アニメ『ONE PIECE』初代OP歌手 きただにひろし、“戦力外通告”からの逆転「人生が本当に変わりました」

アニメ『ONE PIECE』初代OP歌手の逆転物語

「誰かの人生に関われているんだ」と思うと、すごく感動する

――もともとはバンドで歌うのと並行する形でしたが、アニメソングのシンガーとして本格的に活動していくことになった経緯はどのようなものでしたか?

きただに:「ウィーアー!」がきっかけとなって、いろいろな場所に呼んでいただいて、ショッピングモールとかで歌ったりもするようになったんですけど、そこでは僕のことを知らない人も足を止めてくださるんですよね。笑顔で握手会にも参加してくださったり、CDを買ってくださったりして、「あれ? 俺の居場所ってもしかしたら実はここだったのかな?」と思うようになったんです。「自分にとっていちばん居心地のいい場所は、アニソンを歌って日本全国から全世界まで歌を届けることなのでは?」と感じるようになり、アニソンシンガーになるという気持ちが固まりました。

――Lapis Lazuliを脱退したのは2003年ですが、その前年の2002年から「JAM Project」(アニメソング歌手が集うグループ)の第2期のメンバーになりましたよね?

きただに:はい。「ウィーアー!」を歌っていなかったら、「JAM Project」に入れなかったと思います。素晴らしい経験をさせていただいてきましたね。ものすごい先輩の方々のなかに入ると、自分の実力が上がっていくのが目に見えてわかるんです。強いサッカーチームに入ると実力が上がるのと同じで、歌唱法、人としてのあり方とか、いろいろなことを「JAM Project」で学びました。

――影山ヒロノブさんもそうですし、楽器プレイヤーの方々も含めて、ロックバンド出身の凄腕の方々がたくさんいらっしゃるのが「JAM Project」ですよね。

きただに:そうなんです。だからアニソンってなんでもできるんですよ。「そんなこと普通やらないよ」っていうことまでやれちゃうのがアニソンですから。音楽的にも尖っていますし。楽器演奏でもキメはすごく多いし、難しいし、いい意味でヘンテコなんです。「そんなに転調するの?」と思うような楽曲もありますし、アニソンは本当にすごいです。

――きただにさんはアニメソングの他、特撮作品の主題歌もたくさん歌ってきましたが、子どもたちが喜んでくれるのも嬉しい体験だったんじゃないですか?

きただに:おっしゃる通りです。最高です。大人たちもそうですけど、子どもたちにも喜んでもらえるというのは、人として嬉しいです。「学校に行きたくなかった時にきただにさんの歌を聴いて元気を貰いました」というようなことが書かれたファンレターをいただいたりすると、涙が出るほど嬉しいんですよ。「誰かの人生に俺は関われてるんだ」って思うと、すごく感動します。海外での握手会でも泣いちゃう子とかがいて、「こっちこそ感激です!」と思いますね。

――アニメソングは、音楽の原体験にもなるんだと思います。現代の子供たちにとって、好きになる最初の音楽は、多くの場合アニメソングでしょうから。

きただに:そうですよね。特に日本で暮らしていると、そうなんだと実感します。

――「ウィーアー!」は、今の30代くらいのみなさんの子供時代の思い出と密接に結びついているはずです。

きただに:もう25年前の曲ですから懐メロですけど、小っちゃい子も知ってますし、25年前に子供だった人も今でも歌ってくれるというのが本当に嬉しいです。

――先日、『THE FIRST TAKE』で「ウィーアー!」を歌っていらっしゃいましたが、あれを観て私も胸が熱くなりました。

きただに:ありがとうございます。あれは緊張しましたね。「本当に“ファーストテイク”なんだ!」と思って(笑)。

きただにひろし - ウィーアー! / THE FIRST TAKE

――(笑)。『ONE PIECE』の主題歌は、「ウィーアー!」の他にも歌ってきましたね。

きただに:はい。氣志團さんとのコラボの「ウィーキャン!」を入れると全部で5曲。きただにひろし名義は4曲です。

――『ONE PIECE』の主題歌といえば“きただにひろし”という方程式は、多くのファンの共通認識だと思います。

きただに:本当に嬉しいことですよ。こんなにも長年にわたって大人気のアニメの主題歌をたくさん歌ってこられたことは、「嬉しい」としか言いようがないです。「ウィーアー!」は、もう何万回も歌ってきたんでしょうけど、名曲って飽きないんですよね。たとえば、『THE FIRST TAKE』の「ウィーアー!」はあの時だけの「ウィーアー!」ですし、昨日歌った「ウィーアー!」は昨日の「ウィーアー!」だし、その時の「ウィーアー!」になっていくんです。すごい曲だなとあらためて思います。

