ゆうさり「私の音楽は“わかりやすさ”とは別の場所にある」 独自の美意識を形成した音楽遍歴を辿る
「ゆうさり」とは「夕方になること」あるいは「夕方」を意味する言葉である。その繊細でノスタルジックなイメージは確かに、(それが由来かは定かではないが)その名をアーティストネームに冠した2002年生まれ、埼玉在住のアーティスト・新川莉子によるソロプロジェクト「ゆうさり」の生み出す音楽にもしっくりくる。
ゆうさりの音楽は、お守りのような音楽である。握りしめたら大切な記憶を思い出したり、心がじんわりと切なく温かくなるような効能を持っている。訴えるのではなく、存在そのものが「大丈夫」と伝えているような音楽である。その音世界は部屋でひとりで聴くのも似合うが、むしろ散歩をしたり、移動をしたり、これから何か行動を起こそうというときに聴くのも似合うと思う。この音楽を握りしめれば、少なからず勇気のようなものが沸いてくるのを感じるからだ。それは彼女の音楽が、根底にアンビエントやフォークやドリームポップだけでなく、ロックも内包していることにも起因しているのかもしれない。聴き手を閉じ込めるのではなく、聴き手が少しでも動き出そうとする時にそっと手を添えて体温を伝えてくれる、そんな優しい力強さが、ゆうさりの音楽にはある。
そんなゆうさりに、音楽を始めたきっかけやルーツ、盟友・幽体コミュニケーションズとの関係、そして新作ミニアルバム『ほとり』についてなど、じっくりと話を聞いた。彼女の静やかな語り口の奥から、強い意志やパワフルなものを感じ取ってもらえるはずだ。(天野史彬)
ひとりで組み立てた景色を、人の頭にガポッと丸ごと被せたい
――ゆうさりさんはどのような経緯で音楽を始められたんですか?
ゆうさり:私は今21歳なんですけど、中学生の頃に鉄弦のアコースティックギターの初心者セットみたいなものを買ってもらって、最初は好きなバンドのコードを見ながら弾くところから始めました。それから高校に入って軽音部でベースをやって。高校は辞めちゃったんですけど、そのあとも周りの人とバンドを組んだりやめたりを繰り返していました(笑)。そのあと2020年に通信の大学に入ったんですけど、ちょうどコロナが重なってしまって。その頃から、宅録で音楽を作っている人たちのことが好きになり始めました。私自身「ひとりで音楽を完成させられるようになりたい」と思い始めた頃に、宅録でやっている人たちの存在を知って。
――「ひとりで完成させたい」という欲求は、どのように芽生えたものだったんですか?
ゆうさり:自分はコミュニケーションに難があるなと思ったし、バンドをやっていても「もっとここにこういう音が欲しい」というものがどんどん見えるようになってきて。でも、それを対人に求めてしまうのは違うだろう、と思ったんです。あと、あまり面白くなかったんです、当時やっていたバンドが(笑)。
――(笑)。
ゆうさり:今バンドでやるのは面白いんですけど。当時は肉体も心も疲れるし、「もういいや、バンドは」と思っちゃって。その頃にPredawnや君島大空、青葉市子、折坂悠太という人たちの作品に出会い、その人たちのインタビューを読み漁って「そういうことか!」と納得したりして。ひとりで組み立てた景色を、人の頭にガポッと丸ごと被せたい。そういうビジョンが自分の中に生まれきたんです。それで「私もひとりでやろう」と思って、最初にSoundCloudに「汽水」という曲をアップしました。それが2021年ですね。で、2022年に『由来』というミニアルバムを出して、その頃からライブも始めました。
――「ひとりで組み立てた景色を人の頭にガポッと被せる」というのは、素敵な表現ですね。
ゆうさり:そういうものができればいいっていうイメージがずっとあるんですよね(笑)。
――そもそも、音楽を好きになったのはどのようなきっかけがあったんですか?
ゆうさり:小学3年生の頃にRADWIMPSを好きになって、ずっと「ベースを弾きたい」と思っていたんです。その気持ちは段々忘れて、「ギターを弾きたい」に変わったんですけど(笑)。その後はSEKAI NO OWARIを好きになったり、VOCALOIDをずっと聴いていたり。それが小学生の頃ですね。中学に入ると残響レコードの人たちを好きになって、the cabs、cinema staff、People in the Box、あとはその周辺でTHE NOVERMBERSとか、そういうバンドにハマりました。
その中で、the cabsのライブSEがharuka nakamuraさんの曲だったんです。当時はライブに行ったことはなくて、the cabsが解散した後にインターネットで調べていて知った情報なんですけど、それがきっかけでアンビエントにも興味が向いていきました。アンビエント、というには楽器が立っているような音楽というか。それでKITCHEN.labelやFLAUというレーベルからリリースされている曲を探して聴くようになり、その頃からバンドの音楽と、haruka nakamuraさんやCuusheさんのようなアンビエントやニューエイジ的な音楽を並行して聴くようになりました。