Anonymouzが『シガレット』で表現した“私” 2023年は「音楽活動を始めて一番大きな転機」

 Anonymouzが、デジタルシングル『シガレット』をリリースした。表題曲となる「シガレット feat. xea」は、歌い手のxeaが歌唱に参加。カップリング曲の「JAM」はすでにライブでも披露している楽曲だ。どちらもAnonymouz自身が作詞作曲を手掛けており、パーソナルな部分が反映された表現を楽しむことができる。そんな両楽曲、そして11月19日に控えるワンマンライブ『Kagerou〜Anonymouz Live 2023〜』について本人に話を聞いた。(編集部)

表向きのテーマは“恋愛”だけど、裏では自分自身のことを歌っている

――前作「レッスン」に続く、リブランディング後初のアノさん作詞作曲のオリジナル作品『シガレット』がリリースされました。

Anonymouz:新たなスタートを切った「レッスン」はwacciの橋口(洋平)さんに提供していただいたので、今度は自作曲にチャンレジしたいと思って。顔を出した今だからこそ同世代にも響く曲を作れたらと思い、表題曲の「シガレット feat.xea」は今トレンドのシティポップや“日本語で歌う”ということを前提に制作しました。顔を出して一番変わったと思うのはライブで、みんなの目をしっかり見て、どんな雰囲気で聴いてくれてるのかも感じながら歌うと、すごくまっすぐに届けられるんです。それで、もっと聴いてくれる人に寄り添ったり、自分のパーソナルな面も掘り下げて表現したいという気持ちになっていきました。

――表情なども含めて伝えられる今だからこそ、より共感度の高い楽曲が響くんじゃないかと。

Anonymouz:そうですね。楽曲を通して、より“私”という人物を知ってもらえたらいいなと思いました。

――具体的に、制作はどのような流れでしたか?

Anonymouz:先にトラックを作り、そこにメロディをつけていきました。頭サビからラップパートへ流れていく構成だったので、冒頭から胸に刺さるようなインパクトのあるメロと歌詞を意識しましたね。トラックは「こういう雰囲気にしたい」ということを大切にしました。

――それがシティポップだったと。

Anonymouz:はい。同世代に流行しているシティポップの要素と、Anonymouzらしさが融合したようなトラックになったんじゃないかと思います。できた時からすごくカッコよくてワクワクしたのを覚えています。

――先ほど「自分のパーソナルな面も掘り下げて表現したい」とお話がありましたが、「シガレット feat.xea」の作詞はどういったところからイメージを膨らませていきましたか?

Anonymouz:パッと見は恋愛ソングのようなんですけど、最初はそこをテーマに書き始めたわけじゃなくて。私は音楽活動を通して“自信が持てる時”と“自信が急に持てなくなる時”があって、その2つが全く別人のように感じるんです。後者の時は自信のある自分にどうしたら近づけるか? というのを考えるんですけど、それが(頭サビの)〈突然に振り出しへ/魔法が解けて 待ちぼうけ〉のところだったりして。ライブで天に昇る気持ちになって、でも次は制作で行き詰まって落ちる……という繰り返しが“背伸びした恋”にちょっと似てるなと思い、表向きは恋愛をテーマに掲げながら、裏では自分自身のことを歌っているんです。

――なるほど、面白いですね。裏テーマのほうで歌詞を見ていくと、例えば〈あの夢〉はステージの煌びやかな時間というふうにも読み取れます。

Anonymouz:歌詞の取っ掛かりはまず、裏のイメージで頭サビを書いたんです。そうしたら、「あれ? なんか恋愛みたいだな」って思って、Aメロのラップはどちらにもかかるようにして。今まさに恋をしてる人はもちろん、憧れの人と自分を比べて落ち込んでいる人とか、本当にいろんな状況で聴いてもらえる曲だと思います。

――ラップパートにはTikTokを中心に人気の歌い手・xeaさんが参加。声の質感がよく似た2人の、いい意味で気だるい男女ボーカルに心を掴まれます。

Anonymouz:この曲が一旦完成した時に、男性ボーカルを入れて掛け合いにしたら場面をより想像しやすいんじゃないかと思って。そこからいろいろ探して、xeaさんにたどり着きました。落ち着いた透明感のある声で、よく聴くと細かな感情をいろんなところに仕込んだ歌い方をされてて、それが今回の曲にピッタリだなと。オファーさせていただくと、楽曲をとても気に入ってくださり「ぜひ」と快諾いただけて。実際に歌っていただいたら本当にピッタリで想像以上にカッコいい仕上がりになったと思います。

――xeaさんの声が入ってラップパートの印象は変わりましたか? ラップのリリックを書く際にこだわったこともあれば聞かせてください。

Anonymouz:セリフの部分があるんですけど、最初は自分自身との対話だったのが恋の対話に変わったのは面白かったです。こだわりは……私、日本語でラップを作るのが初めてで。いろいろ研究しつつ、歌っていて気持ちいいリズムを探しながら言葉を組み立てていくのが楽しかったです。

――前作「レッスン」は全編日本語詞、今回の「シガレット feat.xea」もほぼ日本語詞ですね。レコーディングはいかがでしたか? 

Anonymouz:私はこれまで英語詞をメインに歌っていて、日本語詞を歌うと声色などかなり変わることが多かったんです。でも「レッスン」からは英語と日本語を歌う時であまりギャップが出ないようにしたいと考えて、まずは適当な英語で歌ってグルーヴ感を掴み、それから日本語で歌うという方法をとるようにしました。

――それによって歌いやすくなったり、英語のグルーヴ感を生かした日本語の表現が見つかったりするのでしょうか?

Anonymouz:そうですね。以前は日本語で喋る時と同じ喉の位置を使って日本語の曲を歌っていて、喉を痛めてしまうことがあったんです。でも英語を歌う時のようなニュアンスを混ぜて日本語を歌うと、喉のちょっと深いところから声が出る感じで音域も広がる。そのやり方を始めてから、いくら歌っても喉が痛むことはなくなりました。やはり英語がルーツにあるので、英語の声の出し方を生かしつつ日本語を歌うといいものができるんだなって思います。

――英語と日本語で、歌のギャップも縮まってきましたか?

Anonymouz:その差を縮めるのがずっと自分の中の課題だったのですが、だんだん“一人の人”になり始めている気がします。というのは多分、声色とかよりも気持ちの変化が大きいのかもしれないなって。英語と日本語のどちらで歌っても歌の癖は意外と変わらないし、日本語の時の女の子っぽい浅い声を今までは直したかったのですが、その良さも残しつつグルーヴィでリズミカルに歌える英語と融合できたらいいなって。今はそんな風に考えています。

――「シガレット feat.xea」のMVはレトロな風合いと映像の質感がとてもオシャレな仕上がりです。撮影秘話を伺えますか?

Anonymouz - シガレット feat. xea

Anonymouz:先ほどお話したように表と裏で2つのテーマがある曲なので、恋愛だけにフォーカスしたMVにならないようにしたいと思いました。恋愛のイメージで見ていただくのももちろんうれしいのですが、鏡の自分を見たり、誰かをいろんな角度から見て学ぼうとしてるようなシーンもあって、そこは“自信のある自分”を探している風にも見えるかなと。撮影は美術館の館内をあちこち使わせていただいたのですが、特にものすごく長くてアートなエスカレーターが圧巻でした。そこでいろいろ動きながら撮るシーンが多かったので、今でもエスカレーターを見るとこのMVを思い出します(笑)。

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