君島大空が持つ、世界に誇るべき才能 『週刊少年ジャンプ』編集部 高野健が合奏形態ライブの衝撃を振り返る
2023年1月23日の月曜日。横浜は寒空の下、君島大空の衝撃のライブが終わった直後に、私は『ONE PIECE FILM RED』で出来た縁でフジパシフィックミュージックの知人にメッセージを送っていた。「何か君島大空さんについて書かせて欲しいです、このアーティストをいま世に紹介せずにはいられません!」と。
遡ること数年前、音楽業界ではすでに君島大空という存在は話題になっていて、私も音楽通の友人から「遠視のコントラルト」を教えてもらって彼の音楽を聴くようになった。その後、ネット中で彼の痕跡を探し(それこそ「SoundCloud」まで漁った)、彼のライブに赴き、もっと魅力を知りたい、もっと魅力を広めたいと週刊少年ジャンプ誌内の音楽情報ページ「ROCK THE JUMP」でもインタビューしたこともあった。
そんな彼が新譜のリリースに合わせ合奏形態でライブをするというではないか。行かない手はない。私はライブを観に向かうことにした。
演奏がはじまる。最初は彼の独唱だ。繊細、というのを音に表すと彼の声になるだろう。ただ、か細いようで力強い叫びのようにも聴こえるのが彼の歌の特徴だ。美しいソロが終わると、バンドイン。いそいそと演奏隊が出てきて持ち場に着く。合奏形態の最初の曲目は「装置」、そして「笑止」へと続いた。演奏が始まるや否や、おそらく会場にいた誰しもが同じことを考えていたであろう。
「音源超えてね?」
抑えられたdBでは彼の音楽は語れない。時間が歪むような音圧に、サラウンドで空間を支配する一つひとつの音たち。あまりの完成度の高さに驚きを隠せない。血湧き、肉躍るとはまさにこのことか! 彼の音楽を前に全身が突如として臨戦体制に入った。
君島大空は時空を操る魔術師である。ミッキーなのかあなたは。彼の曲は逆再生や早送りといった、時間の表現が多い。また光を感じさせるような音色や展開、多様で技巧派のコードワークには、どこかこの世にはない浮遊感を覚える。
一言で言えば、「映像喚起能力」が非常に高いのだ。彼が夕暮れといえばその場は夕暮れになるし、彼が光の果てといえば光の果てになる。そんな微妙な感覚を、この空間の音楽は忠実に表していた。
それにしても、通常、このバンドの完成度の高さは、同期演奏(テンポクリックを聞きながら演奏することで、曲のSEや演出を音源通り行えること)でしかなし得ないと思っていた。が、どうやら違う。サンプラーやルーパーだらけの舞台では明らかに予定調和のテンポ通りではない演奏が待つ。突然動いたり止まったり、そんな脈動する音楽に合わせてくる圧倒的な演奏陣。なんだこれ?