クレナズム、“心のささやき”を冠したミニアルバム 4人の感覚が合わさり生まれる新しいアレンジや言葉の視点

クレナズム表現した“心のささやき”

 福岡発の4ピースバンド・クレナズムから5thミニアルバム『Whisper of the heart』が届けられた。シューゲイザー直系のバンドサウンドと抒情的な春ソングが一つになった「さよならを言えたかな」、夏の3部作として配信された「夏日狂想」「ナツメクル」「8月31日」、メンバーが出演も果たした映画『ふたりの傷跡』の同名主題歌などを含む本作。メンバー全員が作詞・作曲を行うことで生まれる音楽性の広さ、繊細さとダイナミズムを併せ持ったサウンドなど、このバンドの魅力がバランスよく凝縮された作品に仕上がっている。(森朋之)

“心のささやき”というタイトルにふさわしいミニアルバム

――昨年11月に1stフルアルバム『日々は季節をめくって』をリリース。その後も配信シングルを次々とリリースし、ライブも精力的に行うなど、順調な活動が続いています。この1年はみなさんにとってどんな時期でしたか?

萌映(Vo/Gt):ライブの声出しが解禁になったことが、自分たちにとってはすごく大きくて。「これまで以上にお客さんとの距離を縮めていきたいね」という話はずっとしてますね。7月には3年ぶりに台湾でライブができたり、いろいろな活動ができました。

けんじろう(Gt):声出しのライブもそうなんですけど、近所のお祭りが3年ぶりに復活したり、久しぶりというか「懐かしいな」と思うことがいろいろあって。ノスタルジックな気分になることも多かったし、それを曲作りに活かせたらいいなと思いつつ過ごしてましたね。

まこと(Ba):ライブのことで言えば、僕らはコロナ前の雰囲気をそこまで知らないんですよ。最初の頃は盛り上がるような曲が少なかったし、コロナになってからはお客さんの声出しができなくなって。最近ようやく、「声を出して盛り上がるって、こんな感じなのか」とわかってきたというか。夏にリリースした「ナツメクル」もそうなんですけど、ライブを意識した曲も少しずつ増えてきました。

しゅうた(Dr):映画『ふたりの傷跡』の主題歌と劇伴を作ったり、女性ボーカルグループのCYNHNに楽曲提供(「スターレット」)したり、バンドマン以外の仕事もやれて。音楽家としてすごく勉強になった1年でしたね。

――メンバー全員で楽曲を持ち寄る、“バンド内コンペ”は今も続いているんですか?

萌映:ずっとやってます。

しゅうた:今は1カ月に1曲ずつ持ち寄ってますね。

――他のメンバーよりいい曲を書かなきゃみたいな気持ちも?

まこと:ありますね(笑)。

けんじろう:ルーツもけっこうバラバラなので、曲の幅広さは自分たちの良さなのかなと。ただ、僕はメンバーをライバルだとは思っていなくて。その先というか、聴いてくれる人たちのことを意識するようにしていますね。

――では、5thミニアルバム『Whisper of the heart』について。このタイトルはジブリ作品『耳をすませば』にインスパイアされたそうですね。

しゅうた:ミニアルバムのタイトルはずっと五感をテーマにしていて、今回は聴覚だったんです。みんなで考えてたんですけど、萌映とけんじろうが同じくらいのタイミングに『Whisper of the heart』を提案してくれて。2人とも、もともとジブリ作品が好きなんですよ。

萌映:はい(笑)。リアルなところとファンタジーの要素の組み合わせがすごくいいなと思っていて。『耳をすませば』もすごくいい作品だし、“心のささやき”という意味合いが今回のミニアルバムに合うんじゃないかなと。

――なるほど。1曲目の「さよならを言えたかな」(作詞・作曲:しゅうた)は春の別れをテーマにした楽曲です。

しゅうた:僕は鹿児島出身で、大学進学のときに福岡に来たんですけど、そのときの思いを曲にしてみたくて。両親に電話して、「たまには帰っておいでよ」と言われたことがきっかけですね。鹿児島でもかなり田舎のほうで、夜行バスで福岡から5~6時間かかるんですよ。MVは僕の地元で撮ったので、ぜひ見てほしいです。

クレナズム『さよならを言えたかな』culenasm 『sayonarawoietakana』(Official Music Video)

萌映:薩摩松元駅あたりなんですけど、すごくいいところでした。たまたま小学校の下校時間で、子どもたちがワーッって走ってて。「しゅうたはこういうところで育ったんだな」って。地元に金髪の人がいないみたいで、だいぶ珍しがられました(笑)。

まこと:(笑)。この曲、最初はもうちょっと長かったんですよ。そこからイントロを半分にしたり、だいぶ短くして。

しゅうた:最初のデモ音源は、自分の好きなように作ってるんです。いろいろ詰め込みたくなるし、けっこう長くなりがちで。でも、みんなに聴いてもらって、客観的な意見をもらえるのはすごくありがたいんですよね。「さよならを言えたかな」は構成がシンプルになったし、サブスクで聴いてもらいやすくなったのかなと。

けんじろう:最初「ギターソロを入れたい」って提案したんですけど、アレンジを進めるなかで「ごめん、入れられない」ってことになりました(笑)。曲を作った人がイニシアチブを取るというやり方を続けているし、結果的に「確かにギターソロはないほうがいいな」と。

バンド内でコラボレーションしていくかのような曲づくり

――「夏日狂想」(読み:かじつきょうそう)は、けんじろうさんの作詞・作曲。ギターポップ然とした楽曲ですが、やはりギターにはこだわりがある?

