石原夏織、栁舘周平と語り合う「Gift」制作の裏側 互いの印象から曲に込めた思いまで
昨年アーティストデビュー5周年を迎えた石原夏織が、2024年最初の楽曲となる「Gift」を配信リリース。同曲はアニメ『愚かな天使は悪魔と踊る』エンディングテーマで、作詞:栁舘周平・稲葉エミ、作曲:栁舘周平、編曲:奈良悠樹という布陣で制作された。栁舘周平は、石原の「Starcast」をはじめ、水瀬いのりの「スクラップアート」や「クリスタライズ」、DIALOGUE+「ぼくらのユニバース」など手がける気鋭のクリエイター。壮大なサウンドをバックにドラマチックに展開する楽曲は、聴く者を魔法にかけるような輝きと切なさに満ちあふれている。
石原の「Gift」は、石原たっての希望で栁舘との再タッグが叶い、“栁舘節”が存分に発揮されている。今回、石原夏織と栁舘周平のリモート対談が実現。お互いの印象から、「Gift」に栁舘が込めたさまざまな伏線やレコーディング裏話、そして謎多きクリエイター栁舘の楽曲制作の裏側に迫った。(榑林史章)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】
石原夏織は栁舘周平の楽曲のどんなところに惹かれた?
――「Gift」は作詞を栁舘周平さんと稲葉エミさんの共作、作曲は栁舘周平さんです。今回、栁舘さんに楽曲を依頼した経緯を教えてください。
石原:栁舘さんには2021年11月にリリースした7thシングル表題曲「Starcast」を書いていただいたことがあるのですが、大好きな楽曲で、絶対また栁舘さんに曲を書いてほしいと思っていて、今回お声がけさせていただきました。温かくて綺麗で、キラキラした感じの曲を歌いたいと思っていたので、ディレクターさんを通じてそのイメージも伝えていただきました。
栁舘:大変光栄です。今、温かくというお話がありましたけど、僕の中で実際にお会いするまでの石原さんは、寒色系の印象が強かったんです。でも、初めてお話をさせていただいた時に、「Starcast」がすごく好きだと熱く伝えてくださったり、ライブのMCもすごく明るくて、実は暖色系の朗らかな人だとわかりました。それで今回、温かい曲というイメージを聞いて、石原さんのアーティスト性とも一致していると思い、非常に作りやすかったです。
――栁舘さんは、前は石原さんにクールなイメージを持っていたと。
栁舘:はい。ビジュアルとか声のヌケ感のイメージが先行して、クールというか寒色系だと思っていましたが、今はポカポカした方だなって。
石原:実は、初対面の方からは「もっと話しづらい人だと思っていた」と言われることがよくあるんです。人見知りなので、静かにしていると取っつきづらいらしくて(笑)。
――栁舘さんはシンガーとしての石原さんのどんなところに魅力を感じていますか?
栁舘:主人公の感情だけじゃなく、その情景までが見える歌声をしていらっしゃると思っていて。声だけで全部伝わるのは、すごいなって思います。しかもダンス、ルックスなど強力な武器をいくつも持っていて、チームのみんなから愛されている。チームを率いているんだけど、みんなが自発的についていきたくなる人柄で、だからこそ素敵な楽曲がいっぱい生まれているんだなと感じます。
石原:そんな風に見てもらえていて、うれしいです。本当にみんな優しくて、いいチームです。
――石原さんは栁舘さんの楽曲に対して、どんな印象を持っていますか?
石原:「Starcast」はコンペだったんです。どなたが作ったのかわからず「いい曲だな~」と思って選ばせていただいたところ、スタッフさんから栁舘さんが作ったことをうかがって。検索したら水瀬いのりちゃんに提供した曲がたくさん出てきて、それらが前から好きな曲ばかりだったので、「あの曲もそうだったのか!」「すごい方に書いてもらえてうれしい!」と思ったのが、実際にお会いする前の印象でした。
――いろいろ聴いた中で、石原さんが思う栁舘さんの楽曲はどういうイメージですか?
