yama×是、互いの音楽性に惹かれる理由 分かり合えない葛藤と向き合ったコラボ制作を振り返る
yamaが10月18日に配信した新曲「パレットは透明」は、中外製薬 NMOSD啓発プロジェクトソングとなっており、“分かり合うことの難しさ”に向き合った繊細で美しい1曲。その作曲を担い、yamaと歌詞を共作しているのが、ボカロPとして活動する是(ぜ)である。yamaと是は初期の頃から互いの活動を追い合っていたようで、このたび念願の対談が実現。今回のプロジェクトを通して生まれた「パレットは透明」の制作秘話から、息が合うという二人の交流に至るまで、たっぷりと語り合ってもらった。(編集部)
「わかってもらえない苦しさは、内向的な自分にも重なった」(yama)
――yamaさんの新曲「パレットは透明」は、中外製薬の参加型楽曲制作プロジェクト『Raising Awareness of NMOSD with yama』のための書き下ろし曲だそうですね。指定難病であるNMOSD(脳や脊髄、視神経の病気。自分の細胞を間違って攻撃してしまう自己免疫疾患)の啓発プロジェクトの一環で、周囲から理解が得づらく、コミュニケーションの葛藤を抱えている患者さんの気持ちが曲のテーマになっているということですが、どんなきっかけからスタートしたのでしょうか?
yama:プロジェクトを主導するワンメディアからご連絡をいただいて、自分にとっても新しいチャレンジになると思い、参加を決意しました。制作するにあたって方向性を考えていたときに、以前「新星」という楽曲を是さんに書き下ろしていただいたことを思い出して。普段から交流もあるので、密に話し合いをしながら進めていきました。
――クリエイティブの役割分担はどんな感じで?
是:歌詞はyamaさんが書いて。曲は私の方でデモを作って共有して、その後は話し合いながら二人でまとめていきました。
yama:是さんにお願いする前に、実は歌詞をほぼほぼ書いていたんです。でも、わかりづらいかもなって悩みつつ、その元にあった歌詞についても相談しました。めちゃくちゃ細かくやり取りをしましたね。
――制作の始まりは、プロジェクトのサイトでの“コミュニケーションにおける葛藤”をテーマにしたエピソードの一般募集だったそうですね。
yama:患者さんだけでなく、コミュニケーションの葛藤は誰もが抱えていると思っていて、集まったエピソードを通して、それぞれの葛藤があるんだということを目の当たりにして。葛藤の仕方自体もそれぞれで。それに対する答えの出し方が定まっていない方もいれば、答えを導き出した方もいたり。その一般募集のエピソードと患者さんからヒアリングした体験談を是さんにも共有しました。誰かひとりの物語をピックアップするというよりかは、それを元に、対自分軸で葛藤をどう描くかということを最後の最後まで悩みました。
是:資料を読んでも、病気の経験者の方の気持ちを100%わかることはできていないんだろうなって思って。
yama:そうだよね。
是:うん。多くの体験談があって、それぞれ苦しさの種類や程度にも違いがあって。ただ、人と向き合って、相手をわかることができないということは共通しているなと。葛藤した種類は異なりますけど、私自身にもそういう経験があったので。当事者の方々の気持ちを100%理解するのは難しいけれど、共通している“理解されないということ”自体を曲で表現したいと思いました。
yama:スタジオで二人で作業したんですけど、常々、そのテーマと向き合ったよね。「この言葉を使ってしまうと相手のことをわかった風に見えてしまうな」とか。どれだけ気持ちを共有していても、すべては理解できないということが前提としてあって。それは、ひとつの大きなテーマとなりました。だからこそ、言葉の選び方が難しかったですね。
――そこから、“誰もが抱える孤独や葛藤”というテーマに向き合っていったと。さらに言えば、“分からなさを、越えていこう。”というプロジェクトそのもののキャッチコピーにも結びついていったと思うのですが、完成した楽曲は、スッと心に入ってきて気持ちを浄化してくれる作品に仕上がっていて。なるほど、と腑に落ちたんですよ。
yama:わかってほしくてコミュニケーションを取るけど、わかってもらえないという苦しさがあって。それは内向的な自分自身にも重なったんです。コミュニケーションを取ること自体、カロリーが高いというか。
是:わかる。
yama:わかってもらえないんだろうなって、最初から遮断してしまうんです。でも人はひとりでは生きていけないので、だからこそ難しいんだろうなって。なので悩む。
是:他人同士わかり合えないという事実はあるけど、それを歌詞の中でネガティブな表現にはしたくなかったんです。そこはお互いに共通していたよね。
yama:うん。
――まず「パレットは透明」というタイトルが素晴らしいなと思いました。
yama:ありがとうございます。先に歌詞ができていたんだっけ?
是:もともとyamaさんの方で、色やパレットに例えたいと歌詞のイメージが固まっていて。そこからタイトルも固まっていきました。
yama:一緒に作る上で、大きなテーマはあったんだけど、まず「楽曲自体のモチーフを決めない?」って話をしたんだよね。もともと書いていた自分の詞に、“色”や“色彩”が入っていたので、それを題材にしてパレットという言葉が生まれて。
是:そうそう。
yama:「パレットは透明」というタイトルの意図も話し合ったよね。「パレット自体が透明なのか? あるいはパレットに乗っている色が透明なのか?」とか。
是:どちらもいいなと思いつつ、どちらになるかによって言葉の意味も変わってくるなって。そこは、すぐに「クリアパレットではなくて、絵の具自体が透明だよね」って認識が一致しました。
yama:お互いになんとなく思っていたことを答え合わせして、「やっぱりそうだよね!」って。
――結果、「パレットは透明」はバラードのスタイルから入りつつ、ポップかつ揺蕩うようにメロディアスで優しく寄り添ってくれるトラックに、心にスッと入ってくるyamaさんの歌声が重なり、ゴスペル的な展開にもなるなど、没入感の高い楽曲に仕上がりましたね。
是:私の方で、そういったゴスペルとかのサウンドイメージがあって。ステージでyamaさんがひとりで歌っている感じではなく、複数人で歌っているイメージがあったので、そんな方向性で行きたいって最初に相談しましたね。
yama:〈パレットは透明〉と複数回繰り返していく中で、ライブではみんな一緒に歌ってほしいなと無意識に思えたんですよね。なので、今まで自分の声以外のコーラスを入れることがなかったんですけど、今回は新しい試みとして、初めて別のシンガーさんの声をコーラスとして入れたんです。印象的でしたね。
――素晴らしい曲に仕上がりましたね。そして、yamaさんらしい曲になったと。
yama:そうですね。悩みやすい性格なので……。今はマシになってますけど、もともと人との距離感や接し方に悩んで傷つくこともあったし、曲にすることで、自分と同じような人がいたらちょっと心が落ち着く部分があるのかなって。この企画自体も、自分の活動としては(これまでと)地続きなので。
「是さんの世界観に救われた部分もあった」(yama)
――「パレットは透明」はMVとの親和性も高かったですね。
yama:作っているときも映像のイメージについて話してたよね?
是:うん。
yama:人の顔が具体的に浮かばない方がいいなって思っていたんですよ。たとえば、ひとりの演技する方がいて、その人だけのフィーチャーで進んでいくというよりは、もっとそれぞれの物語というか、いろんな人のストーリーが垣間見えるMVになればいいなって。
是:その気持ちは共通してあったよね。コーラスでも、他の方の声は入っているんですけど、特定の人物が見えすぎないように気をつけました。それは映像と合っていましたね。
――映像におけるキーアイテムとしてベンチが登場しています。そのベンチには、さまざまな境遇の人たちが座ったり、譲り合ったり、隙間を詰めて寄り添い合ったり、人生のワンシーンを表しています。そうしたMVによって、改めて客観的に自分たちの作品と向き合えるのではないかなと思いますが、いかがですか?
yama:でき上がって、リリースもされてから改めて自分で聴いて、いい曲ができたなって思いました。それを是さんに伝えましたね。
是:こちらこそ、ありがとうございます。私は、yamaさんの歌声にはいい意味で近い距離感を感じていて。遠くないんです。あと、スッと入ってくる声質というか。今回も歌声が曲に合っていていい曲に仕上がりました。
yama:本当によかった。ありがとう。
――二人が一緒に制作するのは「新星」に続いて2曲目なんですよね?
yama:発表しているのは2曲目ですね。何曲かやろうとしていて……あ、すでに一緒にやっているものもあります。そんな経験があったから、是さんに頼んだら間違いないという確信がありました。
――是さんの音楽家としての魅力を、yamaさんは具体的にどう評価されていますか?
yama:ボカロPで活躍されていた、わりと初期の頃からすごく好きで聴いていて。その頃から自分の制作チームにも「是さんという方がめっちゃいいんですよ!」って共有していました。でも、チームからは忘れられていたみたいで(苦笑)。しばらく経って、スタッフから「是っていう子がいるんだけど、今度の曲にどう?」って言われて、「いや、前に言ったし!」って(笑)。LINEを遡って「ほら、結構前に言ってる!」って確認させました。
自分が惹かれる理由としては、楽曲を聴いたときに、たぶん自分と似ているんだろうなって感じたからで。世界観に共感できたし、当時の自分は救われた部分もあって、よく曲を聴いていました。それぐらい人の心を癒すような効果があると思っていて。痛々しい部分とか、暗めの心情を歌っていたり、尖っているイメージなんですけど、どこかに必ず、温かさを感じられて。それが自分が好きだと思った是さんの楽曲には共通してあって。いいなって。
是:ありがとう、嬉しい。
yama:出会って、最初に話したときに「フィクションが書けない」って言ってたよね。
是:そうだね。
yama:ノンフィクションしか今まで書いてなくて。でも、どうしても自分の楽曲をお願いしたかったから、「どうかな?」って聞いたら受けてくれて、「新星」を悩みながら作ってくれたんです。しかも、めちゃくちゃいい曲じゃんって。当時はまだ距離感があって、お互い様子見し合っていたような時期でした。でも、その中でなんとなく予想して書いてくれていて。それも伝わってきたし、よかったです。魅力はたくさんありますね。
是:常々、そう言ってくれるから嬉しいです。