怒髪天、40年の濃厚な生き様見せた二日間 豪華ゲスト迎えた特別企画レポ

怒髪天、濃厚な生き様見せた二日間

 2024年2月4日と5日、Spotify O-EASTでド派手に開催された『怒髪天結成40周年特別企画 “オールスター男呼唄 真冬の大感謝祭-愛されたくて・・・2/5世紀-”』。祭り好きの怒髪天らしい、騒々しくも貫禄たっぷりの2日間だった。1日目は増子直純(Vo)の体調不良により完走こそできなかったものの、40年というバンドの濃厚で図太い生き様をまざまざと見せてくれた。

 同郷の盟友から演歌界の重鎮まで、あらゆる方面から集まったゲストは怒髪天というロックバンドの音楽性や楽曲はもちろんのこと、そのどデカい懐と人柄を象徴するものであった。増子はMCで「このクラスを呼べるのは、ももクロ(ももいろクローバーZ)か『氣志團万博』くらいだよ」と言っていたが、ゲストが皆、怒髪天の演奏で怒髪天の楽曲を嬉しそうに歌う光景なんて、そう見られたものではないだろう。上原子友康(Gt)は「自分らの曲をカバーして歌ってもらえるっていう、バンドマンにとってこんな幸せなことはないんですよね」と嬉しそうに語っていた。「オリジナルの解釈で歌ってくれる、違う曲として歌ってくれる、そういう幸せがあって……」とも。そうなのだ、歌う人独自の解釈だからこそ、怒髪天楽曲の普遍性、新たな魅力に気づくこともできた。

 通常の進行に思わせておいて、唐突にゲストが登場する形でライブは展開していった。事前告知には「怒髪天にゆかりのあるゲスト多数」とあるだけで、会場を埋め尽くしたオーディエンス全員、誰が出てくるのかわからない状態である。

怒髪天ライブ写真(撮影=西槇太一)

1日目(2月4日)

 場内BGMの北島三郎「まつり」がSE「男祭」となり、颯爽と登場した4人。「よく来た!よう来た!」。大きく響いた増子の一声、「情熱のストレート」で祭りは始まった。

怒髪天ライブ写真(撮影=西槇太一)
増子直純(Vo)

 「スキモノマニア」に続いて、増子のエア乾杯も高らかに「酒燃料爆進曲」を豪快に叩きつけると、「そりゃ来るだろうなという人もいれば」とゲストについて触れて笑いを誘い、「誰が出てきても最高のリアクションでお願いします」と増子。登場した最初のサプライズゲストはうつみようこ。「裸武士」を英詞でソウルフルに歌いあげる迫力。増子と一緒に〈スッポンポン スッポンポン〉とバカ騒ぎする様もどこか海の向こうのナンバーに聴こえてくるから不思議だ。

 ファンクナンバー「愛の出番だ!」で、なぜかモーニング娘。「恋愛レボリューション21」を振り付きで口ずさみながら登場したのはレキシ。歌う増子の傍で、“超超超いい感じ”にステージの上手下手を大忙しに動き回り、フロアの士気を一気に掌握する。上原子のギターソロ中には、増子を巻き込んで「Choo Choo TRAIN」の回転ダンスを披露するなど、やりたい放題である。アウトロのコーラスでは「井上陽水さんみたいだ」と、「夢の中へ」の一節を口ずさみ、「探しものは怒髪天への愛なんだ!」と上手いのか強引なのかわからない自由奔放なエンターテイナーっぷりで場内を大きく沸かせた。

 上原子の妖しいカッティングで始まった「トーキョー・ロンリー・サムライマン」。昭和のメロディを道連れにしたところで、2番から響いた激シブの低い声と共に登場したるは山本譲二。そのオーラを前にただただひれ伏すしかない。そして、「泣く子も黙るヒット曲を」ということで贈られた国民的大ヒット曲「みちのくひとり旅」。怒髪天の演奏で歌われる同曲の貴重な光景に会場全体が酔いしれる。イントロのフレーズにハードロックを感じ、アマチュア時代にコピーしていたという上原子といい、先ほどまではロックでファンクなグルーヴを紡いでいたアンサンブルも、どっしりと重心を低くした坂詰克彦(Dr)のリズムを軸に和のこぶしを支えていく。“R&E(リズム&演歌)”を掲げる怒髪天の真骨頂である。

