Albemuth、美しく儚い旅路の終焉 存流と明透それぞれの想いが交差したラストライブを観て

 後半戦は、これまでとは真逆の黑(くろ)の世界へと観客を招待。黒基調に鮮やかな赤を指し色に使った艶やかな衣装に着替えた二人は、これまでの神聖な雰囲気から一変し、アグレッシブに観客を煽り始める。EDM調のアッパーなサウンドが心地よい「guilty」をきっかけに、会場のボルテージは急上昇。ライブの勢いは、続く「HALF」の熱いパフォーマンスでさらに加速していく。長い手足をダイナミックに使って優雅に踊る明透と、あどけない少女のような華奢な身体で繊細に踊る存流。ダンスでも相反する魅力を見せた二人に、歓声と拍手は鳴りやまない。「Black Glow」ではクールなラップと極上のウィスパーボイス、そして熱量高い歌声を披露し、熱狂の渦を巻き起こした。

 ここで水分補給から、初めてのMCタイムへ。明透は天真爛漫な笑顔を見せながら、「今日は来てくれてありがとう! 聞こえてるよ! ようやく直接みんなと会えて、私も存流ねえもテンション上がってます!」と元気いっぱいに叫び、念願だったというコール&レスポンスで会場をさらに盛り上げる。人前が苦手だという存流も、言葉少なながらも「ありがとう~!」と感謝の気持ちを精一杯伝えた。

 「ここから一気に駆け抜けていきたいと思います! みんなついてこれるかな?」という明透の扇動で、再びノンストップのライブがスタート。「tuberose」でハードかつ官能的な姿を見せつけると、オルゴールの不穏なメロディから始まる「Do You Wanna Die ?」で狂気に満ちたダークな世界へと誘い込む。曲を重ねるごとに二人のグルーヴ感は高まっていき、熱量高い歌と激しいダンスで観客を挑発する。

 生バンドのサウンドをフルに生かしたヘヴィな「Underdrain」では、溢れる激情をステージに叩きつけるように迫力満点の声で歌い上げ、恐怖すら覚えるほど強烈な印象を残した。そして「cage」で最高潮の盛り上がりを見せ、本編は終わりを迎えた。

 鳴りやまないアンコールの中、まずは存流が一人で登場し、「いのり」をソロで歌唱。フロアのペンライトは青一色に光り、まるで静かな海のように揺れていた。曲のクライマックスで存流が手を伸ばすと無数の光の粒が放たれ、その中から明透が姿を現す。幻想的な演出を経て再び二人が隣同士に並ぶ光景は、観客の胸に大きな感動を与えた。

 夢のような時間が流れていたが、無情にも終わりは少しずつ近づいてくる。誰もが胸の奥に隠していた悲しみや寂しさが一気に噴き出したのは、「饒舌な星」を披露したときだったように思う。向かい合わせになった二人は、まるで会話をするように優しい歌声を贈り合う。途中、俯いてしまう明透に寄り添い、慰めるようにそっと背中に触れる存流。〈例えばこうして音楽が壊れても あなたには笑ってほしいかな〉〈例えばこの後、曲が壊れても あなたは優しく生きてね〉という歌詞は明透へのエールにも感じられた。静かに曲が終わると、「ありがとう!」という涙声の叫びがあちこちから飛び交った。

 最後の曲を歌う前に、存流は今の思いをそっと語り始める。

「このライブが終わったら、ただ歌うことが好きな普通の女の子に戻ります。だけど音楽は私にとって人生だから、違う形で続けていきたいし、みんなと、明透ちゃんと過ごした日々、Albemuthとして届けてきた音楽は、心の中でずっと輝き続けます。これからは新しい道を歩みます。でも、その前に、今この瞬間、ここにいる全てのみんなに心からの感謝を伝えたい。みんなの笑顔、涙、音楽と共にした様々な時間。すべてが私の宝物です。本当にありがとう」

 そして、明透へ、「人前に出ることが苦手な私を、いつも一番近くで支えてくれてありがとう。明透ちゃんは陽だまりのような存在で、隣に居て誰よりも心地よくて安心できて、頼れるパートナーだったよ。一人にして、ごめんね。でも隣に居なくても、私はこれからもずっと応援してるよ」と優しく語り掛けた。

 明透は涙を堪えているのか、何度も言葉に詰まりながらも、「存流ねえとの最後のライブだからずっと笑顔でいたかったけど、今日歌ってきた曲も、もう一緒に歌えないんだなと思うと……。今日のライブも、もちろん嬉しいし楽しいけど、どうしても悲しい、寂しいっていう気持ちがあって。存流ねえが決めたことだから笑って送り出したいけど、ずっと一緒だったから……」と、素直な気持ちを吐き出す。存流は、そんな明透を慰め励ますように、「私がその場に居なくても、曲の中に私が居るし、今ここにいるみんなが明透ちゃんを支えてくれるから、明透ちゃんは一人じゃないよ」と言葉を重ねる。それに賛同するように、フロアからは大きな歓声と拍手が響き渡った。

 二人が最後に歌ったのは、「舟」。寂しくも優しい、二人の新しい旅の始まりを祝福するような曲だ。存流の祈り、明透の希望を乗せた歌は、観客の胸にあたたかく響き渡った。二人は何度も手を繋ぎ、触れ合い、最後に名残惜しそうにそっと手を離して姿を消した。

 エンドロールと共に、春の夜に繰り広げられた儚い物語は静かに幕を下ろした。まるで美しい幻でも見ていたかのような時間だった。それぞれの旅路へ新しい一歩を踏み出した二人の行く先が、希望の光に満ちていることを祈りたい。

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