ヰ世界情緒「“想い”だけでできるものではない」 日々の創作で芽生えたバーチャルシンガーの矜持
バーチャルの領域がなかったら歌手になろうとは思っていなかった
ーー音楽活動を志す中で、バーチャルシンガーを選んだきっかけはありましたか?
ヰ世界情緒:私の感覚としては、バーチャルの世界で活動していこうと決めたのはとても自然なことでした。もともと好奇心旺盛なタイプなので、リアルな肉体ではできないこととか、リアルを超えた体験とか、そういう新しい感覚に出会えるところに惹かれたのかなと思います。あと、時代のおかげもあるのですが、バーチャルという選択肢が当たり前のように目の前にあったので、特別な意識を持って選んだというよりも、気が付いたらバーチャルシンガーになっていたような感覚です。
でも、バーチャルという領域がなかったら、私は一世一代をかけて歌手になろうとは思っていなかったかもしれません。私は歌と絵が両方好きで、どちらか一つに絞らなければならないと思った時期もありました。でも、ヰ世界情緒の活動を行ううちにどちらかを選択する必要はないと思うようになりましたし、”バーチャルシンガー"という存在だからこそ、みなさんに色々な活動をすることを受け入れてもらえているのかなとも感じています。バーチャルシンガーという形が世の中にあったことは、とても恵まれたことだと思っています。
ーー2023年12月9日には活動4周年を迎えました。この活動を通して、ご自身の内面や性格に変化はありますか?
ヰ世界情緒:根っこにあるものは変わっていないと思いますが、物事の捉え方は変わったように思います。私はもともと自分自身の手の届く範囲の人たちが幸せであれば大丈夫、 というようなタイプだったんです。そう考えると、デビュー前の方が生きる上での余裕はあったのかもしれません。でも、今は私が想像できない範囲の人たちが活動を見守ってくれていて、作品はもちろん、発言一つとっても誰かに影響を与えると思うんです。だからこそ、人前に出ることに対する責任感が強くなっています。自分の心の中に、自分以外の誰かが常にいるような感覚が大きく変わった点かもしれません。そういう感覚は表現者として活動を行う上でも大切だと思うので、備わってよかったなと思います。
ーープロ意識がどんどん強くなっているのかもしれません。自分自身でさえ見えていなかった一面や発見もありましたか?
ヰ世界情緒:なんだろう……。デビューする前は自分のことを“自由な人間”だと思っていたんですけど、心の中で他者と共生することによって今までの人生で経験していなかった悩みが増えたように思います。同時に今まで聴いていた楽曲の歌詞が深く刺さるようになりました(笑)。
ーーそれはどんな歌詞ですか?
ヰ世界情緒:具体的な曲名はパッと出てこないんですけど、例えば「僕達はそれでも歩いて行かなくちゃ」みたいな歌詞があったら、「いや、本当にそうだよね」って共感するんです。今までなら絶対に聴き流していた言葉が妙に沁みるようになりました。成長と言えるのかはわからないですけど、そういう1人の世界では知り得なかった感覚を持つことができたのは嬉しいことだと思っています。悩みを持つことで、今まで見えていなかったことが見えるようになってくるんですよ。これまで見過ごしていたような感情と出会うきっかけにもなっています。
ーー人間としての深みが増してきたのかもしれないですね。
ヰ世界情緒:そうかもしれないです。今までは自分の中だけの狭い範囲の感情を深堀りするような状態だったんですけど、今はその範囲がちょっと広がっているのかなと思います。
ーー2023年の活動について振り返っていければと思います。2023年4月にライブ企画『parallel canvas』がスタートしました。すでに2度行われていますが、初回は普段の活動では見せない“ザ・アイドル”的な姿が新鮮でした。
ヰ世界情緒:『parallel canvas』、通称『パラキャン』はエイプリルフールが発端の企画で、私のやってみたいことも詰め込みつつ、ファンのみんなとのお楽しみ企画みたいな要素もあって、普段とは違う方向性を追求するようなライブになっています。内容も私とファンの方々の関係性があってこそ成立するものが多いのですが、みなさん待ち望んでくれていたのか、「Ⅰ」も「Ⅱ」もみんなが身を乗り出して楽しんでもらえた印象がありました。私自身、『パラキャン』でファンの方々との信頼関係を感じることができましたし、今までの世界線だったらここまで振り切ったものはやれないと思うので、色んな可能性を突き詰めて歌えるのは、ものすごく楽しいです!
ーー「Ⅰ」と「Ⅱ」でコンセプトが全然違ったので、「Ⅲ」でどうなるのかすごく楽しみです。ライブとしては「SINKA LIVE」シリーズとして開催された2nd ONE-MAN LIVE『Anima Ⅱ -神椿市参番街-』も大きな公演でした。
ヰ世界情緒:前回のワンマンから2年ほど間が空いていたので、私自身ずっとやりたいと思っていたライブでしたし、ファンの方々もずっと待っていてくれていたと思うので、まずはそこが叶えられたのが嬉しかったです。あと、長い期間が空いたからこそ私も成長できたので、最初のライブ以上に歌えることが広く、深く、なったように思います。
「SINKA LIVE」のエピソード0は花譜ちゃんの『不可解参(想)』だったのですが、第1弾としては私の『Anima Ⅱ』が初めての公演でした。“神椿市”(KAMITSUBAKI STUDIOが作り上げる架空の仮想都市)での初ライブという意味では、楽曲や構成、メッセージも全く新しいものをファンの方々に届けたい、という気持ちで挑みました。「ヰ世界情緒のライブはまだなのか」と期待の声を上げてくれていた方々にも、初めて私のライブを観た方々にも、満足してもらえていたら嬉しいです。