SHE'S、オーディエンスと作り上げた空間 バンドの今のムード反映した『Shepherd』ツアー
SHE'Sのアルバム『Shepherd』に伴う全国ライブハウスツアーは6〜7月の本ツアーと10〜12月の追加公演という形で実施されたが、デビュー7周年の今、再びバンドがバンドらしい衝動を今のスキルで表現していることを体感させてくれた。ここでは追加公演5本目、Zepp Haneda(TOKYO)公演をレポートする。
端的に言って、今回ほどオーディエンスとともに空間を作り上げるライブはなかった。静かに聴き入る場面もあったが、大半の記憶は多幸感と躍動感にあふれるクラップとシンガロングが占めている。加えて本編20曲90分の体感速度の速さ。冗長な部分がないうえに一曲演奏されるたびに、さらに次の曲への渇望が募るセットリストの流れのよさが際立っていた。
『Shepherd』のオーバーチュアであるインスト「Dreamed (inst.)」でメンバーがステージに現れ、井上竜馬(Vo/Key)のピアノリフのイントロで始まる「Super Bloom」から早くもクラップが起こり、服部栞汰(Gt)のブライアン・メイばりのギターソロが響く。まるでファンファーレのようなオープナーだ。さらにクラップがボリュームアップした「Boat on a Lake」、そのままの勢いで離陸感のある「追い風」に繋いだのも憎い。サポートメンバーである永田コーセー(Sax)のブロウも空気を切って浮揚するイメージ。初期のナンバー「Back To Kid」にサックスを加えた新しいアレンジに嬉しい驚きが溢れる。さらにシンセサウンドがバウンシーなポップチューン「Castle Town」まで一気に披露。曲のテイストの違いをまったく意識させないスムーズさに唸る。
服部が「みんなもう歌っていいんですよ? 歌って最高の思い出作って帰ってください」と呼びかけたその後、木村雅人(Dr)の力強いキックとフロアタムの音に歓声が上がったのは、久々にセットリストに入った「Upside Down」だった。歌詞に出てくる“新しい壁”は井上にとっては当たり前のように曲作りやバンド活動、音楽を作り続けるなかで何度も立ちはだかるのだろう。でもそれは今では音楽を作る上で当たり前のことで、上がり下がりすら楽しむタフさを感じるのだ。そしてストリングスのSE以上に永田のサックスが今のバンドアレンジ面で存在感を強めた「Over You」。スリリングなファンクチューン「Ugly」が、余裕を持って艶っぽさすら感じるプレイで展開していたことにも驚かされた。最低限の手数でフックを生み出す広瀬臣吾(Ba)のベースライン、この曲でブロウしなくてどうする? と言わんばかりの永田のプレイも冴え渡る。演奏が楽しくて仕方ないステージと、そこにエネルギーを送るフロアの幸福な関係を見た。