今の日向坂46に迷いはない 進化するグループが『5回目のひな誕祭』で交わしたおひさまとの約束

日向坂46『5回目のひな誕祭』を総括

 2023年後半に“試練の期間”を向かえた日向坂46。その年の最後のライブにあたる『日向坂46「Happy Train Tour 2023」』追加公演の大千穐楽(12月10日)で、キャプテン・佐々木久美の口から「四期生を含む今のメンバーで、もう一度東京ドームに立つ」という新たな目標が告げられ、その意思をメンバー全員で共有するかのように「約束の卵 2020」を披露している(※1)。けやき坂46時代から歌われ続けている「約束の卵」(日向坂46になってからは新たにレコーディングされた「約束の卵 2020」名義)という楽曲にどういう意味が込められているかは、ファンならばご存知だろう。そんな楽曲を今、再び歌う覚悟が『Happy Train Tour 2023』大千穐楽からは十分に伝わり、ここから新たに始まる物語に対してワクワク感が高まったことは当時のレポートにも記している。

 そこから約4カ月を経て迎えた、グループにとって節目の大型ライブ『5回目のひな誕祭』。彼女たちのCDデビュー(2019年3月27日)を記念して、毎年この前後に実施される記念公演『日向坂46「ひな誕祭」』は、昨年から引き続き横浜スタジアムで2日間(4月6、7日)に開催された。しかし、今年はそこに一期生・齊藤京子の卒業コンサート(5日)が追加され、計3日間にわたる野外スタジアム公演が実現することとなった。昨年末のツアー大千穐楽で「今のメンバーで、もう一度東京ドームに立つ」と宣言されただけに、まさかグループの“顔”のひとりである彼女が卒業するとは想像もしていなかった(と同時に、3月には同じく一期生の高本彩花も卒業を発表)。どれだけ前を向こうと決して順風満帆とはいかない、そんなところも日向坂46らしい……と言ったら失礼だろうか。しかし、今回の3公演ではそうしたネガティブ要素はすべて吹き飛ばすような、上昇気流に乗り始めた彼女たちの姿をしっかり確認することができた。

 5日の『齊藤京子卒業コンサート』は、齊藤京子のアイドルとしての歴史をコンパクトに凝縮した、非常に見応えのある内容だった。おなじみの出囃子「Overture」から始まるのではなく、いきなり彼女の初ソロ曲「居心地悪く、大人になった」からスタートする構成や、けやき坂46〜日向坂46の代表曲をはじめ、二〜四期生の期別曲に齊藤が加わって思い出を共有しながらも自身の背中を見せていく姿勢、彼女が出演するバラエティ番組『キョコロヒー』(テレビ朝日系)から生まれた楽曲「After you!」の披露、そして齊藤のアイドル人生におけるスタート地点である欅坂46の楽曲「手を繋いで帰ろうか」「語るなら未来を…」を、けやき坂46で披露していた頃には在籍していなかった三期生を交えてパフォーマンスするなど、一つひとつの楽曲/演出から彼女のこだわりが伝わる。そして、本編ラストナンバーに選ばれた彼女のセンター曲「月と星が踊るMidnight」では、珍しく感極まりながら歌唱する齊藤の姿を目にすることに。アンコール最後に歌唱された“アイドル・齊藤京子”最後の楽曲「僕に続け」まで、まったく無駄や中弛みを感じさせることなく、彼女のアイドルとしての物語と日向坂46としての現在進行形の物語もしっかり伝えた『齊藤京子卒業コンサート』は、坂道グループにおける理想的な卒業公演だったのではないだろうか。

 続く『5回目のひな誕祭』2公演は、両日とも『齊藤京子卒業コンサート』ともまったく異なるセットリストで展開。日向坂46の過去と未来を強く結びつけるだけでなく、グループとして原点を見つめ直して再スタートを切った彼女たちの気概がびしびし伝わり、過去のどの公演をも凌駕する良質なステージとなった。

 今回の『5回目のひな誕祭』において特に印象的だったのが、昨年までの日向坂46のライブに顕著だった「ストーリー性の強い演出」が排除されていたこと。1年前の『4回目のひな誕祭』なら空の旅、『Happy Train Tour 2023』だったら観客を巻き込んだ列車の旅をモチーフにした演出が用意されたが、それ以前のファンタジックな物語を交えた公演ほどうまく機能していない印象もあり、没入感においては過去の公演ほどではなかった。しかし、今回は無理にストーリー性の強い演出を用いることなく、純粋に楽曲と歌、ダンスの力で観る者を魅了するシンプルなスタイルに回帰。また、メンバーが客席側から登場したりスタンド通路をトロッコで移動したり、スタンド席に設置されたミニステージで楽曲披露したりと、今まで以上にオーディエンスの近くでパフォーマンスすることも多かった。結果として、それが今の日向坂46の勢いをストレートに伝えることとなり、曲を重ねるごとに観客のボルテージも高まっていったのではないだろうか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる