ハナレグミ『THE MOMENT 2024』になぜ感情を揺さぶられたのか すべての必然が伝わるライブに

 ハナレグミの東阪ホールツアー『THE MOMENT 2024』の東京編が、3月27日にLINE CUBE SHIBUYAで行われた。

 「自身のルーツ・ミュージックを中心に永積がボーカリストに徹し、2020年冬にストリングスとホーンという2つの編成でお送りした『THE MOMENT』。24年に再び開催が決定! 今回はカルテッドとホーンを迎えたスペシャル編成でお送りします」というのが、公式サイトに書かれたこのライブの趣旨である。

 「カルテッドとホーンを迎えたスペシャル編成」であるバンドは、エレクトリックベースとウッドベースの鈴木正人、ドラム伊藤大地、ギター西田修大、キーボード宮川純、トランペット類家心平、サックス・フルートを曲によって使い分ける武嶋聡、そして美央ストリングス4名、以上の10人編成である。

 この日のセットリストは、本編17曲でアンコールが1曲。ただし、本編が終わって、いったんステージをはけるのは省略、永積 崇が「どうもありがとう!……はいー ということでアンコールです!」と叫んで、そのまま続いた。本人は「時代はタイパでしょ?」と言っていたが、どうやら会場の音止め時間の都合もあったようだ。

 18曲の内訳は、自身のオリジナルが10曲。バンドSUPER BUTTR DOG時代の代表曲から「サヨナラCOLOR」が1曲。他アーティストに参加したコラボ曲からは東京スカパラダイスオーケストラ「追憶のライラック」と、冨田ラボ「眠りの森 feat. ハナレグミ」の2曲。そして、カバーは中島みゆき「ホームにて」、KIRINJI「エイリアンズ」、ビートたけし「嘲笑」、オマー「There’s Nothing Like This」、マイケル・ジャクソン「Music and Me」の5曲が披露された。

 オリジナル曲とコラボ曲が並んだ前半は、MCはほぼなしで、次々と曲が披露された。そして、カバー曲多めの後半は、その曲にまつわるエピソードや自身の思いなどについてのMCが、そのたびに織り込まれたのだが、それらがいちいち秀逸だった。その曲の解説としても、自分にとってのその曲がどんな存在であるかの説明としても、その時々の自身の生活などをネタにした、おもしろいエピソードトークとしても。

 たとえば、この日唯一の、ひとりで弾き語りで歌われた「ホームにて」を披露する前のこと。このライブのテーマについて映画監督の是枝裕和に相談したら、「駅、ホーム、電車、出会いと別れ」というアイデアを出してくれた、という話に続いて、是枝監督からもらった手紙を朗読し、彼の発案である「ホームにて」を歌う、という流れに。アンコールで歌った、マイケル・ジャクソンがジャクソンズ在籍時代の14歳の頃にソロで発表した「Music and Me」の時は、まず、ポータブルのアナログプレイヤーで、永積が同曲をかける。それをBGMにしながら、中学1年でこの曲に出会った時のこと、自分にとってお守りのような曲で、ライブ前に必ず聴いていること、音楽と電車に似ているところがあるとしたら終わりが来ること、などという話を、「あの頃に戻りたいとか、ついつい思う瞬間があるけど、戻るところは未来にしかない、ってことなんですよね。だったら行くしかないでしょ、未来に」という言葉で、きれいに締める。そして、レゲエアレンジした「Music and Me」を歌って、LINE CUBE SHIBUYA満員のオーディエンスを立ち上がらせ、踊らせた。

 というふうに秀逸だったのは、MCだけではない。1曲目「線画」を、スツールに座って歌った永積は、2曲目「ブルーベリーガム」では立ち上がってスタンドマイクで歌い、それ以降も立つ歌、座る歌、ハンドマイクで動き回りながら歌唱する歌、アコースティックギターを弾く歌と、曲ごとに、自身の表現のしかたを変えていく。

 バンドの演奏も、然りである。歌とストリングスで始まった「線画」は、歌とピアノになったり、ストリングスとピアノの両方が鳴ったりしながら進んでいき、ベースとドラムは最後まで加わらなかった。アウトロでは、永積が、鳥の声のような口笛を演奏に加えていく。なお彼は、「賑やかな日々」では歌詞の世界そのままに「腰の曲がったお婆さんが、歩いて行って椅子の上に立ち上がり、まっすぐに身体を伸ばし、何かをつかもうとするように腕を掲げる」というマイムをやってみせたり、「ハンキーパンキー」の間奏やアウトロでは、靴を踏み鳴らす音をマイクで拾ったり、というパフォーマンスを、曲に加えたりもした。

 「マドベーゼ」では、ストリングスチームが退出し、ホーン×2とウッドベースとアコースティックギターとドラムのブラシで、曲が奏でられる。

 この日最初に、永積がアコースティックギターを持った「音タイム」ではホーン隊が退出。サビ終わりの〈懐かしきストーリーを〉と、最後に〈音タイム 音タイム 音タイム〉、つまり永積が最大限に声を張るところでは、照明が明るくなり、満員のオーディエンスが歓声と拍手をステージに浴びせた。

 「こんな最高なこと、他に代わりはないぜ……今日の歌みたいだね。今日のことを言ってるみたいだ」という紹介から歌われた「There’s Nothing Like This」は、曲の中盤まで、ウッドベースとオーディエンスのハンドクラップだけを伴奏に、歌が進んだ。

 永積の歌とオルガンだけで始まったアンコール=「ハンキーパンキー」も、そのパターンで、途中から他のメンバーの音が加わってくるのかな、と思ったら、最後まで歌とオルガンだけだった。

 つまり今回のツアー『THE MOMENT 2024』は、ハナレグミの原点である「ギター1本で弾き語り」とは対極の、「ホーンもストリングスも入れた大編成で行う、永崇は基本ハンドマイクで歌う」というものだが、その大編成をフルで使い続けるのではなく、1曲1曲に対して考え抜かれた末に、その曲に本当にふさわしい形のアレンジが施され、演奏され、歌われるライブである、ということだ。

 このあたり、本人はもちろん、バンドマスターの鈴木正人の力も大きいのだろう、と推測する。全体の構成も然りだった。

 前述したように、オリジナル曲とコラボ曲が連なる前半は、MCなしでどんどん曲が進んでいく。で、それまでほぼ全員が座って観ていたオーディエンスが、一斉に、まさに弾けるように立ち上がって踊り始めた8曲目「Peace Tree」と、それに続いてダンス&ハンドクラップの嵐になった9曲目「独自のLIFE」で、ピークを迎える。

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