けんじろう:そうですね。どうしてもギターを重ねる本数が多くなったり、パートごとに違うことをやりがちなので。「夏日狂想」はギターリフにもこだわってますね。

萌映:若田部誠さん(乃木坂46、AKB48などの楽曲を手がけるクリエイター)に編曲に入っていただいているんですが、ギターとピアノの絡み方がすごく気持ちいいですね。そこはけんじろうも意識してたんだよね?

しゅうた:うん。ライブでもドラムとベースを合わせるのがけっこう難しくて。最近ようやくいい感じで演奏できるようになったし、ライブの雰囲気をガラッと変えられる曲になってますね。フレーズは若田部さんに作ってもらったんですけど、「ピアノを入れてほしいです」とお願いしたので。あと、この曲はリズムが跳ねてるんですよ。それもポップな雰囲気につながっているのかなと。こういうシャッフルはクレナズムでは初めてかも。

――リズムも多彩になってきた、と。

まこと:そうですね。最初の頃はとにかくシンプルにアレンジしてたんだけど……。

しゅうた:だんだん自我が出てきた(笑)。

けんじろう:前はセッションでアレンジしてたんですけど、最近はDAWを使うようになって。リズムも種類やキメも増えてきました。

クレナズム『夏日狂想 』culenasm『kazitukyousou』(Official Audio)

――「ナツメクル」(作詞 ・ 作曲 : まこと)はライブ映えしそうなアッパーチューン。もともとはどんなテーマで作った楽曲なんですか?

まこと:僕、本当に暑いのが無理で。今年の夏は本当に大変だったし、「夏が嫌い」というのを曲にするのもいいのかなと。意外とサクッと作れたんですけど、夏の3部作の他の曲(「夏日狂想」「8月31日」)は爽やかな感じだったので、そこもちょうどよかったです。Aメロに〈だりい〉という言葉を入れたり、新しいこともできましたね。

萌映:まことの気持ちを代弁しました(笑)。自分にはないアイデアだし、すごく驚きましたね。まこととは大学のときから一緒で、キャラクターもわかっているので、最初に聴いたときから「これはまことの曲だな」と思いました。ボーカルに関してはけっこう自由にさせてくれるので、ニュアンスを受け取りながら、自分の解釈で歌いました。

クレナズム『ナツメクル 』culenasm『natsumekuru』(Official Audio)

まこと:デモ音源は自分で作るんですが、さっきしゅうたが言ったように、メンバーに任せる部分もかなりあって。そのほうがクレナズムっぽい音になるんですよね。ギターも(けんじろうは)僕からは絶対に出てこないフレーズをつけてくれるんですよ。

けんじろう:まことからの「こういう感じでお願いします」という注文は尊重しつつ、ですけどね。それを自分のなかでかみ砕きながら、3パターンくらい送るんですよ。自分がやりたいことと、クセを強く出したフレーズ、弱めに出したフレーズという感じで。

萌映:そうなんだ。今初めて知ったよ(笑)。

――しっかりプレゼンしてるんですね(笑)。「自分としてはコレなんだけど、違うパターンが採用された」ということも?

けんじろう:ありますね。「8月31日」のBメロの部分もそうです。最初は「このフレーズを選んだんだ?」と思ったけど、出来上がってみるとしっくり来ました。

――バンド内でコラボレーションが繰り返されているんですね。

まこと:確かに。イメージ的には本当にそんな感じです。

――「8月31日」は、作詞が萌映さん、作曲は萌映さん、しゅうたさんの共作です。

萌映:土台は私が作って、サビのメロディと編曲をしゅうたくんにお願いしました。メロディ作りにも得意、不得意があって、私はサビを作るのが苦手なんですよ。「8月31日」を作ってるときも、しゅうたくんにアドバイスをもらったんですけど、その場で「こういうのはどう?」と作ってくれたメロディがすごくよくて。耳に残るメロディを生み出すのが得意なんですよね、しゅうたくんは。私が作ったAメロ、Bメロとも上手くつながってると思います。

――歌詞のテーマは、夏休みの最後の日?

萌映:はい。夏の思い出をいろいろ考えていたときに、「楽しいことだけじゃなくて、苦しい思い出もあるな」と思って。私、宿題を後回しにするタイプだったんですよ(笑)。この曲を書いたときも締め切りに追われていたし、「夏休みの宿題をテーマに書こう」と思ったのがきっかけですね。

クレナズム『8月31日』culenasm『8gatu31niti』(Official Audio)

――個人的な思いがもとになっているんですね。「夕凪詠草」(作詞・作曲:けんじろう)はどうですか?

けんじろう:どちらかというとキャラクターを思い描きながら書いた歌詞ですね。“詠草”(詠んだ歌や俳諧を書いたもの)という言葉を使ったのは、「それって、歌詞カードみたいなものだな」と思ったからなんです。昔の人は紙に書いたけど、今はスマートフォンで歌詞を見る人が多い……みたいなところから書いた歌詞ですね。“夕凪”は、風が吹いてなくて、波が立ってない状態のこと。歌詞の冒頭に〈ゆっくりそこに座って次のバスがまた来るまで〉という歌詞があるんですけど、忙しなく過ぎる日々のなかで、ちょっと一休みして誰かを思い出したり、いつかの自分を振り返られるような曲になったらいいな、と。

――なるほど。けんじろうさん、古典も好きなんですか?

けんじろう:古典の成績は悪かったんですけど、好きですね。僕、中原中也が好きなんですけど、「春日狂想」という詩があって。中也の子供が亡くなって、その数カ月後の春に書かれた作品なんですよ。「夏日狂想」は、夏になって、中也が前を向いている姿を想像しながら書きました。

クレナズム『夕凪詠草 』culenasm『yunagieiso』Lyric Video

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