リュックと添い寝ごはん、色彩豊かな楽曲に込めたリアルな感情 松本ユウ、ポップスを歌う意思

リュクソ 松本ユウ、ポップスを歌う意思

 リュックと添い寝ごはん、1年4カ月ぶりとなるニューアルバム『Terminal』は、バンドの、そしてソングライターである松本ユウ(Vo/Gt)の成長が鮮やかに刻まれた1作となった。前作『四季』以降、彼らの生み出す楽曲は明らかに変わった。これまで以上に「自分たちがどういう音楽を作りたいのか」「何を歌いたいのか」ということに、より素直になった感じがするのだ。昨年リリースされた「天国街道」はサウンドの面でも、歌詞の面でも、その「やりたいことをやるんだ、行きたい道を行くんだ」という意思がはっきりと表れた楽曲だったと思う。

 その先で完成した『Terminal』にもまた、そんなリュックと添い寝ごはんの意思が貫かれている。さまざまな場所に向かう列車が集まるターミナル。そこで行き交う人々の感情を掬い取るように、このアルバムはバラエティ豊かに展開する。そのすべてをしっかりと見定めながら、リュックと添い寝ごはんは自分たちの進む旅路へと突き進んでいく。このソロインタビューからも、松本の中にはっきりとした思いが根づいていることが伝わるはずだ。(小川智宏)

「いろんなジャンルをできるのが強みだって証明したかった」

――久しぶりのインタビューになりますが、この1年ぐらいの間で、松本さんの中にはどんな気持ちの変化が起きましたか?

松本ユウ(以下、松本):端的に言うと、「売れたい」っていう気持ちがより強くなってきたかなって。2023年はその中で、自分の中のポップス像をもっと描いていきたいっていう心境でしたね。今までは売れる/売れないとかよりも、まずは自分の聴きたい曲をとにかく作るっていうマインドで作っていたんですけど、「Be My Baby」がタイアップ曲(テレビ東京系ドラマNEXT『みなと商事コインランドリー2』エンディングテーマ)になったこともあったし、ライブを重ねるにつれて「もっといろんな人に自分たちの音楽を聴いてほしい」とか「もっといろんな人に自分たちの音楽を評価してほしい」っていう気持ちがすごく強くなってきて。そう思うようになったのも、今までは大学があって――。

――この3月で卒業ですよね。

松本ユウ

松本:はい。大学という、課されているものがある状態で音楽をやっていたんですけど、それが自分に合ってたと思うんです。でも、そういう状態でやることがなくなるってなった時に、やっぱり何かを自分に課さないといけないなと思って。それで「いろんな人に届ける」っていうすごく難しいところを自分に課して音楽をやっていけたらなと思ったんです。メンバーのみんなには昔からそういうマインドがあったんですけど、そこに僕の歩幅がやっとしっかりと合った感じですね。

――アルバムの資料には「やっと自分自身の心の固結びを解くことができた」というコメントがありますけど、逆に言うとこれまでは固く結ばれていた部分があったということですよね。それってどういうことだったんですか?

松本:インプットしたものをうまくアウトプットできないっていう悩みがあったりとかして。そこが徐々に徐々に、解けてきた感じはあります。まだ完全に解けたわけではないですけど、少し解けたアルバムになりました。

――少しずつではあるけど、やりたいことがやれるようになってきている?

松本:そうですね。自分がやりたいことと求められているもの、いろんな人に届く曲みたいなものが徐々にマッチしだしている感覚というか。

――実際『Terminal』にはタイアップ曲がたくさん入っていて。その都度すごくエネルギーをかけて、まさに求められる曲を作ってきたと思うんですけど、そういう曲作りというのは松本さんにとってどうでした?

