2024.04.20 12:00

3SET-BOB、バンドのこれまでとこれからを繋ぐ初のEP　心機一転の中で見つけた“やりたいこと”

文＝小林千絵、写真＝林直幸

「FLAG」で表現するバンドのこれまでとこれから

――先ほど、本作は「今までとこれからを繋ぐ集大成」とおっしゃっていましたが、4曲目「WALKING」と5曲目「FLAG」には新しい3SET-BOBを感じました。

YUSUKE：ああ、そうですね。確かに新しさがあるかも。

――どうやってこの2曲が生まれたのか教えてもらってもいいですか？

YUSUKE：はい。3SET-BOBにアコギ1本で歌える曲がないから、そういう曲を作りたいなと思って、家でギターをポロポロ弾きながら作ったのが「WALKING」です。あとは僕が犬を飼い始めたっていうのも影響していると思うんですけど。

KAI：ははは（笑）。彼、めちゃくちゃ愛犬家なんですよ。

YUSUKE：僕、基本的に歩くのが好きじゃないんですけど、ブロくん（愛犬）がいれば2時間でも3時間でも一緒に歩ける。それって「すげえな」と思ったんです。僕はそんなブロくんに対して思ったことを書いたけど、これって例えば恋人だったり仲間だったり、それこそバンドメンバーに対してもそうだなと思って。1人だったら音楽活動をやめていたかもしれない。3人だからこそ歩けている。そういう気持ちを素直に書きました。こんなに素直に書いたのは初めてだと思います。

――では「FLAG」はいかがでしょうか？　この曲もまた新しさがありつつ、すごくエモーショナルで胸を打つ1曲です。

YUSUKE：いい曲ですよね、これ！　この曲はアルバムの最後にできたんですけど、それまでの5曲でわりと自分の言いたいことややりたいことができていて。でも全部自分から出てきたものだったから、チームで話し合って「何か宿題もらってもいいですか？」「どういう曲聴きたいですか？」と言ってみたんです。そしたら「ポップとかそういうことを気にせず、YUSUKEがギターを鳴らして歌って始める曲がいいんじゃない？」と言われて。そこでハッとして、「俺はあと1曲で何を歌いたいんだろう？」と考えたたら、「バンドのこれまでとこれからを歌いたい」と思ってこの曲ができました。

――「ギターと歌から始まる曲」という宿題をもらったのに、サウンドではなくて、どういうことを歌いたいかを考えたんですね。

YUSUKE：そうです。その宿題をもらってから、いろんなバンドのギターを弾きながら歌で始まる曲を聴いたんです。そしたら、単に歌とギターから始めるだけだったら簡単だけど、チームのみんなが僕に言いたかったのは、「“ギターと歌から始まる歌”で歌いたいことは何なのか？」ということだったんじゃないかって気づいて。

――その気づきから導き出されたのが、バンドのこれまでとこれからだったと。

YUSUKE：はい。

KAI：「FLAG」は本当にギリギリまでメロディを悩んでたよね。だから最初にもらったデモと、最終的に完成したメロディは結構違っていて、面白いなと思いました。サウンド的にも今までの僕らにはないテイストで、3SET-BOBの新しい色が出せたのかなと思います。

――演奏する上で何か苦労はありましたか？

KAI：ベースのフレーズが全然決まらなくて。YUSUKEと一緒に作りました。

――一緒に作ることは、これまでにはあまりなかったことなんでしょうか。

YUSUKE：あんまりなかったよね。

KAI：うん。でも今回の作品では一緒に考えることが増えました。曲を作るYUSUKEと、曲を作らない僕の求めるテイストがうまく入っていい出来になったなと思います。

RUKA：私はこういう曲調は好きなので、わりと楽しくドラムを入れられたなという印象で。

YUSUKE：叩くの気持ちよさそうだったよな。録るのも早かったし。

RUKA：得意なテンポ感だったのかもしれないです。

――リズムやテンポ感という意味では、ドラムは「WALKING」のほうが新鮮だったかもしれないですね。

RUKA：そうですね。「WALKING」のほうが、参考にするものをいろいろ聴きあさりました。中でも参考にしたのは歌い手さんの曲とか。

――レゲエミュージックや、それこそミクスチャーバンドとかではなかったんですね。

YUSUKE：確かに。

RUKA：もともと私は「歌ってみた」動画とかを観るのが好きで。そこに打ち込んであるビートが意外と近くて、活かせそうだなと思いました。

入院中のKAIの背中を3SET-BOBが押すことに

――3SET-BOBは歌詞も大切にしているバンドだと思いますが、本作の中で皆さんが特に好きな歌詞やフレーズを教えてください。

RUKA：私は歌詞だったら断然「FLAG」ですね。最初から最後まで全部が刺さるんですよ。特にBメロの〈強くはないけど弱くはない／決して負けないけどまだ勝てない〉のところ、めっちゃ刺さります。

