リュックと添い寝ごはん、色彩豊かな楽曲に込めたリアルな感情 松本ユウ、ポップスを歌う意思
「孤独感により入り込んだがゆえの涙だった」
――そういう自信がないと、「天国街道」みたいな曲って簡単には出せないと思うんですよ。勝負でもあるし、一方ではネタっぽく見られてしまう危険もあったりするじゃないですか。でもそれがちゃんとライブで盛り上がるものになったというのは手応えを感じられたんじゃないですか？
松本：「天国街道」はリリースする前からライブでやっていて、そこが一番緊張してたんですけど、それが受け入れられたってことは徐々に自信になりました。MVとかもコミカルになりすぎないようにってところに気をつけながらやってもらいましたね。
――僕も最初に聴いたときは意外な感じがしましたけど、〈日々は地獄だらけ 天国街道僕はひた走る〉という歌詞を読むとすごくしっくりくる感じがあって。遊び心もあるけど、すごく強い信念を感じさせる曲になったなと。その歌詞を踏まえると、この音を選んだのも「やりたいことをやるんだ」っていう意思表明のように思えたんですよね。たぶんそれがお客さんにも伝わったんだと思うんです。
松本：メジャーって世間一般から見たら“天国”と言われるかもしれないけど、その中でも地獄みたいな瞬間がたくさんあって。そういう瞬間にちょっと疑問が生じて作った曲なんです。どうやって地獄を天国に変えていくかというか……そういう曲です。
――そう、その「地獄を天国に変えていく」っていう意思がいろんな曲に出ている感じがします。「Pop Quest」もある意味でそういう曲だなと思いますし、「Dreamin' Jungle」も〈東京 コンクリートジャングル／冷たい風吹く〉っていう描写から始まりながらも“夢を見たいんだ”っていうところにいく感じとか、そうだなと思うんです。松本さんは東京生まれ東京育ちですけど、そういう人が東京の風景をこういうふうに書くのもおもしろいなと思いました。
松本：東京でも住宅街生まれなので、ビルがバンバン建っているみたいな場所じゃないというのもあるのかな。あとは地方に行くことが多かったので、その中で地方と東京を比べたときに「なんて忙しないんだろう」とか思ったりもしたので。東京から離れてみて感じたこともあるのかなと思います。
――でも、そうやって感じた風景を歌にすることってあまりなかったじゃないですか。どちらかというと自分の大事な場所、守るべき場所のことを丁寧に歌ってきた感じがするんです。視野が広がったなと思う。
松本：はい。いろんな出会いが増えたし、いろいろな場所に行けたからそういう広がりが生まれたのかな。
――で、そういうマインドの変化の中で生まれた曲が、「long good-bye」と「車窓」だと思うんですよ。それまでの曲たちが変化の途上みたいな感じだとするなら、この2曲に関してはその変化を経た今の思いを書いているような気がします。より純度が高い曲たちができたなっていう気がする。
松本：そうですね。「long good-bye」は本当に純度が高いと思います、僕の中でも。「Thank you for the Music」と同じくらいの感覚ですね。
――セルフライナーノーツには「歌詞を書きながら涙が出てきた」というエピソードが書かれていますけど、それだけ強い思いが入っている曲なんですね。
松本：この曲を作った時は、いろいろな人に自分を置き換えて作っていて。たとえば上京する人の気持ちになって両親とか友達とかとの別れのことを考えたり、恋人が留学して会えなくなることを考えたり、祖母や祖父が他界してしまったときの自分の寂しさを考えたり。そういう孤独感みたいなものに、頭を使ってより入り込んだがゆえの涙だったのかなって思います。自分でも不思議な感覚になりましたね。
――それは何が違ったんだと思いますか？
松本：たぶんサウンドなんですよね。サウンドが自分の中でグッときてしまって。星野源さんのライブで「日常」を聴いた時もやっぱり歌詞よりもサウンドで泣いてしまったんで、そこじゃないかな。感情の波が細かい感じがするんです、このサウンド。明るいけどすごく寂しかったりもして、その波の周期が本当に細かい曲だから、そこに結構グッときてしまったのかもしれないですね。
――音も歌詞もそうですけど、まさに“波が細かい”というか、幸せな感情も落ちている時の感情も、全部がちゃんと等しく入っている曲ですよね。自分の中の気持ちだけにフォーカスするんじゃなくて、一人称で書きながら、同時に引いた視点で心の営みを俯瞰で描いている感じがします。
松本：確かに言われてみたら、映画のような視点で書いていたかもしれないです。常に誰かの目線じゃなく、上から撮っているとか、カメラの目線で書いていたかもしれない。
「心の奥底の気持ちをポップスとして落とし込みたい」