 ビッグなゲストの余韻を良くも悪くも残さず通常のライブモードに切り替えられるのも怒髪天というバンドの恐ろしさだろう。「GREAT NUMBER」「ドリーム・バイキング・ロック」とアッパーな楽曲をたたみかけていく。

怒髪天ライブ写真(撮影=西槇太一)

 クージーこと、クジヒロコ(Key/サポート)が奏でる聴き覚えのあるシンセのフレーズ。「もしや?」の予感的中、渡辺美里が登場した。届けられたのはもちろん、大ヒット曲「My Revolution」。声量たっぷりに広がる美声に圧倒される。増子と上原子と坂詰と同い歳の渡辺。「みさっちゃーん」「ずみちゃーん」と増子との息もぴったりだ。そして原曲キーのまま、歌い継いだ増子。まさかと思いつつもそのままサビまで歌い切った。増子のボーカル力、恐るべし。さらに「令和のデュエットソングNo.1にしたい」と、怒髪天と一緒に作った「ハートに火をつけて 〜シーズン2〜」を歌い上げ、渡辺は会場を見回しながら、「ファンはアーティストの鑑」と怒髪天のファンを讃えてステージを降りた。

「札幌で40年前に結成して。バンドとしてもそう、人間としてもそう、いろんなものが欠けっぱなしの状態で歩いてきた。いつのまにか欠けてる部分を埋めてくれるみんなと、仲間たちと出会って、つるっとしたというか、坂さんはコロッとしたというか。本当に幸せなバンド人生だったと思っています」

 増子が改めて40周年への感謝を述べると「欠けたパーツの唄」を披露した。

怒髪天ライブ写真(撮影=西槇太一)

 そうしたバンドの軌跡を誰もが感慨深く思っていたところでフラッと登場した、青ジャケットに白スラックス、赤ネクタイという横山やすしルックの男、そうTOSHI-LOW(BRAHMAN/OAU)である。2009年の25周年『オールスター男呼唄 秋の大感謝祭 -愛されたくて…四半世紀-』の際にも同じ出立ちだったが、まだ喋らない硬派なキャラだったために誰だったかわからないという顛末のリベンジである。これには増子も思わず「やってくれたな」の苦笑い。「同じ歌なのに長く続けていると風景と心情が変わってきて……」と口を開いたTOSHI-LOW。都会に疲れて孤独だった20代、家族や新しい仲間もできたけど、やはり孤独だった25周年の30代。そして、来年50歳を迎える40代最後の今、「去年いなくなったあの人も杉並に住んでたな。治療は孤独だったでしょう。でも今雲の上から“泣きごとなんか言ってんなよ、もうちょっと頑張れよ”、そんな声が聞こえてくる気がして……怒髪天、50年、60年まで元気でいてください」そう想いの丈を語ると手にしたアイリッシュ・ブズーキで、「杉並浮浪雲」を弾き語りはじめた。哀愁と愛情に満ち溢れたそのアレンジとその歌声に、歌い終わったあと上原子は思わず「OAUでカバーしてくれないかな」と口にしていた。

 ここで思わぬアクシデント。「杉並浮浪雲」をTOSHI-LOWとともに熱唱した増子が体調不良を訴え、ステージを降りる事態となった。急遽、3人によるMC。「身長が2cm縮んだ」という坂詰の着地点のない話など、他愛のないやり取りをしていったところで、山中さわお(the pillows)に手を取られ、増子が再登場。「俺だけ登場が地味になってない?」という山中とともに歌うは「雪割り桜」。40年のうち38年を一緒に過ごしてきた同郷の盟友と大いに歌った。〈冬の時代に 俺達は咲いた花〉渾身の大合唱が会場にこだました。

 再びステージから消えた増子。数分後に戻ってくるが、ゲストは全員登場したということで、残り数曲を残すも大事をとって本日は終演とアナウンス。「すまん、明日は必ず!」と頭を下げる増子を笑顔で見守るゲストとオーディエンス。突如訪れた思わぬ終演とはいえ、濃密で貴重なものを存分に見せてくれた。来場者は皆大満足で帰路についたことはいうまでもあるまい。

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