小室哲哉、2023年の活躍を振り返る TM NETWORKの活動、西川貴教らとのコラボで見せた進化の片鱗
去る12月6日にTM NETWORKの新曲「Angie」が発表された。この曲はすでに9月から公開されている映画『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』のクライマックスシーンでも使用されており、この映画と連動したTM NETWORKのツアーでも披露されてきた。それでも“TM NETWORKの新曲”を期待して聴いたリスナーは度肝を抜かれたのではないだろうか。
抒情的なピアノの演奏でスタートし、徐々に壮大なスケールのストリングスや合唱が加わって盛り上がるドラマティックなナンバーは、映画の登場人物の名前を冠し、サウンドトラックとして機能している楽曲とはいえ、一般的な彼らのイメージを遥かに超えたものだ。純粋な歌モノではないし、もはやバンドのフォーマットすら逸脱している。しかし、例年以上に精力的な活動を行ってきたTM NETWORKとその首謀者たる小室哲哉にとって、「Angie」で2023年を締めくくるのは大きな意味があるはずだ。少しでもこの謎を紐解くために、この一年を振り返ってみたい。
TM NETWORKが6年ぶりに再始動を発表したのは2021年秋。ちょうどコロナ禍ということもあり、無観客配信ライブやYouTubeチャンネルの開設などから始まり、ライブアルバムや映像作品のリリースなどを経て2022年には7年ぶりのツアーも行った。そして2023年に入ると、『劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェルダスト)』のプロジェクトがスタートする。この映画は今年の彼らの活動にとって非常に大きな意味を持つ。
というのも、エンディングテーマの「Get Wild」を除き、新たにオープニングテーマの「Whatever Comes」を書き下ろし、挿入歌として「DEVOTION」、「君の空を見ている」、そして「Angie」が使用されているからだ。もはや「Get Wild」は『シティーハンター』シリーズの代名詞とでも言うべき存在の楽曲であるとはいえ、今回ほどストーリーと音楽が密接にコラボレートするのは初めてだ。長い時間をかけて台本を読み込んだ小室哲哉は、限られた時間の中で一音一音丁寧にこれらの楽曲を制作。映画の内容と小室哲哉の世界観が完全にリンクしているのである。ご覧になった方なら納得いくことだろう。
この蜜月関係は映画の中だけではない。映画で使用された楽曲は「Angie」を除いて、6月リリースの9年ぶり新作『DEVOTION』、そして9月リリースの最新シングル「Whatever Comes」に収められることになった。さらには9月7日からスタートしたツアーは、完全に『シティーハンター』の舞台である新宿の世界観をステージセットで表現すると同時に、映画で使用された楽曲がセットリストの核になっていた。
ちなみにTM NETWORKが一つの“街”をコンセプトにしたツアーは初のこと。ツアーが始まると同時に大きな話題となったステージにおける表現には圧倒的な迫力があり、小室哲哉が目指していたメディアミックスの集大成でもあった。しかもこれだけのスケールの大きなステージを、サポートメンバーを入れず3人だけの演奏にこだわり、11月30日の最終日まで16公演をやり切ったのである。TM NETWORKの活動において、この一連の流れは大きなエポックだったのではないだろうか。