Nujabes×渡辺信一郎『サムライチャンプルー』の革新性を再考 日本の音楽を世界に知らしめた影響力

Lofi Hip Hopへの多大な影響

 そんな本作の音楽を担当したのは、Tsutchie、fat jon、Nujabes、FORCE OF NATUREの4人。それぞれ、日米のヒップホップシーンで活躍する存在だが、中でも中心的な役割を果たしたのがNujabesで、オープニング楽曲「battlecry」をはじめ、多くの劇中曲を提供している。このNujabesは、近年世界的ブームとなっている「Lofi Hip Hop」に多大な影響を与えた存在として認知されており、彼の名が世界に轟くきっかけを作ったのがこの『サムライチャンプルー』だと言われている。

 Lofi Hip Hopは、2018年にSpotifyで急成長したジャンル2位となるなど、2010年代に急拡大した。特定の音楽ジャンルとして定義できるか微妙なところだが、その特徴はスローテンポでメロウな曲調で、いわゆる「作業用」のBGMとしてネットで支持されることが多い。

 Nujabesは、このLofi Hip Hopの起源の一人だとされており、海の向こうでは数多くのアーティストに支持される存在だ。『サムライチャンプルー』のサウンドトラックで聴ける楽曲も、確かにノスタルジックさとメロディアスなものが多く、Lofi Hip Hopの特徴を多分に含んでいる。そのノスタルジックさとクールな作画で時代劇が幸福な融合を果たしていることが、このアニメの特筆すべき点だろう。

 Lofi Hip Hopは、アニメ風のイメージイラストや動画と一緒に紹介されることが多い。最も有名なのは、スタジオジブリの『耳をすませば』にインスパイアされたと思われる「Lofi Girl」だろう。夜中にヘッドフォンをつけながら勉強している少女は、このジャンルのアイコンのようになっている。

lofi hip hop radio 📚 - beats to relax/study to

 ジブリ風のイメージの他、新海誠風のイメージが用いられることもあり、どうもそれはこのLofi Hip Hopを聴いている時に得られるエモーションが、それらのアニメを観た時のものに近いと感じられているからのようだ。Lofi Hip Hopは総じて、情緒的な雰囲気を重視し、今の日本語でいうと「エモい」とか「チルい」みたいな感覚があるのだが、それが日本のアニメ映像を観る時の感覚と結び付けられているらしい。そういう結びつきも、起源の一人であるNujabesがアニメをきっかけに知られるようになったことも関係しているだろう。

 世界の音楽シーンに新たな潮流の登場に多大な貢献をした作品という点でも、『サムライチャンプルー』は特筆すべき作品なのだが、海外と比較して日本ではまだ充分にそのことが評価されていないように思える。

 放送20周年の今年は、本作をその楽曲とともに再評価するまとない機会だろう。これはただのカルトアニメではなく、新たな文化を先導した「非常に濃いアニメ」であり、その楽曲は「非常に濃いアニソン」なのだ。

 

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