『プロセカ』Vivid BAD SQUAD楽曲はなぜ胸を熱くする? ダンスミュージック×ハングリー精神の求心力

 今年9月30日にアプリ配信3周年を迎えた、『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)。VOCALOID文化を語る上で今や欠かせない本コンテンツの魅力のひとつに、物語で登場する多彩なユニット・キャラクターの存在があるだろう。

 そんなプロセカ内ユニットのひとつ、「Vivid BAD SQUAD」(以下、ビビバス)による7thシングル『ひつじがいっぴき/下剋上』が10月25日発売となった。日頃ゲームに親しむユーザーにとっては周知の通り、3周年直前の今夏に各ユニットのストーリーはそれぞれひとつの区切りを迎えた。中でもビビバスの物語で明かされたとある事実は大勢のファンに衝撃を与え、エピソードに華を添えた「下剋上」を名実ともに彼らのターニングポイントとして受け取った人々もきっと多かったに違いない。

 彼らの曲を語る前に、まず大元となるユニットの成り立ちについてをおさえたい。物語の発端は、小豆沢こはね・白石杏による「Vivids」と、東雲彰人・青柳冬弥による「BAD DOGS」という二組のストリートユニットだ。“伝説のライブイベント「RAD WEEKEND」を越える”という共通の目標を持ちながらも、スタンスの違いから当初はライバル関係だった両者。しかし徐々に相互理解を深めた結果、ユニットを統合し共に目標に向かって活動し始めたことが、Vivid BAD SQUAD結成の経緯となっている。

 楽曲においては、ジャンルに留まらないボカロシーンのビッグネームによる名曲とあわせて、直近シーン内で活躍するボカロPによる提供曲も豊富なVivid BAD SQUAD。その代表格がやはり近作となるPeg「ひつじがいっぴき」とMisumi「下剋上」だ。

ひつじがいっぴき / Vivid BAD SQUAD × MEIKO

 以前よりR&Bテイストな、リスナーを踊らせるビートを得意としていたPeg。彼が手掛けた「ひつじがいっぴき」は。ルーズさのある低BPMとジャジーなハネのあるピアノのマッチングも絶妙な1曲。タイトでありつつもまろやかに響く音の含まれるサウンドは、楽曲提供イベントの主役であるこはねのイメージにもぴったり。愛らしい声質でありながらも〈今だ、通り越してゆけ〉で巻き舌をアクセントにしたボーカルを披露する様は、過去と現在での変化が直感的に感じさせる。完全な初心者から音楽を始めた彼女の大きな成長は、まさしくユニットの伸び代にも直結している。「Ready Steady」をはじめとする過去の彼女のイベント楽曲と比較しても、その目覚ましい進化を感じたファンがいたに違いない。

下剋上 / Vivid BAD SQUAD × 鏡音リン

 一方Misumi「下剋上」は、ハードでエモーショナルなロックサウンド中心に構成されたソリッドチューン。以前よりスピード感のあるビートに乗せた重厚なサウンドと、畳みかけるようなリリック構成を強みとする、Misumiのトラックメイクが楽曲にも存分に生かされている。衝撃的な事実を知り大きなショックを受けた杏を中心に、それでもユニットの面々が掲げる目標へ再度歩み出すという、ユニットの転換点における覚悟の歌ともなった本作。〈嫌い〉を繰り返す否定のリフレインから、〈何度だって這い上がって〉〈傷を舐めて笑え 喧嘩なら上等〉と啖呵を切る。痛みを伴いながらも今の自分から変わるための決意を孕む、激情の込められた歌詞にも胸が熱くなる。憧れを越えるというハングリー精神を端的に表したタイトルも秀逸な1曲だ。

 プロセカ全体のコンテンツ構想段階で設けられた5つのボカロ曲カテゴライズの内、ビビバスが司るのは「ストリート」。音楽要素としてはストリートダンスミュージックの系統となるロックやポップス、ヒップホップ、ハウス、EDMなど。いわゆる“踊れる”カテゴリのサウンドが、ユニット楽曲の大きな特色とも言える。

 だが同時に、これらは享楽的なクラブミュージックとはやや毛色の異なる点についても留意しておきたい。ストリートカルチャーに根付く音楽である以上パフォーマンスには競争が付き物であり、当然楽曲にもそれは大きく反映される。ダンサブルなサウンドに内包される、共に切磋琢磨する仲間への対抗心、常に上を目指すストイックな精神。それらが楽曲を構成するファクターであり、加えて彼らの結成経緯も併せ見ることで、より一層Vivid BAD SQUADというユニットの物語における一貫性も感じられる。

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