“平成ネット文化”と“アニクラ”が時を経て大衆化 オタク的嗜好から生まれる最近のヒット曲

 重ねてもうひとつ注目したいのは「アニクラ映え」だ。直近のバズ曲要素として拡散力のある音楽現場のひとつ、アニクラ=アニソンクラブイベントでの汎用性の高い楽曲が、大きなブームを巻き起こす傾向があるようにも見て取れる。

 世界的音楽シーンのトレンドからやや遅れて、日本の二次元関連音楽シーンにも訪れたEDMブーム。時期を前後して2010年代後半~2020年前後にアニメやゲーム、ネットカルチャーといったオタクコンテンツに興じる人々の間に、アニメソングやネットカルチャー関連曲を楽しむクラブイベント文化が浸透し始めたのも、このブームに影響を与えているように思う。

 しかしなにもEDMの曲調だけが「アニクラ映え」を象徴するわけではない。ここに繋がる要素のひとつとして、今回焦点を当てるのは曲中の「コール&レスポンス」だ。近似カルチャーとして従来は女性アイドル楽曲にも多かったこの音楽的手法。演者と客席が共に会場の一体感を生み出す効果を持つこの表現は、直近のバズ曲にも多く取り入れられる傾向にある。

 特に顕著なのは、「粛聖!! ロリ神レクイエム☆」「美少女無罪♡パイレーツ」の2作だろう。メインボーカルの合いの手としてのフレーズが曲中の随所に散りばめられており、リアルの音楽現場でも楽曲が盛り上がりやすい構成となっている。これらの曲を通じて従来はライブイベントでアーティスト・アイドル相手に行われていたやりとりが、今度はクラブイベントでDJを相手に行われ始める。そこに参加するリスナーの数だけ曲の知名度が波及的に広がり、結果作品のバズの一端を担ったのではないだろうか。元々は顔も名前も知らないインターネットカルチャーで親しまれていた曲が、対面の現場で拡散される。ある種の逆転現象が起きている点も、この状況のユニークポイントと言って良いだろう。

【original anime MV】美少女無罪♡パイレーツ【hololive/宝鐘マリン】

 社会情勢や視聴環境の変化に応じ、音楽のトレンド・バズの発生状況も予測しきれないほど多様化する昨今。局所的なネットカルチャーシーンを発端に巻き起こる、大きな熱量を持つ曲の大衆的なブームは、今後も偶発的にあちこちで発生するに違いない。本来ならニッチマーケットだったカルチャーの拡大で、おそらく今後ますます音楽シーンは混沌として混じり合う。そこから生まれる新たな文化の行方を追うのも、多彩な世界に触れる面白さのひとつなのだろう。

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