――『Terminal』というタイトルもそうですよね。一人ひとりはそれぞれ乗るべき列車に乗って降りていくだけなんだけど、それが集まってターミナルになっている。そういう視点が出てきたんだなと思いました。
松本：ありがとうございます。
――「車窓」についてはどうですか？
松本：「車窓」は本当に最後の最後にできたんです。アルバムのジャケット（写真）のような情景と、人が行き交う場所をイメージして作りましたね。これはわりと一人称の視点で作ったかもしれないです。夜の誰もいない電車の中でこの曲を聴いているような感覚。この曲を聴いている時の自分の心境だったりとか、見える景色を描きました。
――旅をしていくんだけど、〈車窓から見えた景色は／それぞれの故郷の街〉っていうフレーズで安心するようなところもありますよね。ここはどんな気持ちで書いたんですか？
松本：いろんな方向性の曲があるアルバムになって、それをお客さんが聴いた時に「リュックはどうなるんだろう」みたいな不安もあるのかなと思うんですけど、そこを最後、〈多様な行き先でいい／君だけのリズムで／車窓から見えた景色は／それぞれの故郷の街〉っていうところで「リュックは大丈夫だよ」というか、「しっかりと故郷があるから」っていうことを表現したくて書きました。『Terminal』というアルバムの列車から見える景色はちゃんとリュックの故郷の街で、変わらないよっていうことを伝えたかったですね。
――わかりました。でも、確かに多彩なアルバムにはなったと思いますけど、むしろそこで歌われていることや伝えようとしているメッセージはより研ぎ澄まされていっている感じがするんですよね。松本さんが音楽を通して届けようとしているものが、どんどん整理されていっている感じがする。
松本：自分の感情の中で怒りが一番大きいんですけど、それをメモするようになったから、歌詞にそういうものがより入ってきたのかもしれないです。自分はそう思うのかとか、自分がそう思い始めたのはいつからなのかとか、何がそうさせているのかとかを書き出すようになって。
――確かに「反撃的讃歌」からそうですけど、今回はその怒りみたいな感情がちゃんと曲から感じられるようになってきていますよね。
松本：はい。自分の怒りだったり心の奥底の気持ちだったりをよりポップスとしてちゃんと落とし込みたくて。歌詞を聴かない人たち、歌詞を見ない人たちにも「いい曲だよね」って言ってもらえる状態にしたいんですよね。そういう奥底の感情をこれからもっと落とし込んでいきたいなと思っています。
■リリース情報
リュックと添い寝ごはん 3rd album『Terminal』
2024年3月20日（水）発売
完全生産限定盤（CD）：¥2,500（税込）
配信：https://jvcmusic.lnk.to/Terminal
＜収録曲＞
01. Attention
02. 天国街道
03. 恋をして
04. Pop Quest
05. 反撃的讃歌
06. Dreamin' Jungle
07. 未来予想図
08. Be My Baby
09. long good-bye
10. 車窓
11. Information
■ツアー情報
リュックと添い寝ごはん『3rd album release tour “Terminal”』
4月18日（木）東京 LIQUIDROOM [OP 18:00 / ST 19:00]
4月27日（土）新潟 GOLDEN PIGS BLACK STAGE [OP 16:30 / ST 17:00]
4月29日（月祝）宮城 ROCKATERIA [OP 16:30 / ST 17:00]
5月25日（土）北海道/札幌 cube garden [OP 16:30 / ST 17:00]
5月26日（日）北海道/帯広 studio REST [OP 16:30 / ST 17:00]
6月7日（金）福岡 LIVEHOUSE CB [OP 18:30 / ST 19:00]
6月9日（日）熊本 B.9 V2 [OP 16:30 / ST 17:00]
6月15日（土）長野 松本ALECX [OP 16:30 / ST 17:00]
6月21日（金）広島 ALMIGHTY [OP 18:30 / ST 19:00]
6月23日（日）香川 TOONICE [OP 16:30 / ST 17:00]
6月28日（金）愛知 JAMMIN’ [OP 18:15 / ST 19:00]
6月30日（日）大阪 yogibo META VALLEY [OP 16:15 / ST 17:00]
＜チケット＞
オールスタンディング 4,400円（税込）
各会場、ドリンク代別途必要
詳細：https://eplus.jp/sleeping-rices/
