連載「lit!」第78回:タイラ、リル・ウージー・ヴァート……直近の新曲から拾い上げる2023年注目トピック

 2023年も残すところあと1カ月となり、そろそろこの大激動の1年を総括するタイミングが近づいている。今回は総括への布石として、これまでの連載で十分に取り上げきれなかった注目のトピックを直近の新曲とともに振り返りたい。

 近年、アフリカ大陸の若手アーティストの活躍が著しい。特にナイジェリアのアーティスト関連だと、テムズがドレイクとともにフューチャーの「Wait for U」に参加して全米1位を獲得したり、レマとセレーナ・ゴメスのコラボ曲「Calm Down」が驚異的なロングヒットとなっていたり、バーナ・ボーイの最新アルバム『I Told Them…』がアフリカ出身のアーティストとして初めて全英チャートを制覇したりと、確実に存在感を高めている。これらのアフロビーツ勢の動きと共振するように、南アフリカ共和国で発展したアマピアノと呼ばれるハウスミュージックのサブジャンルが世界的に大きな注目を集めている。中でも特に熱い視線を集めているのが現在21歳の新星、タイラだ。

Tyla - Water (Official Music Video)

 低いBPMと四つ打ちにとらわれないリズムというアマピアノの特徴を取り入れた「Water」は、“南アフリカのアリアナ・グランデ”とも称されるタイラの透き通った美声とベースラインが官能的に絡み合うような楽曲。コーラスでの合唱も耳に残るパーティーソングだ。「Water」はTikTokでのダンスチャレンジを中心にバイラルヒットを記録し、現在では全米チャートでトップ10にランクインするという、南アフリカ出身のアーティストとしては55年ぶりの快挙を成し遂げるまでに至った。タイラはメジャー・レイザーやサマー・ウォーカーなどのプロジェクトにも参加し、11月にはトラヴィス・スコットとマシュメロを招いた「Water」のリミックスを同時公開するなど、まさに国境を越えた大活躍を見せている。2023年におけるアフリカ発のアーティストたちの勢いや豊かさを示す象徴的な1曲だ。

 英国のバンド、Bring Me The Horizon(以下BMTH)がラインナップを主導した音楽フェス『NEX_FEST 2023』が11月3日、幕張メッセで開催された。同フェスは日米英のラウドロックやメタルコアといったヘヴィミュージックの新世代アクトからYOASOBIといったポップアクトまで巻き込んだ先進的なラインナップで、2023年の国内フェスシーンを語る上でも欠かせないイベントとなった。メタルという音楽が指す懐の広さを示したイベントとなったが、メタル周辺の音楽が他ジャンルと接続し、ポップシーンでもそのサウンドが大々的にフィーチャーされる中でも代表的なのがリル・ウージー・ヴァートの『Pink Tape』だろう。本作には同フェスに出演したBMTH、BABYMETAL、PaleduskのDAIDAIが参加し、2010年代に隆盛を極めたトラップミュージックがメタルサウンドを取り入れるという新たな流れを予感させた(それに先んじた『Rolling Loud』でヘッドライナーを務めたプレイボーイ・カーティによるビートをメタル的なエレキギターに置き換えたパフォーマンスも忘れてはならない)。

Lil Uzi Vert - Werewolf (Feat. Bring Me The Horizon) [Official Visualizer]
Lil Uzi Vert - The End (Feat. BABYMETAL) [Official Audio]
PLAYBOI CARTI LIVE @ Rolling Loud Cali 2023 [FULL SET]

 英国のソロアーティスト、ヤングブラッドがBMTHのオリヴァー・サイクスと3年ぶりのコラボ曲「Happier」をリリースした。フレッシュでパワフルなサウンドはエレクトロにも接近しつつ、オリヴァーがかつて熱中していたというエモの要素も感じさせるような楽曲。ヤングブラッドの歌唱はどこか物憂げだが、それを振り払うようなサビの展開は痛快だ。

 ヤングブラッドは上述した『NEX_FEST 2023』と自身の単独公演のために11月に来日。本楽曲のMVは今回の来日時にオリヴァーと東京で撮影したもので、新宿の街並みや東京タワーにカラオケやゲームセンターといった日本の要素が映し出されている。理解しがたい存在や理想化した他者としての日本ではなく、東京のある種の不気味さも表現されているのがポイントだろう。

YUNGBLUD - Happier (feat. Oli Sykes Of Bring Me The Horizon) (Official Music Video)

 テキサス州ヒューストン出身のラッパー、ミーガン・ザ・スタリオンがカナダのメタルバンドSpiritboxを迎えた楽曲「Cobra (Rock Remix)」はその流れをさらに加速させる決定打になるかもしれない。ミーガンの歯切れの良いフロウのラップがSpiritboxの奏でるリフに乗り、コートニー・ラプランテの幽玄なボーカルパートが対照的で、双方の良さが上手く組み合わさっている。

Megan Thee Stallion - Cobra (Rock Remix) [feat. Spiritbox] [Official Visualizer]

 2023年はヒップホップ生誕50周年とされながらも、ラップミュージックのセールスはここにきてかつてほどの勢いがなくなっているという指摘もある。ここで挙げたような他ジャンルを巻き込んだアプローチがどのように発展していくのかは今後注目していきたい。

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