Mrs. GREEN APPLEが讃える“一人ひとりの営み” 大航海のような10年間のストーリーが重なった『NOAH no HAKOBUNE』

ミセス『NOAH no HAKOBUNE』レポ

 ノアに方舟を作るよう告げた神は、人々の堕落を嘆き大洪水を起こしたと言われるが、この嵐は誰の痛み・諦観・絶望の表象か。荒天の中で〈涙の世界〉と歌う「Viking」から始まったMrs. GREEN APPLEとオーディエンスによる航海。日々は目まぐるしく過ぎるけど、愛を手離さないでいたいと苦心し続けたミセスの10年に様々な出来事があったように、ライブでは様々な曲が演奏されたが、そのなかで、大森・若井・藤澤のトライアングルがより強固になったように感じられたのが嬉しかった。アーティキュレーションから身振りまで全てが自由自在でしなやかな大森は、ボーカリストとしてもフロントマンとしても相変わらず素晴らしいが、今回のセットリストでは、若井・藤澤のプレイにスポットを当てるシーンが多かったように思う。おそらく、活動再開後のライブ活動やアルバム『ANTENNA』の制作を通じて、3人それぞれがパワーアップしたことを実感しているからこその判断だろう。月をバックにした藤澤のソロから「私」が始まったシーンは、『NOAH no HAKOBUNE』の中でも特に美しかった場面として私たちの心に刻まれたし、若井による速弾きを含むギターソロから、サポートメンバーの神田リョウ(Dr)とのセッションを経て、「インフェルノ」が始まったシーンも最高だった。「Feeling」や「Love me, Love you」前奏での洒脱なアプローチも含め、今の彼らのアンサンブルを聴いていると、メンバー同士支え合い、高め合う関係性をイメージできる。『NOAH no HAKOBUNE』で見せてくれたショーはバンドの域を遥かに超えていたが、こういった大規模なライブに臨むにあたって、身も心もバンドであろうとするのが彼ららしい。

 そして、会場の規模が拡大しても、観客のことを“何万人”ではなく“一人ひとり”として捉えていると大森が言っていたのは、初めて幕張メッセでライブをした2018年から変わらない。本編ラストの「ケセラセラ」の直前。結成からの10年の道のりを思っての発言だろう、大森は若井、藤澤の方を見て「なるようになったね、きっと」と投げかけたあと、「この先どういう状況に置かれても、きっとなるようになりますから。改めて、若井とりょうちゃん(藤澤)に感謝してます」と噛みしめた上で、観客に「感謝の気持ちと、みなさんへのこれからの祝福を乗せて、最後、歌いたいと思います。今日は一緒にいてくれてありがとう。僕だけが信じてるのは寂しいから、一緒に信じてくれ。なるようになるって」と伝えた。そうして演奏された「ケセラセラ」はいわば人間讃歌。高らかに歌い鳴らし、バンドの歩みを力強く肯定することは、リスナー一人ひとりの日々の営みを祝福することに直結する。

 終演後、スクリーンに「To be continued To Atlantis」という文字が表示されたように、8月12・13日には初のドームワンマン『Mrs. GREEN APPLE DOME LIVE 2023 "Atlantis"』を開催するMrs.GREEN APPLE。アリーナツアー完走のわずか1週間後にまた違うライブを開催するという驚きのスケジュールだが、きっと彼らなら素晴らしいステージを見せてくれるはずだ。今のミセスには期待しかない。

※1:https://natalie.mu/music/pp/mrsgreenapple03/

■セットリスト
01. Viking
02. アウフヘーベン
03. CHEERS
04. 私は最強
05. VIP
06. Blizzard
07. Hug
08. 私
09. StaRt
10. ニュー・マイ・ノーマル
11. Loneliness
12. インフェルノ
13. Love me, Love you
14. scenario by Siip
15. HeLLo
16. ダンスホール
17. Folktale
18. norn
19. 鯨の唄
20. 青と夏
21. Magic
22. Soranji
23. ケセラセラ
Encore
24. Feeling

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