バナナマン扮する「赤えんぴつ」の“セックス&バイオレンス”的な無二の音楽性 必聴5曲を解説
バナナマンがコント内で扮するフォークデュオ・赤えんぴつによるライブ『赤えんぴつ in 武道館』が2月9日、10日に迫っている。
9日は赤えんぴつ初の単独公演、10日は「赤えんぴつ+α」と題してバナナマンにゆかりのあるゲストのchelmico、トータス松本、乃木坂46、三浦大知が出演。見切れ・注釈付き指定席、立見チケットが発売されるほどで、両日のライブ配信も決定している。
赤えんぴつin武道館
見切れ・注釈付き指定席および
立見チケット本日より販売開始!※先着受付となります。
※演出・自席によっては、ステージの全体、一部演出や出演者、映像が見えない、見えづらい楽曲が発生する可能性がございます。ご了承いただける方のみ、お申込みをお願いします。… pic.twitter.com/a5S1uVO7wG— STELLA CASTING (@stellacasting) February 4, 2024
バナナマンの過去の単独ライブ、つまりは赤えんぴつのコント映像はNetflix(2月24日に配信終了)、楽曲音源はApple MusicおよびiTunes Storeにて配信されており、ライブに向けての予習/復習はそれらを楽しむことを強く推奨するが、『バナナマンのバナナムーンGOLD』(TBSラジオ)で設楽統と日村勇紀が、予備知識なしで武道館ライブに足を運んだ人が赤えんぴつに面食らってしまったらどうしようと懸念しているのも事実。『バナナムーン』では、「赤坂リクエスト大会」と題して毎週赤えんぴつの楽曲をオンエアしてきた。そこで本稿では、赤えんぴつとはどういったユニットなのかを解説するとともに、現在配信されている27曲のなかから武道館に向けて聴いてほしい厳選5曲を紹介していきたい。
赤えんぴつは官能的で暴力的、だけど甘酸っぱい
赤えんぴつとは、おーちゃん(設楽)、ひーとん(日村)によるフォークデュオ。バナナマンのライブにはほぼ毎回登場している、前身となるコントスタイルを含めて20年以上の歴史のあるユニットだ。メインボーカルをおーちゃん、コーラスとギターをひーとんが担当。MCの途中でふたりが大喧嘩をしてしまい、ライブが続行不可能になるが、そこから無事仲直りをして、次の曲に入る――というのが、ひとつのお決まりとなっている。
武道館公演のグッズTシャツにプリントされているのは、おーちゃんがひーとんにジャンピングニーを食らわせている瞬間。ほかにもひーとんのタンクトップをおーちゃんがビリビリに引きちぎったりと、その様子を公式ではしばしば“猟奇的”と表現しているが、筆者としては赤えんぴつを一言で喩えるならば、“セックス&バイオレンス”がぴったりだと感じている。これは現在放送中の大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)の脚本・大石静が制作発表の会見でドラマをキャッチーに喩えた際の言葉であるが、官能的かつ暴力的なステージング、そしてリリックはまさにおーちゃん、ひいては赤えんぴつそのもの。ふたりは南こうせつを代表とする“四畳半フォーク”を目指していると語っており、初期には物悲しいメロディが多かった一方で、年々ライブを重ねていく毎に、甘酸っぱく、ストーリー性の強い楽曲も増えていった。プロでは考えつかない楽曲構成は、後述する唯一の楽曲提供者である森山直太朗、東京ドーム公演で赤えんぴつが「一流ミュージシャンの方たちからのメッセージ」としてVTR挨拶を送っている星野源など、多くのミュージシャンから赤えんぴつが称賛される要素のひとつである。
①「ディーダダ」
武道館公演の告知映像にも使用されている、赤えんぴつの初期を代表する一曲。フォークソングとはまた違った昭和のエレキブーム、ムード歌謡が影響にあると設楽はラジオのなかで語っている。「よく作ったなと思う」と設楽が自画自賛しているように、2分弱の時間を一気に駆け抜けるテンポ感、おーちゃんとひーとんの掛け合いが小気味良い。ドスの利いたおーちゃんのボーカルに対して、ひーとんは高めの声で男女の恋愛をより強く想起させる。「ディーダダ」とはおーちゃん曰く、なんでもない造語で、聴き手がそれぞれ持っている“ディーダダ”を歌詞に当てはめられるようになっているとのこと。なお、武道館両日には、従来のデュオ編成に加え、サイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)をバンドマスターに迎えた、赤えんぴつバンドでの楽曲披露も予定されており、「ディーダダ」はエレキギターでのカッティングが似合う、バンドアレンジで聴きたい楽曲だ。
②「誕生花」
赤えんぴつの中期を代表する名曲。Netflixでの配信に伴い、YouTubeチャンネルに公開されたのが「誕生花」のライブ映像だった。特筆すべきは、3分近くにやってくるサビへの転調。海の家のアルバイトで出会ったフランス人とのクォーターの女の子との恋愛を、少しずつ変化していくおーちゃんの節回しや〈花は折りたし 梢は高し〉といった耳馴染みの良い歌詞で伝えながら、そこまで一貫して同じメロディの繰り返し。じりじりと引きつけておいてサビに入るのが、主人公が失恋を確信した瞬間というのも心憎い。〈春の花ハナミズキ 夏の花アサガオ 一緒には咲けないのかな〉という発想も見事。ブレイク後、ひーとんが頼りなく歌い始める〈海の家のアルバイト 僕もいたんだよ〉というフレーズの小粋なオチまで楽曲としてしっかりと完成している。なお、歌詞に出てくるハナミズキとワスレナグサは、それぞれ設楽と日村の誕生花のひとつだ。