岡本知高「老いと共に歌がどう変化していくかが何よりの楽しみ」 デビュー20周年を迎えてもなお追求する歌声の新境地

ソリスト同士の力強い意思を集約した三宅由佳莉とのデュエット

ーーこの曲の制作過程について玉城さんのコメントを読んだのですが、玉城さんが「岡本さんのお母さんに会いたい」と、岡本さんの故郷、高知県宿毛市まで会いに行ったそうですね。

岡本:そうなんです、千春さんは僕のコンサートツアーの千秋楽の高松公演を観に来てくださって、楽屋で初めてお会いしてハグをしたら、やっぱり前から知ってる方だと思いました。それで千春さんが打ち上げ会場で「私は岡本さんの曲を作るにあたって、もっと岡本さんの人となりを知りたい。私は岡本さんのお母さんに会わなきゃいけないんです」って言い切るんです(笑)。僕は翌日高知に帰る予定だったのですが、千春さんに「ここから車で5時間ぐらいかかりますよ」って言ったら「全然、構いません」と。

ーー玉城さんも「行かなければいけない」と、居ても立っても居られない感じだったんでしょうね。

岡本:あの時はこの大きな僕が、玉城さんのパワーにズルズル引きずられる感じでした(笑)。それで翌日一緒にレンタカーで僕の故郷・宿毛に行きましたが、そういえば、あの日宿毛市では、秋川雅史さんと夏川りみさんのコンサートがあって、僕も観に行ったのですが、あんな小さな街に期せずして歌手が4人も集合するという、面白いことが起こっていました(笑)。僕がコンサートを観ている間、千春さんは僕の母とドライブに行ってました。

ーー「あなたに太陽を」は“身近”な歌ですが、やっぱり大きな歌でもありますよね。

岡本:そうですね。僕は太陽にはこの世で一番強いエネルギーを持っているものというイメージがあるのですが、でも“温かい”象徴でもあるし、なくてはならない存在でもある。大切な人やものを象徴するものとしての太陽なんだなと思いました。歌詞を読んで僕は母親の顔が浮かびました。曲の中に向日葵が出てくるのですが、向日葵は母が一番好きなお花なんです。

ーー玉城さんと岡本さんのお母さん、話が盛り上がったことが想像できます。

岡本:母と千春さん、意気投合したみたいで二人でドライブに行って、僕が子供の頃に遊んだ場所や学校を巡ったみたいです。

ーーこの曲にはそのお母さんもコーラスに参加しています。

岡本:歌詞を読んだときに母の顔が浮かんで「歌わないかな」って思いました。母は宿毛市民合唱団で歌っていたので、母に声を掛けてみたら快諾してくれ、レコーディングの時はノリノリでやってくれました(笑)。

ーーこの曲のピースがはまった感じですか?

岡本:そうですね。うちの母と、別の親子のコーラスが加わって、僕の中では全てのピースが揃いました。レコーディングの日に母が翌月80歳の誕生日を迎えるということで、千春さんがお花をスタジオに届けてくださいました。僕も「ハッピーバースデー」を歌ってお祝いして、千春さんもそのときその場にいたような気持ちになりました。千春さんが母にプレゼントしてくださった花束は向日葵とガーベラで、その花を入れたイラストをイラストレーターの山代エンナさんに描いていただき、アルバムのジャケットになりました。

ーー大切に歌い続けていける曲が完成しました。

岡本:この20年間様々な楽曲を歌ってきましたが、僕自身は元々新曲というものへのこだわりはそんなに持っていなかったんです。モーツァルトとかベートーベンが作った曲を、いかに自分のものにして歌うかということが僕の仕事だと思っているので、あまりオリジナル作品へのこだわりみたいなものは、そんなにありませんでした。そう言うと、これまでのオリジナル作品がかわいそうなんですけど(笑)、でも初めて自分の曲ができた感じがしています。僕の活動の軸はコンサートです。やっぱり自分の言葉にできるものでないと、コンサートでは歌えない。オペラのように役になり切って歌うのと、自分のコンサートは全く別で、自分自身が歌っているので、自分の言葉で歌える作品は、歌詞はもちろんメロディもそうだし、狙って作れるものではないと思っていて。でも今回はそれができました。

ーーそれからこのアルバムのもうひとつの大きなトピックスは、三宅由佳莉さんと「祈り~a prayer 2023」をコラボしていることですが、岡本さんはこれまで三宅さんの声、歌にどんな印象を持っていたのでしょうか。

岡本:イメージとしては、自衛隊の歌姫っていう大看板を背負った方だなって。ちゃんとクラシックを勉強している方というのは、お会いする前にテレビで歌っているのを見て、聴いて知っていましたし、きれいな人だなと思っていました。一度僕のコンサートを観に来てくださって、その時初めてお会いしたのですが、会った瞬間素敵な人だと思ったし、一緒に素晴らしいものを作ることができると思いました。

ーー実際に「祈り」という曲を一緒に歌ってみて、いかがでしたか?

岡本:海上自衛隊音楽隊の方が作られた曲なので、メロディが器楽的で結構難しかったですが、三宅さんのストレートなソプラノと、僕の重厚なソプラノと、全くタイプの違うソプラノ同士の声が重なって、これは面白いなって。

ーー声質も音圧も違うお二人の声が重なると、面白いというか、グッとくるものができあがりました。

岡本:自分の気持ちが、どう動きながら声になっていくのか自分でも楽しみだったし、両者に共通して言えるのは、言葉を深く追求していたということです。例えばコンクールを目指す合唱部の生徒さんたちは、同じ言葉を同じ色で表現することで声を揃える。でも僕と三宅さんはそれぞれの人生を持ちながら、合唱ではなくソリストとソリストの力強い意思というものが、ひとつの作品に集約できたと思います。

ーー二人が発するエネルギーが、きちんとパッケージされている感じがしました。

岡本:あとはやっぱり、海上自衛隊東京音楽隊の吹奏楽の音色が、弦楽器のオーケストラとはまた違ったサウンドで、でも歌と同じように息を使った音なので、彼らの思いが込められています。吹奏楽少年だった僕にとって、自衛隊音楽隊は憧れの存在なので、そんなスターの方達と共演できるなんて本当に嬉しかったです。

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