松本:僕の中ではすごくやりやすかったです。求められているものがはっきりとした状態で、自分の音楽をどう落とし込むかっていう作業にシフトできるので。漠然と自分のやりたいものと求められているものを照らし合わせていく作業よりも、僕にとっては全然苦ではなかったです。

――確かに、タイアップ曲も含めて、すごく生き生きと楽曲を作っている印象が今作にはあるんですよね。どの曲もめちゃめちゃキャラが立っているっていうか。

松本:うん、そうですね。なんか昔は「リュックは何をやりたいかわからない」とか、「いろんなものに手を出してるから絞った方がいいよ」とかって言われてた時期があったんです。そこが自分の中で腑に落ちてなくて……。だから今回アルバムの中でいろんなジャンルの曲ができるのが僕らの強みだっていうのを証明したかったというか。僕らは多ジャンルの、サブスク世代ならではの曲作りをするんだっていうことをより提示していきたかったっていうのが一番大きいですね。

――『Terminal』っていうタイトルで、オープニング曲(「Attention」)とエンディング曲(「Information」)がちゃんとあって、パッと見はすごくコンセプチュアルに見えるアルバムなんですけど、その中身はやりたい放題というか、これまでの作品と比べてもすごく自由になってるなって思います。

松本:今回は列車に例えてアルバムを作っていったんです。外枠はSEを入れてコンセプチュアルにしてるんですけど、内側ではそれぞれに目的地があって。このジャケットにもあるように一両一両まったく色が違う曲たちで、その一両一両にいろいろな人たちが乗り合わせていて……そこと照らし合わせながらアルバムを構成しましたね。

――色とりどりなものにしたいっていうイメージがあったんだ。

松本:あったというよりも「そうなるだろう」と思ってたんです。デモでいろいろと曲が揃っていく中で、これは今まで以上にバラバラなものになるなって。そこをひとつにまとめられるものがないかなっていうところで、列車というキーワードが出てきたんです。

――どうしてそこまでバラエティ豊かな曲が生まれてきたんだと思いますか?

松本:なんだろうな……自分の肌感でわかることが増えてきたというか。「ここまでいったら聴かれない」とか「これだったら聴いてもらえる」とか。自分が何を作りたいかも大事だけど、聴いてもらうためにというところの優先順位が変わったのかなと思います。

――何が作りたいのかという気持ちは大事にするけど、ひとりよがりなものにはしたくないっていう。そのバランスが取れてきたということですかね。だからこそより自由になれたのかもしれない。今作のどの曲も、音でも歌詞でも、「今こういう音を鳴らしたいんだ」「こういうことを言いたいんだ」っていうのがストレートに出ている感じがします。

松本:歌詞ではよりリアルなものを描きたいって思うようになり始めましたね。同世代の人が就活などの節目を迎えて自分と向き合う時間が増えていく中で、「同世代のバンドがこんなに頑張ってるんだから自分も頑張れる」っていう存在でありたいと思ったんですよね。応援歌は書きたくないけど、自分自身が応援歌になる存在でありたいなっていうか。そういうマインドになってから、どんどんリアルなものを描きたくなっていって。それが言葉にも表れているんじゃないかなと思います。より自分の中のものを吐き出しているというか。

――確かに具体性が上がった感じがするし、綺麗なものだけを描こうとはしなくなったよね。

松本:そうですね。綺麗事じゃなく、抽象的じゃなく、はっきりとした情景を描こうっていう気持ちはありました。それによって歌い方も変わりましたね。雰囲気やニュアンスみたいなものよりも、魂の叫びというか、結構声質も変わった感じがします。それは歌詞に影響を受けているんじゃないかなと思います。

「メンバー3人と自分の思っている音が結びつきやすくなった」

――実際にバンドでアルバムを作っていくプロセスはどうでしたか?

松本:今回はリファレンスをかなり共有していたかもしれないです。アルバムの曲もしかり、シングルの時もそうだったんですけど、2023年からはそういうやりとりがすごく増えました。曲作りの段階から「自分はこういうふうに思っていて、この曲のこういう部分がすごくいいと思っている」とかを共有し合っていた感じですね。

――たとえば「未来予想図」とかはどんな感じだったんですか?

