時間だけのバカンス featuring 椎名林檎
12 Gold ~また逢う日まで~
13 Electricity
14 Somewhere Near Marseilles -マルセイユ辺り- (Sci-Fi Edit) [Bonus Track]

『SCIENCE FICTION』アナログ盤
発売日:2024年6月26日(水)/価格:¥12,100(税込)
【生産限定盤】180g重量盤
*シングルスリーブジャケット3枚セット仕様スペシャルパッケージ
*314mm角16ページオールカラーブックレット
商品予約:https://umj.lnk.to/5sxLIA

宇多田ヒカル 公式サイト

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