オーケストラを通じてキャラクターと観客が重ねた想い 『セカイシンフォニー2023』レポート

『セカイシンフォニー2023』横浜公演レポ

 iOS/Android向けゲームアプリとしていまや確固たる地位を確立している『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)の楽曲をオーケストラ+スペシャルバンドで奏でる『セカイシンフォニー2023』が6月10日、パシフィコ横浜で行われた。『初音ミクシンフォニー』とともに、オーケストラによるライブとしてファンにすっかり定着した3回目の『セカイシンフォニー』をレポートする。

『セカイシンフォニー2023』

 梅雨空の横浜に、一陣の爽やかな風が吹き抜けた約2時間だった。栗田博文氏の指揮、東京フィルハーモニー交響楽団とセカイシンフォニースペシャルバンドにより、『プロセカ』のキャラクターとオーケストラが紡いだ物語に浸り、丁寧に作り込まれた映画を1本見た後のような気分になった。

 オープニングの「群青讃歌」(Eve)から、アコースティック楽器が持つ深い奥行きのあるサウンドが、観客を『プロセカ』の世界観と音楽空間へと誘う。初音ミクの短いMCをはさみ、『プロセカ』の各ユニットのコーナーへ。トップバッターはMORE MORE JUMP!。「DREAM PLACE」(EasyPop)、「ももいろの鍵」(いよわ)の2曲に乗せ、『プロセカ』のゲーム内ストーリーの印象的なシーンとMVが展開された。

 そしてVivid BAD SQUADによる「仮死化」(遼遼)、「Awake Now」(雄之助)、ワンダーランズ×ショウタイムの「88☆彡」(まらしぃ × 堀江晶太(kemu))、「potatoになっていく」(Neru)、25時、ナイトコードで。の「再生」(ピコン)、「Iなんです」(れるりり)と、ゲーム内でたどってきた各ユニットの軌跡が楽曲に乗せてなぞられていった。

 キャラクターのセリフにオーケストラの音が劇伴のような形で重ねられ、キャラクターたちの歌声、そしてキャラクターを支えるバーチャル・シンガーたち(初音ミク、鏡音リン、鏡音レン、巡音ルカ、MEIKO、KAITO)の声、そして映像が自然に重なり、「聴覚」と「視覚」が渾然一体となって、観客を『プロセカ』の「セカイ」(本当の想いを見つけられる場所)へと導いていく。それはまさに、デジタルとアナログの融合した音楽空間のひとつの完成形を感じさせた。

 各ユニットがどんな道を歩んで現在に至るのかが、スッと見る者の胸に落とし込まれていく。その感覚はライブの現場で聴いている人にしか体験できないものだ。映画もそうだが、オーケストラの奥行きのあるサウンドには、そのシーンで訴えかけること、観客が抱く感情を何倍にも増幅し、より世界観を理解させる効果がある。ゲーム内で登場人物は様々な想いを抱えているが、観客もリアルの日常生活でそれぞれの想いを抱えている。オーケストラサウンドによって、『プロセカ』の各ユニットが演じてきたドラマが観客の心にしみ込み、お互いの想いが重なり合っていく。

 ゲームはプレーヤー各人のスマートフォンの中で展開される、きわめて限定的でパーソナルな空間である。しかし『セカイシンフォニー』の音楽と映像は、パーソナルな空間をよりドラマチックに演出し、プレーヤー同士のゲーム内での体験に普遍性を持たせ、共有できるようにするのと同時に、リアル(観客)とバーチャル(ゲームキャラクターたち)の想いを結びつけるハブ(中継点)となっている。こうして観客を『プロセカ』の世界観にすっかり没入させたところで、20分間の休憩に入った。

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