YUSUKE：おー、嬉しいわ。

KAI：僕は、さっきも話した通り、自分のレコーディングだけ終えて入院しちゃって。完成したものを聴いたときに「WALKING」もグッときました。特に〈一人ならあきらめそう／でも君と一緒なら歩けそう〉とかはもう。

YUSUKE：もう、まさにやん！

――入院中は心細さもありますしね。

KAI：はい。しかも僕の入院のせいで、バンドのいろいろな予定がずれちゃったので、その申し訳なさもあって。「WALKING」を聴いたときのこともはっきり覚えていますね。

YUSUKE：僕が一番気に入っているのは「サイコーサイコー」の〈さあ行こう僕らはまだまだやれるから／ありきたりな歌だって君が歌えば強いアンセム〉です。ここがこのアルバムの核で、一番みんなに言いたいこと。バンドマンもそうだし、学生や社会人とか問わずみんなに伝えたい。僕らにとっては歌うことですけど、声出すとかそういうことで。「君が大きな声で言えば、それがアンセムになるよ」って、そういうことを言いたいんです。

――この歌詞に限らず、「自分たちの曲が聴いた人にとってこういう存在であってほしい」とか、「こういう気持ちになってほしい」といったものが明確にあるように感じました。

YUSUKE：はい、あります。僕自身が音楽に一番刺激を受けたのが学生時代で。学校に行くのがあんまり好きじゃなかったんです。でも10-FEETを聴きながらだったら行けたんですよね。「10-FEETもこう言ってるし、行くか」って。自分たちもそういう存在になりたい。別に「突っ走れ！」とまでは言わないから、チャリを10分漕いだりとか、学校に行けたりとか。その起爆剤になれたらなって。

KAI：僕は入院しているとき、まぁ普通に落ち込んだんですよ。でも落ち込むのはしょうがないけど、そのまま引っ込み思案になったらダメだと思って。そういう状況からちょっと踏み出せる……というか、踏み出さなきゃって思うきっかけくらいに、僕たちの音楽がなれたら嬉しいですよね。

――実際、入院中のKAIさんにとっては3SET-BOBの曲がそういう存在になっていたわけですよね。

YUSUKE：経験者は語るってやつだね。

KAI：うん、ちょっとだけ、一歩踏み出せるような勇気を持ってもらうきっかけになれたら嬉しいですね。

RUKA：私自身も、元気をもらいたいときに音楽を聴いていたので、自分たちもそういう存在になれたらいいなと思っています。ものすごい勇気を出すんじゃなくて、3SET-BOBを聴いて、ちょっとだけ頑張ってみようとか、ちょっとだけ前向きになってもらえたら一番いいなって思いますね。

YUSUKE：「ちょっとだけ」っていいな。

KAI：「FLAG」でも〈ちょっとだけ〉と言ってますからね。

YUSUKE：そうそう！

――そんな3SET-BOBですが、この1st EP以降にはどのような未来を描いていますか？

YUSUKE：僕たちにとって3SET-BOBというバンドは、気持ちの面でいうと仕事でやっているわけではないし、でも遊びでやっているわけでもない。だからこそ、なんでやっているかというところにフォーカスしたくて。だからこれからは今まで以上にもっと楽しんでやりたいなと思っていますし、“EXCITING”していきたい。まずは自分たちがワクワクして、それに共感してくれる人がいればいいですね。

――新たなレーベルに所属したので、「もっと売れたい」とか「上を目指していきたい」という気持ちもあるのかと思っていました。

YUSUKE：もちろん売れたいんですけど（笑）、僕らが楽しくなかったらどんなにいい曲でも響かないと思うので。自分たちが楽しんだ先に、そういうことがついてきたらいいなと思っています。