松本:「未来予想図」は合宿で作ったので、結構例外かな。でも合宿で「フェスっぽい曲を作りたいよね」っていう話をして。わりとフェスで盛り上がる四つ打ちの楽曲だったりとかをリファレンスとして共有してました。

――そういう曲も、従来のリュックと添い寝ごはんだったら、もうちょっとひねりを入れてきていた気がするんですよ。やりたいことが明確にあって、ストレートにそれを「やっちゃえ」みたいな感じがあるなと思ったんですよね。「こういうの多いから俺たちはやらなくていいよね」とか「こういうの流行ってるから、逆に俺たちはやりたくないよね」とか、そういうのがなくなった感じがする。

松本:昔はそれが強かったんですけど、実際にフェスに出てみて、やっぱり楽しいし、一緒に盛り上げていきたいっていうのもありますし、とにかく自分たちがフェスでより楽しみたいっていう思いが強くなりました。

リュックと添い寝ごはん / 未来予想図 [Lyric Video]

――そういった曲と、たとえば「Pop Quest」みたいな、正反対ともいえるような曲が一緒になっているっていうのがこのアルバムのよさだなと思います。「Pop Quest」も松本さんの中にあったゲーム好きとしてのルーツがそのまま音になったみたいなことだと思いますし。

松本:そうですね。あとはその当時聴いていたヴェイパーウェイヴとか、「こういうのあったな」っていうチープなシンセ音を落とし込みたい、みたいな。こういうのも意外とやったことなかったので、最初はバンドだけでやってたところに後からMIDIを入れて。それもヒデ(堂免英敬/Ba)が入れてくれて。

――さっき撮影のときに話を聞いたら、「すごく大変だった」って言ってました(笑)。

松本:こんなリファレンスで、こういうイメージでやってほしいなみたいな感じでヒデに頼んで。それが結果になりました。

――スタジオに集まってみんなでやるだけじゃなく、個人作業で作っていくみたいなことも増えました?

松本:増えましたね。増えたし、そうすると「自分だったらこうやる」っていうのとは違うものをやってきてくれたりするんで、そこのおもしろさはありました。でも、やりすぎちゃったりもするので(笑)、そこはちょっと整えたりとかしてます。

――あと、僕は「Dreamin' Jungle」が大好きで。こういうサウンドは絶対に好きだろうと思っていましたけど、ついにストレートにやったなって。

松本:これ、3年前にもともとあった曲なんです。ずっとリリースしたかったけど「なんか違う」ってずっと思っていて。落とし込みきれていない感じがしたというか、もっと先に、自分がいろいろなものを聴いてから出したいと思って。この曲も、それこそヴェイパーウェイヴとか、FMの交通情報のBGMとか、昔自分がやってたゲームとかの音を落とし込んでようやく腑に落ちたというか。

――それを具現化する演奏能力もかなり成長したんじゃないですか?

松本:本当に成長したなって思います。「Thank you for the Music」を作ってから結構変わったというか。16ビートが増えて、ベースもドラムもギターも変わって、よりメンバー3人と自分の思っている音が結びつきやすくなった。そこはやっぱり大きいですね。メンバーに対して求められるものが、ちょっと広くなった感じはします。

リュックと添い寝ごはん / Thank you for the Music [Music Video]

――そこに対するフラストレーションみたいなものもあったんですか?

松本:ずっとありましたね、4年くらい。それこそ「未来予想図」に対しても「こういうのは作りたくない」とか思っていた時期もあったんですけど、フェスに出ることを通して作れるようになったし。でも今もまだ「このコード進行は嫌だ」とか「このコードは使いたくない」とか、そういうのはあったりするので、そこはこれからどうなっていくかわからないですけど、自分が吐き出す先は見つかっているなと思います。

――そういう自分内ルールみたいなものはまだまだある?

松本:そうですね。単純に量産的な音楽にはしたくないっていうところなのかもしれない。世の中に溢れてる手法に手を出す葛藤みたいな。そこのラインはあるなと思います。それは他の人がやればいいし、リュックだったらここまでかな、みたいな感覚ですね。

――でも、そのやりたいと思える範囲の中で、ちゃんと世の中と繋がることができるような曲が増えてきていると思うんです。そこの実感はあるんじゃないですか?

松本:ありますね。やっぱりライブの動員だったり再生回数だったりを見ると、広がってるなっていうのは感じてます。僕らからの新しい提案を受け入れてもらえていない時期もあったけど、今は徐々に受け入れられてきてるなっていう感じですね。

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