石原:もちろん曲によっていろいろですけど、自分の予想をいい意味で裏切って、心をわしづかみにしてくる印象です。例えば1番、2番、ラスサビで印象がどんどん変わっていって、もちろん盛り上がっていくんですけど、どこかグッと胸をつかまれるような切なさがあって。明るい曲であっても、ギュ~ッと胸を締めつけられて、ちょっと痛いみたいな。でも最終的には感動して、その痛みが忘れられなくなって、ずっと聴いていたいって思うんです。「Gift」も1コーラスを聴かせてもらった段階で、「うわ~。どうしよう。素敵すぎて、この先を聴くのが待ち遠しい!」ってなりました。いざフルサイズを聴いた時は、人って感動すると言葉を失うと言いますけど、まさにこれだなって思いました。拍手が止まらないというか。この曲を、自分が歌えることがすごくうれしかったです。
栁舘:本当にうれしすぎて、今の僕の顔を人に見られたくないです(笑)。
――楽曲を作られた時、何かイメージしたことや考えたことはありますか?
栁舘:第一に石原さんとアニメ『愚かな天使は悪魔と踊る』の、積集合的な部分を見つける作業から始めたのですが、その中で人とのつながりみたいなところに着目しました。アニメは恋愛に傾いたつながりがメインですけど、家族や友人、自分が関わる組織など、普遍的な部分での人とのやりとりがたくさん描かれていて。石原さんご自身も長い音楽キャリアの中で、いろいろな人とのつながりがたくさん生まれたと思います。この曲では結果的に音楽的に変わったこともいっぱいやっていますけど、聴く人みんなの胸に真っ直ぐ伝わる曲になったらいいなとの思いがありました。そもそも発注をいただいた時から、「いわゆるアニメソング然としたものよりも、真っ直ぐいい曲を」というリクエストでしたので、そこに忠実に作りました。
――〈たとえばもしも君のそばにいられるのなら〉という出だしは、まるで語りかけるような印象でしたけど、そこは何か意識されましたか?
栁舘:それは無意識でしたけど、原作を読んだ時の“読後感”が、そのまま表れたのかもしれません。心が温まる感じがあって、それは石原さんのライブを観た帰りに感じた気持ちとも符合します。深部体温が上がる感覚があって、それを両者間に見いだしました。
石原:私も原作を読ませていただいたのですが、序盤はコミカルな描写が多くて、テンポ感がよくて。言い方が合っているかわかりませんが、ギャグっぽい感じもある。それぞれのバックボーンとして、難しかったり悩んでいたり満たされないものがあって、そういうものも描かれながら、主人公の2人が出会うことによって少しずつ変わっていく。そういう心が温かくなる部分も、上手に描かれている作品だなと個人的にすごく感じていました。なので「Gift」の歌詞を読んだ時は、作品の2人のやりとりが感じられたり、でも作品を読んでいない人が聴いたとしてもすごく理解できるというか、「こういう経験って誰でもあるよね」と共有できると思いました。
――歌詞で気になったところはありますか?
石原:これは解釈違いだったら申し訳ないですけど、今はSNSでいいところだけが切り取られていて、それを見て「自分なんて」って自己肯定感が下がっている人が多いと感じていて。そういう人に少しでも自分を好きになってほしい気持ちが、1番の終わりのほうから汲み取れました。すごくいろんな人に、共感してもらえる曲なんじゃないかと思います。メロディも曲もだけど歌詞もすごく好きで、いろんな人の心を温めてくれる、小さな幸せが広がっていく歌詞だなって思いました。
――歌詞は稲葉エミさんとの共作ですが、もともと栁舘さんが歌詞に込めた思いみたいなものは、石原さんが感じたものと相違ないですか?
栁舘:まさしくという感じです。
石原:うれしいです。
――タイトルの「Gift」については?
栁舘:稲葉さんがつけてくださったのですが、ドンピシャで「さすが大先輩だな」と感服いたしました。石原さんのイメージにも当てはまるし、作品とも相性のいいワードチョイスで、理論値みたいな言葉選びだなと思いました。
石原:すごく素敵なタイトルで、気に入っています。この1単語に込められた思いは、すごくいっぱいあると感じます。小さな幸せもそうですけど、私にとってもこの歌詞や楽曲自体が、すごく大きなプレゼントだなと思っていますし、聴いてくださる方にとっても「Gift」になればいいなと思います。