リアルサウンド連載「From Editors」第36回:『ブラッシュアップライフ』を一気観したら痛快すぎた
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
あの時に戻れたら症候群の渦中で『ブラッシュアップライフ』を一気観した
あの時に戻れたら、と思うことがある。これまでの人生で何度も思ったことがあるが、現在進行形で私はすごく思っている。
で、最近Huluで『ブラッシュアップライフ』を一気観した。めちゃくちゃに面白かった。一瞬もつまらない時間のないドラマはとても久々だったし、人生1周目で配信サービスのある時代に生まれ、この作品に出会えてよかったと思えた。
1話で、近藤麻美ことあーちん(安藤サクラ)が33歳で交通事故で死んでしまい、来世に繋がる受付係(バカリズム)の案内で、死後はグアテマラ共和国のオオアリクイになることを告げられる。その後、人間として再び生まれ変わるために、もう一度近藤麻美の人生をやり直すことを選択し、そのやり直しのなかで徳を積んで、ブラッシュアップして生涯の軌道を変更していく、というストーリーだ。
最初は自分が再び人間として生まれ変わるために、さまざまなかたちで徳を積む努力をするあーちんが、最終的に人のために人生をやり直す姿には、ある意味では『時をかける少女』に似た要素もある。個人的な世代としては2006年公開の細田守監督のアニメ映画版『時をかける少女』世代なのでそれに置き換えてみると、最初は自分のためにタイムリープを繰り返していた真琴が、最終的に好きな人のために時を戻すことを選ぶ。それと少し似ている部分があった(そして『時をかける少女』も観てしまった)。
だが、『時をかける少女』とは少し違って、『ブラッシュアップライフ』には主人公を取り巻く環境に恋愛要素があまりない。『ブラッシュアップライフ』の主人公・あーちんに関して言えば、元カレ・田邊勝(松坂桃李)も登場するし、友人らに降り注ぐ不倫という災難を回避するために働くこともあるが、最終的なテーマでもある「なぜ何度も人生をブラッシュアップするのか?」という部分に恋愛は関係しない。自分のために、徳を積むために、他人のために生きる。目的が実は最初から一切ブレていないのがすごいところだし、それを一切揺らすことなくエバーグリーンなストーリーとして最終話まで物語を紡いだ脚本家・バカリズムも本当にすごいと思った。
あの時に戻れたら症候群を発症している渦中(自分の話はあまりにも長いので割愛するが)で観た『ブラッシュアップライフ』はすごく痛快で、「あの時に戻れたらなあ」とここ最近ずっと思っていた自分がバカバカしく思えて、これまでしてしまった自分のミスや誤った選択も「まだ人生1周目だから!」と開き直る勇気も貰える。
Netflixでの配信もスタートして、年末年始には地上波で一挙放送も決まっているので、ぜひ未聴の人にも、すでに観た人にも、なんらかの形で2023年の締め括りに観てほしいです。
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