稲垣吾郎、40代最後の一年で迎えた集大成 『幽☆遊☆白書』から始まる新たな表現への期待
12月8日に誕生日を迎えた稲垣吾郎。50歳という大きな節目を迎えたとは信じられないくらい、その佇まいは変わらない。ずっと私たちが親しみを込めて「吾郎ちゃん」「吾郎さん」と呼び続けてきた印象のままだ。
もちろん髭をたくわえたときなどは、年相応の色っぽさや渋みを感じられる。ワイン、読書、映画、音楽、ゴルフ、カメラ、花……と、長い時間をかけてじっくりと趣味と歩みを共にする姿勢は、大人の男性としての落ち着きや余裕を漂わせる。決して、無理に若々しくいようとしているわけではない。なのに、「変わらない」と言われ続けているのは、きっと彼自身が“稲垣吾郎”というパブリックイメージを磨き続けてきた結果だ。「稲垣吾郎ならこんなふうに年を重ねる」「稲垣吾郎ならこんな一面があってもいい」――私たちが期待している“稲垣吾郎”を見せてくれる、生粋のエンターテイナーとも言えるのではないか。
そして2023年、彼にとって40代最後の一年を振り返ると、“稲垣吾郎”として積み上げてきたものの集大成を迎えたタイミングだったように思う。そう言いたくなったのは、今年上演した2つの主演舞台作品によるところが大きい。ひとつは、コロナ禍により上演中止を余儀なくされていた舞台『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男-』の再演だ。
世のなかが大きく変化を遂げたフランス革命前後のパリを舞台に、稲垣は死刑執行人・サンソンを好演した。どんなに忌むべき仕事だと後ろ指を刺されようとも、他に代わりになる人はいないのだと誇りを持って仕事を全うする。生まれながらに背負った宿命だと心を決めて、自分を律するサンソンの姿に、稲垣自身のプロ意識が滲むようだった。
この作品を、他ならぬ稲垣自身が発信して形になったという点が非常に興味深い。稲垣がサンソンの存在を知ったのは、自らがMCを務めていた読書バラエティ番組『ゴロウ・デラックス』(TBS系)で漫画家の坂本眞一をゲストに迎え、サンソンを主人公にした漫画『イノサン』を手に取ったことから。歴史のなかに埋もれているサンソンという人物に光を当てられないかと思った稲垣は、ベートーヴェンの生涯を描いた舞台『No.9 -不滅の旋律-』で共に舞台を作り上げた熊谷信也プロデューサーや演出家の白井晃に話を持ち込んだのだという。
テレビの仕事を通じて得た刺激を、自ら主演を務めた舞台のチームと相談し、そして新たな作品を作り出す。そんなこれまでにない流れができたのは、稲垣自身のキャリアが成熟した証。エンターテインメントは、一期一会の仕事になりがちだ。だが、そのなかでもこうして次なる作品の種を見出し、丁寧に育て、花を咲かせることは可能だということ。なんだか、花好きが高じて今年の4月から『趣味の園芸「稲垣吾郎 グリーンサムへの12か月」』(Eテレ)を担当するようになったこととも繋がっているようだ。
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そして、もうひとつの舞台作品は、稲垣がカメラマンを演じた『多重露光』。古いフィルムカメラを愛用し、少々「めんどくさい人」と言われてしまいそうな主人公・純九郎は、作家の横山拓也によって当て書きされた部分も多いのではと思ってしまうキャラクターだった。その点については、稲垣も「多少あると思いますよ」とインタビューで答えてくれていた。
また、横山はパブリックイメージに加えて、ラジオ『THE TRAD』(TOKYO FM)で見せる素顔や、映画『半世界』などで見せてきた稲垣の持つ人間臭い一面を再発見できたと、稲垣に話していたそうだ。考えてみれば、私たちが持つ“稲垣吾郎”というイメージには、一見すると相反するものが共存している気がする。朝からベッドメイクをし、部屋には美しい花を飾り、外出時には日傘は欠かさない……といったマイルールを徹底するどこか浮世離れした印象もありながら、番組スタッフのバラエティ的な無茶振りにイライラしてみせながらも最終的に期待に応えていくお茶目でサービス精神旺盛なところも。
そして、そのイメージが確立されるほど、作り上げられた虚構と現実とのあいだに誰にも見せない顔もあるのではないかと無粋ながら想像力が掻き立てられていく。そして、そんな稲垣自身が決して見せようとはしない“稲垣吾郎の影”なる部分が、映画や舞台で演じるキャラクターで垣間見えるのではないかと胸がざわめく。