「きただにひろしが帰ってきた!」と書かれていたのを見て泣きました

きただにひろし(撮影=池村隆司)

――現在放送中の「エッグヘッド編」のオープニングテーマ「あーーっす!」も、ワクワクさせられる曲です。これは、作曲をした田中さんからきただにさんへの挑戦状でもある気がしたんですが。

きただに:おっしゃる通り、まさに挑戦状です(笑)。公平さんはこれまでもずっとOPテーマを作曲してくださっていますけど、途中から対決みたいになってきてるのが面白いですね。もう長い付き合いですから。「ウィーゴー!」以降からそうなってきたのかな? 「OVER THE TOP」の時は、「ここがおいしい」「こういうのができる」「ここまで高い声が出る」と公平さんは僕のことを完璧にわかっているからこそ、オーダーメイドみたいな感じで作ってくださったんです。

<オープニング映像フル>TVアニメ「ONE PIECE」/オープニングテーマ「あーーっす!」歌:きただにひろし

――難易度の高い必殺技を連発しているという印象です。

きただに:そうですね(笑)。「ここはファルセットで歌ってくれ」という部分もあったりしますから。僕はファルセットではあまり歌わないんですけど、やったことによって曲がよくなって、自分の幅も広がりました。(「ウィーゴー!」は)テンポが速くて、忙しくて、音も高いですけど、すごくいい曲になりましたね。今回の「あーーっす!」もオーダーメイドで、「これをやってくれ!」という挑戦状です。最後のところなんて、ものすごく高いG(音階の「ソ」)ですよ。こんなに高い声で歌うのも、これまでやったことなかったんです。

――最後の〈All of us〉のところですね。

きただに:はい。この曲を作る前にアメリカのドルビー・シアターでオーケストラをバックに歌ったんですけど、リハーサルで公平さんがピアノを目の前にして「今度の曲、この音まで歌える?」って言って、声を出してみたら「ああ、出る出る! 大丈夫!」「じゃあこれで作っていくわ!」と(笑)。それで出来上がったのが、「あーーっす!」です。挑戦を受けたことで、今回も自分の幅が広がりました。

――これまでの『ONE PIECE』のOPテーマもそうですけど、きただにさんがご自身の人生を重ねて歌っているのを感じます。ルフィたちと一緒に冒険を続けているような感覚があるんじゃないですか?

きただに:本当にそうですね。「ウィーゴー!」からは特にそうです。「新世界編」のOPテーマでしたけど、あの時は麦わらの一味のみんなが2年修行してシャボンディに集まったじゃないですか? それと同じ感覚でした。

――作詞が藤林聖子さん、作曲が田中公平さん、歌がきただにさんという「ウィーアー!」チームの再集合が「ウィーゴー!」でしたからね。

きただに:そうそう、「ウィーアー!」を作った一味が十数年ぶりにそれぞれパワーアップして集まったのが「ウィーゴー!」でした。(作品に)リンクするものを感じてグッときましたね。あの頃は2ちゃんねるが流行ってたので、「『しょぼいなあ』って言われたらどうしよう?」とビクビクしていたのを覚えてます(笑)。

――杞憂でしたね(笑)。

きただに:でも、「ウィーゴー!」が初めてOPで流れたあと、「やっぱり最高だ!」「きただにひろしが帰ってきた!」と書かれていたのを見て泣きました。僕、エゴサをよくするんですよ(笑)。「OVER THE TOP」が初めて流れた時もそうでしたね。韓国に行った時で、忘れもしない(2019年)7月7日のオンエアでした。その時もエゴサしました。

――「あーーっす!」が放送で流れた直後は、いかがでしたか?

きただに:もちろんエゴサしました(笑)。今年の1月7日でしたね。青森に向かってる新幹線のなかでエゴサをして、「肩の荷が下りました。ホッとしました。みんなに褒めてもらいました」と公平さんにLINEしましたから。

――「あーーっす!」は、たくさんのエネルギーをいただける曲です。きただにさんの歌を聴くと元気になると、あらためて思いました。

きただに:嬉しいです。やっぱり声なんだと思います。自分の生まれながらの声が『ONE PIECE』というこの物語に合っているのかもしれないですね。

――〈ビリビリElectric ギア上げろ/ONE PIECE!〉とか、本当にギアが上がりますし。

きただに:そこのラップみたいなパートは、やったことがなかったものだったので挑戦でした。

――それに「あーーっす!」は、実に気持ちいい響きの言葉です。

きただに:一発で覚えられるフレーズですよね。これは「All of us」でもあるし、「明日」でもあるし、「earth」でもあるし、「ウィーアー!」の「We」と繋がる「us」でもあるし……いろいろな意味で捉えられると思います。こういう言葉遊びも、同じチームでずっとやってきたならではですよね。本当にいいコンビネーションのトリオです。

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