FRUITS ZIPPER、REIRIE、Juice=Juice……それぞれの想いを乗せた声出し解禁後初の『TIF』を振り返る

声出し解禁後初の『TIF』を振り返る

楽曲そのものが持つ力

<Juice=Juice>
8月4日 HOT STAGE

 暮れてゆくお台場の空とJuice=Juiceの歌声のコラボレーション。どうしようもない暑さと引き換えに訪れる、アイドルの歌声と広い空が重なる至福の瞬間。

 「Fiesta! Fiesta!」が始まった瞬間のブチ上げ高揚感で、ここから本当の夏が始まる……と改めて覚悟を決めさせてくれました。続く山下達郎カバー「FUNKY FLUSHIN'」でひたすら繰り返される〈Let’s play すてきなMusic / Let’s play 朝までDisco〉が、暑さでぼんやりした脳天に響き、極楽浄土に召される寸前です。こちらはただ立っているだけでやっとなのに、彼女たちは目の前のステージであんなにも激しく踊り正確にリズムをとり、大迫力の歌声を響かせフェイクを轟かす、しかも始めから終わりまでどんなに前髪が崩れてもずーっと可愛い。その超人的エネルギーに驚愕しながらも、どんどん紅潮してくるメンバーの頬に、確かにこの同じ暑さの中に彼女たちも居るのだと実感しました。

 昼間は下ろしていた髪をスッキリ編み込みにしていた松永里愛さんの色っぽさ、MC中に江端妃咲さんの流れる滝汗を拭いてあげる段原瑠々さんの醸し出す運動部の先輩後輩感などは、夏の野外ステージだからこそ見られる萌えポイントでした。

TIF

<PIGGS>
8月4日 SMILE GARDEN / 8月5日 SMILE GARDEN(二丁目のPIGGS)

 樹々と土埃の向こうから聴こえてきたプー・ルイさんの歌声、衝動に突き動かされる切迫感に満ちた「フォーエバー・ヤング」。初めて聴く曲でしたが、その夜ずっと耳に残っていました。

 大人になると恥ずかしくて口に出せない青臭い感情、手の届かないものへの胸掻きむしる憧れ、何度転んでも起き上がり挑戦し続ける泥臭さ。思春期のような新鮮さと、人生の悲しみと苦しみが滲み出る円熟味が両立したPIGGSの歌唱が、心の中の普段触れないようにしていた場所に、こびりついて離れなくなりました。

〈全身全霊っていつも報われないことある だけど止まらぬように〉〈いつか消えてしまうと知っても構わない 錆びついても粘れ〉(「とらえる」)

 プー・ルイさんというアイドル界の偉大な存在。その歩みの過程が、歌声、表情、佇まい全てに表れていて、気づくと涙していました。そして初めてBiSで歌う彼女を観たのも、同じSMILE GARDENのステージだったことを帰り道に思い出しました。

 かつて何度も対バンを重ねた盟友・ミキティー本物率いる二丁目の魁カミングアウトとPIGGSのコラボステージ『二丁目のPIGGS』は、ミキティー振付のBiS「nerve」のオマージュを見られて感極まっていたところに、PIGGS「とらえる」で突然涙したミキティーにもらい泣き。その歌詞に自身とプー・ルイのこれまで歩んできた道が重なったという背景を知らずとも、二組の関係の深さが伝わるパフォーマンスでした。

TIF

<IDOL SUMMER JAMBOREE ACOUSTIC>
8月5日 SMILE GARDEN

 夕暮れ時、暑さに焼かれ疲れ切った体に、アコースティックギターの涼やかな音が、水をごくごく飲み込むように染み渡っていきました。生音のヒーリング効果を全身で実感。数分間の直前リハーサルで、もうすでに場内が感嘆のため息に包まれ、「皆さん、これで満足して帰らないでくださいね~! まだリハーサルです!」と冗談めかしたアナウンスが流れたほど。

 三品瑠香さん(わーすた)×桜ひなのさん(いぎなり東北産)の「Hello, Again ~昔からある場所~」(MY LITTLE LOVER)は、オリジナルのクールで浮世離れしたakkoの歌い方とは一味違う情熱的な歌唱で、曲の新しい魅力を気づかせてくれました。

 葵うたさん(Palette Parade)×滝沢ひなのさん(NEO JAPONISM)の「JAM」(THE YELLOW MONKEY)は、二人のシアトリカルな表現に曲のドラマチックな展開がぴたりとハマっていました。

 原田珠々華さん(虹のコンキスタドール)と、弾き語り動画を見て「いつか珠々華ちゃんと一緒にやれたら」と夢見ていたという冨樫優花さん(タイトル未定)の、相思相愛弾き語りコラボレーションは「愛の花」(あいみょん)。「4年前にこのステージに立たせてもらって、今は虹のコンキスタドールで、誇りを持って歌っています!」と、語ってから歌い始めた原田珠々華さん。スタイルは変わっても、歌を愛する気持ちは変わらない彼女の、ギター少女としての姿を久しぶりに目撃できて感無量でした。

TIF

<BELLRING少女ハート>
8月6日 FESTIVAL STAGE

 日中のゲリラ豪雨によってSKY STAGEが中止になってしまい、2023年TIFのステージはこの一回きり。

 「黒い羽、セーラー服、私たちが現在のBELLRING少女ハートだ!」と高らかに宣言し、“ベルハー”というアイドル界に咲く徒花の様式美を受け継ぐ覚悟がメラメラ燃えていました。

 「asthma」のイントロが流れたその瞬間、かつて見た光景を思い出し鳥肌が立ちました。大勢の人間が一斉に作るサークル、映像や写真でしか知らなかった音楽フェス定番のこの現象を、初めて実際に目にしたのは、この曲でした。新木場STUDIO COASTのメインフロアで巨大なサークルが発生し、これだけの数の人間が力一杯ぐるぐる回ってもケガ人も見当たらず、周りを気遣う理性にしっかり支えられながら、音に乗せて体を動かすという人々の本能的な欲求が放たれる奇跡的光景。その2023年バージョンが、お台場に爆誕した瞬間を目撃しました。

TIF

来年の夏も無事迎えられますように

 年齢的にも気候的にも、野外イベントへの参加が命の危険と隣り合わせとなった2023年現在の自分は、かつてのような無茶は絶対にできません。体力の温存を最優先、暴れず踊らず声も出さずひっそりと双眼鏡片手に「観る」に集中。もうなりふり構わず暴れられないんだ……と一抹の寂しさもありました。が、今年はコロナ以降初めて声出し・ジャンプが解禁になり、解き放たれたアイドルファンが燃え上がる様を目にして、自分の心まで解放されるようでした。

 そしてステージに立つアイドルたちは一人残らず全員、常人には計り知れないほど日々努力し鍛錬し、自分の可愛さと魅力を磨き上げています。何かをコツコツと積み重ねていくことが最も苦手な自分は、その蓄積された努力に強烈に憧れています。眩しい憧れを一挙に浴びることができる場だからこそ、毎年真夏のお台場に足を運んでしまうのかもしれません。

 老眼も気になる年齢になってきましたが、OCHA NORMAのライブ後、持っていたメモの小さい文字が急にくっきり見えて、「オチャのお陰で、目が……良くなった!?」と驚きました。アイドルを見続けることで、普段は目を逸らしがちな健康・老い・憧れに向き合い、健やかに生きたいと決意を新たにできます。TIFは私の延命装置です。

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